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7-53:赫焉の熾天使 上

 光の筋が着弾すると、激しい衝撃と光、音とが混ざりあい、恐ろしいほどの衝撃が辺りを包んだ。着弾前から光っていたことを見るに、爆弾ではなく光学兵器の一種なのだろうが、威力としては核爆発の中にいると言われても違和感のないほどの爆発を起こしている。


 そんな中でも自分の身体が焼かれずに済んでいるのは、三人が強力な結界を張ってくれているから――爆発が終わり、しばらく土煙が晴れた向こう、アガタが辺りをきょろきょろと見回しながら口を開いた。


「皆さん、無事ですか!?」

「あぁ、なんとかな……」


 周囲を確認するアガタに向けて返答をするが、彼女は眼をパチクリさせてこちらを見ている。アガタはすぐに耳に手を当て、神経を集中させるかのように目を閉じている。


「すいません、アランさん。耳がやられているようで……今回復しているので、少々お待ちを……」


 なるほど、あの轟音の中だったのだから耳がいかれるのも普通のことだ。対する自分の体は頑丈に出来ているおかげか、すぐに鼓膜も修復されたということなのだろう。

 

「おかしいわ。こんなこと、計画にはなかったはず……」


 声のしたほうを振り向くと、レアが口元に手を当てながら何かを考え込んでいるようだった。


「おい、まさかゲンブたちに協力するっていうのは嘘で、俺たちを集めて一網打尽にするって計画だったんじゃないだろうな!?」


 レアの肩を持ってこちらに無理やり振り向かせるが、驚いたような表情を浮かべて唖然とするだけだ。恐らく、アガタと同じように鼓膜がいかれているのだろう――ふと、今度は自分の肩が叩かれた。振り向いてみると、ゲンブ人形がこちらを見つめていた。


「待って下さいアラン・スミス。それならば、レアがこの場に居るのがおかしいでしょう?」

「それは確かに……というかチェン、お前は七柱の計画とやらを聞いてるんじゃないか?」

「えぇ、彼女たちが嘘を言っていなければ、という前提ですが……しかし、彼女たちの話に嘘はなかったと思っています。そうなれば、この攻撃は恐らくルーナの独断でしょう」

「なるほど、ルーナの奴、味方もろとも全部ぶっ飛ばそうって算段か……」


 アガタがさんざに言っていた記憶があるし、どうやら七柱の中でもルーナとは相容れることは出来なさそうだ――今にして思えば、ルーナはセレナという少女に人格を投影していたのだろうし、確かにあの高慢ちきとは仲良くできそうにもない。


 そんなことを考えていると、光の筋が飛んできた方角から何かが高速で接近してきている気配を察知した。仰ぎ見ても何も見えないが、確かにそこに存在する――袖から短剣を抜き出し、飛来してくるそれの眉間を目掛けて投げつける。


 そして、投擲したナイフが空中で制止するのに合わせ、今まで視認できなかったそれが薔薇色の粒子と共に姿を現す――淡い炎のように波打つ桃色の髪、白いマントに身を包んだ少女の姿だが、背から機械の羽が突き出しており――二本の指でこちらが投げたナイフをはさんでいる。


「しぶとぉい……まるで便所の虫のようなしぶとさだわぁ。ある意味では驚嘆に値するわねぇ」


 瞳を細めてこちらを見下してくる少女は、そう言いながら口元を釣り上げた。初めて見る顔なはずだが、この気配はどこかで感じたことがある。アレは確か――。


「テメェは……海と月の塔に居た……!」

「シリアルの識別も出来ないのに個体を判別するなんて、本当に気配だけで分かるんだ……気持ち悪ぅい」


 桃色の髪の少女はそう言いながら、顎に手を当ててにやりと笑った。しかし、かつてルーナの側近として控えていたこと、また飛来してくるときに姿が見えなかったこと、極めつけに背から生えている金属製の羽を見る限りでは新手の第五世代アンドロイドなのだろうが――随分と人間に近い姿形と情緒をしているようにも見える。


 同時に、性格は飼い主に似て悪そうだ――そう思っていると、自分の背後で誰かが一歩前に出る音がした。


「ジブリール……」


 声の主はレアだった。ジブリールと呼ばれた少女もこちらから視線を外し、背後の老婆の方をまたうとむ様な眼で見た。


「お久しぶり、女神レア……いいえ、裏切り者のファラ・アシモフと呼んだ方が適切かしら?」

「どうして……ルーナは私の動向に気付いていたというの?」

「それをアナタに伝える義理は無いけれど……まぁ、耄碌した老婆のことだから、センチメンタルな感傷でおかしなことをしでかす程度には警戒されてたってことはお伝えしておくわ」


 ジブリールはそれだけ言って、視線をレアから自分の方へと向けた。

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