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7-63:戦狼の目覚め 下

「……本物の天使?」

「うぅん……アレはテレサ姫だよ!」

「それじゃああれが、魔人の力……」


 テレサ姫と言えば、世界樹で魔人の力を授けられたと言われていた人に違いない。しかし、どうやらこちらの味方のようで――いや、正確には敵の敵は味方と言うべきか、彼女の眼には自分たちなど入っておらず、どうやら透明人間たちを眼の敵にしているようだった。


「消えろ……消えろ消えろ消えろ!!」


 天使に似つかわしくない怨嗟の声が響き渡り、それに合わせて崖上が炎の海に包まれていく。


「ともかく、援護しよう!」

「うん!! ……あれ? 私、武器が無いけど……」

「私がテレサ様を援護するから、ナナコは私の援護をして!」


 ソフィアは魔術杖を振り回し、テレサ姫が敵を見失わないように氷の魔術で敵を浮き彫りにし続けている。攻撃魔術を撃たないのは、機械人間どものこちらへ対する優先順位を下げるため、あえてソフィアがそうしているのかもしれないと思った。崖上のシルエットたちは、脅威度の高い天空の鳥を迎撃するのに気を取られているようだったからだ。


 とはいえ、何体かは遠距離からこちらに向けて攻撃を仕掛けてきているので、自分は敵の攻撃の気配を察知してソフィアに避ける方向の指示を送る。恐らく時間としては一分もしないうちに崖上の透明人間たちは大分数を減らしており、こちらの安全はある程度は確保できるようになってきた。


「形勢逆転してきたね! これなら……」

「……アレは……ハインライン!!」


 なんとかなりそう、そう言う前にテレサ姫は炎の翼を翻し、T3とエルが去っていった方へと飛んで行ってしまった。


「え、えぇっと? ハインラインって、エルさんの家名だよね? 二人は知り合いなのかな?」

「うん、そうではあるんだけど……あの感じはテレサ姫じゃなかった。テレサ姫なら、エルさんのことをお義姉さまって呼ぶはずだから……多分、魔人グロリアの人格が……そうなったら、どちらに加担するべき……?」


 ソフィアが顎に手を当てて考え事をしている間に、また崖の上に何者かの気配が集まってくる――顔を上げてみても、やはりそこには何も居ないように見えるが、確かに居る。


「……ソフィア、敵の増援が来てる!」

「どれくらいの数!?」

「凄くたくさん!」

「くっ……強化弾さえあれば……高威力で少しでも広範囲のケラウノスで……!」


 ソフィアがレバーを手に杖を振り回した瞬間、自分たちの目の前に紅く細長い何かが飛来してくる――それが地面に突き刺さると、ソフィアが驚いたように目を見開いた。


「魔剣ファイアブランド!? さっきテレサ姫が持ってたはず……」

「……危ないソフィア!」


 姿の見えない何者かに銃口を向けられた気配を感じたのと同時に、身体が勝手に動いていた――気が付けば剣の元まで走って、紅い刀身を大地から抜き出し、ソフィアに向けられている銃口の射線を読み――そして、掃射される弾丸が一並びになる線を見出し、それをなぞる様に剣を一閃した。


 剣を振り抜いた直後、地面に何かが落下して乾いた音を立てる。見れば、地面に真っ二つになった弾丸が転がっており、その切断面は高温で溶けているようであった。


 そして、右手に確かなぬくもりを感じ、持っていた剣を正面に掲げる――真紅の炎が燃え上がる刀身は何故だか懐かしかった。


「……アナタ、力を貸してくれるの?」


 剣に語り掛けると、剣はなお一層に炎を燃え上がらせることで応えてくれた。それに心強さを感じて、力強く柄を握り、目の前で上段から振りかぶってそのまま炎の剣を正段に構える。


「ソフィア! さっきのように吹雪で奴らの姿を現して! 私がこの子と打って出るから!」

「ナナコ!? あんな急な崖を登るつもり!?」

「うん、行ける気がする……うぅん、行くんだ!」


 決意を胸に前へと駆け出し、僅かな突起を足場を飛び移りながらほぼ垂直の崖を駆けあがっていく。先ほどの挙動でソフィアより自分に対してより警戒を強めたのか、銃口は全てこちらに向いている――進行方向においてノイズになる弾丸だけ読んで炎の剣で切り落とし、岩肌から覗く星空を目掛けて一気に跳んだ。


 崖上に落下する瞬間、辺りの温度が急激に下がっているのを感じる――ソフィアが魔術で吹雪を起こして、敵の位置を割り出してくれたのだ。中空で身を捻り、敵が一番密集している場所の中心に着地し――。


「捉えた……行くよ、ファイアブランド! 御舟流奥義、円陣輪舞活殺破!!」


 右足を軸に剣を突き出し、大きく一回転をすると、剣が唸りを上げながら炎を巻き上げ――ちょうど一周したところで止まると、何者かがその姿を現し――計八個分の上半身が地面へと落ちる音が辺りに響く。そして切断面を中心に炎が巻き上がり、金属の体すら溶かしつくすほどの高熱が辺りを覆った。


 すぐに踵を返して走り出し、崖下へと向けられている銃口を切り落とし、下にいるソフィアを見る。


「ソフィア! 私がこいつらの気を引くから! 魔術でドーンってやっちゃって!」

「……分かった!!」


 ソフィアの返事を聞いてすぐ、吹雪で僅かに視認できる機械人間達に向かって走り出し、炎の剣を振りかざす。下からも轟音を響かせて巨大な雷撃が走り、辺りにいる敵たちを蒸発させているようだった。

次回投稿は4/1(土)を予定しています!

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