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7-49:虎の選択 下

「アナタの言いたいことは分かっていますよ、アラン・スミス。ですが、以前言ったように優先順位を考えて欲しいのです。高次元存在を我が物にしようとしている急進派の七柱を倒し終えたら、私もしかるべき処置を受けるつもりです」

「はぁ……なんだかそんなに謙虚なのも信用できないんだがな」

「ともかく、私たちはこの星に生きる者たちをどうこうするつもりはありません。ただ、世界を揺るがしかねない実験を阻止しようとしているだけ……そうなれば、我々の道はきちんと交わるはずですよ」

「そうだな……だが、残りの二人はどうだ?」


 そう、憂慮すべきはこの人形だけではない。残りの二人――とくにT3には問題がある。ここまでの所業ももちろんだが、何よりチェンがこちらと組む気なのに、独断で攻撃を仕掛けてきたからだ。


 せめて、コイツは詫びの一つでもよこさないか。そう思いながら銀髪のエルフを睨め続けるが、男は腕を組みながらどこ吹く風といった調子で夜空を見上げている。そしてホークウィンドもT3と全く同じポーズを取りながら押し黙っていた。


「ははは、ホークウィンド卿とT3は無口ですからね……ですが、彼らが弱き者を利用するような卑劣な輩でないことは、アナタも理解しているのでは?」


 確かにそうかもしれない――思い返せばゲンブの言うよう、二人は向かって来る者の迎撃はするが、不要な殺戮をするようなタイプではなかった。T3に関してはシンイチの件があるものの、ホークウィンドに関しては自分の見ている範囲での殺人は無かったように思う。


 最初にハインライン辺境伯領で出会った時はエルを狙っていたが、レアと組んでハインラインの器としての役目を抑えられるなら――つまり、自分たちとの敵対行動を抑えられるなら、恐らくエルに対してもこれ以上手出しをしてくることはないはずだ。


 そうなると、後は少女たちの生体チップとやらをきちんと除去できるかどうかが問題になってくる。その技を持っているらしいエルフの老婆の方を見ると、彼女は何やら冷たい目でこちらを見つめていた。


「アンタがレアか」

「えぇ……お久しぶりですね、原初の虎」

「俺の方は覚えが無いんだが……アンタは俺のことを恨んでいたりしないのか?」


 レアがこちらに関して煮え切らない表情をしているのは、自分のオリジナルが彼女に何かをしでかしたせいかもしれない――思い返せばダン、その本体であるフレデリック・キーツもそうだった。


 何にしても、レムに蘇らせられた今の自分としては過去のことは知らないし、何なら過去のことは水に流して欲しいのだが――その辺りはレアも分かってくれてるのか、諦めたようにため息をつきながら首を横に振った。


「アナタに対しては、複雑な感情がありますが……それを、クローンであるアナタに言っても仕方のないことですね。それよりも、この星に生ける者たちが自らの力で生きていけるようにしたいという想いがあることは、私もアナタと一緒です」

「……こちらから疑ってかかって悪いんだがな。元々、高次元存在を降ろすための触媒として、レムに生ける人々を利用しようとしてたんだろう? なんだって心変わりしたんだ?」

「この星に生ける者たちを作り出したのは私です。長い時を経て、自らの子供たちに愛着が生まれた……と言っても、説得力はありませんか?」


 説得力があるかないかなどは自分には判別できないが、この星に渡って三千年もの間、自分が創造した種族を見続けてきたのなら愛着が沸くのもおかしくはないか――そう思っていると、人形が浮遊してきて自分とレアの間に入り、その小さな手で老婆の方を指し示した。


「彼女の旧世界での名はファラ・アシモフ……第五世代アンドロイドや、アシモフの子供たち……レムリアの民を作り出したのは彼女です」

「ふぅん……いや、どういうことだ? 第五世代アンドロイドって機械だろう? レムリアの民は生身だし、両方作ったって言われても違和感があるが……」


 機械と生物となれば、必要な専門知識が異なるのではないか。とはいえ、悠久の時の中を生きてきた彼女たちには、それを学ぶ十二分な時間があったというだけかもしれないが。


 ともかく、細かいことは合流してから聞いてもいいかもしれない。何より、レアと組めれば少女たちを事実上人質に取られているという制約が無くなるのは大分ありがたい。この先どうなるかはひとまず置いておいても、一旦はゲンブたちに合流するのも悪くなさそうだ。


 とはいえ、少女たちからしてみれば倒すべき邪神の使途と言われているゲンブたちと合流するのは、説得に苦心しそうではありそうだが――レアとアガタが居ればなんとかなるか。そうと決まれば早速少女たち――。


「……イヤな感じがする」

「何……?」


 音も気配も感じるわけではないが、急激に自分の神経を襲った不穏な感じ。T3は何も感じていないのか、腕を組みながら自分の言葉に眉をひそめた。


 しかし、突如耳元を手で抑えていたアガタが血相を変えた。


「アランさんの言う通りです! 皆さん、私の側へ! レア様、チェン、七聖結界の準備を!!」

  

 アガタの言う通りに一同は広場の中央に集まり、結界を張れる三人が周囲に立って両手をかざす――北の空に何かが煌めいたと思うと、その光は瞬く間にこちらへ飛来してきてエルフの古都に直撃し、結界の外で巨大な火柱を巻き上げ始めたのだった。

次回投稿は3/14(火)を予定しています!

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