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7-48:虎の選択 上

 振り下ろしたカランビットナイフの刃は、人形の小さな掌から生じる陣によって止められてしまった。


「ふぅ……間に合いました。どうしてこう、アナタ達は血の気が多いんですか?」


 展開される結界の奥、人形の掌の向こう側で、T3は銀髪の間から鋭い視線でこちらを睨み続けている。


「T3、刃を収めなさい。アラン・スミス、アナタも収めてくれると助かります」

「手を出してきたのはソイツだ……先にひっこめてくれなきゃ、怖くてこっちも爪を引っ込めらんねぇ」

「はは、仰る通り……T3、早く引くのです」


 ゲンブに繰り返したしなめられて、T3は手斧で結界を弾いて距離を取り、外套へそのまま斧をしまい込んだ。それを確認してからこちらも同じように武器を収める。


「それで? わざわざ止めに入ってきたんだ、話をする気はあるってことだろうな?」

「えぇ、えぇ、仰る通り。端的に言いましょう、我々はレムとレア、二柱と手を組むことになりました」

「……なんだと?」

「細かいことは、合流してから話せば良いでしょう……セブンスも連れてきてください。それに、三人のお嬢さん方も。大丈夫、ピークォド号に居る間はルーナの精神干渉も受けませんし、彼女たちの脳内に埋められた生体チップの機能を抑えるのもレアが居れば可能ですよ。

 それに何より、思考を読むレムがこちらに居るのですから、移動中の危険もありません」


 なんだか唐突なことで、一瞬人形が何を言っているのか理解できなかった。しかし、コイツが言っていることが真実であるとするならば、事態としては大分シンプルになる――要するに、自分が想定していたように倒すべき七柱と手を組める七柱が居て、それらが剪定せんていできているのなら、一旦はゲンブたちと手を組んで倒すべき相手と戦うのは悪くない。


 何より、一番の懸念である三人の少女たちの身柄の安全が確保できるのは相当にありがたい。もちろん、T3やゲンブの今までの所業を考えれば単純に手を組むのもどうかという考えもあるが、それは敵対する七柱を倒してから考えたっていいはずだ。


 だが、この人形が言っていることが本当とは限らない。ハイエルフ達の話を聞く限りでは、コイツがアガタたちの身柄を拘束しているのだけは確実だが、本当にレムと手を組んだという確証はない――そう考えれば、この話を鵜呑みにするのは危険とも言えるだろう。


「お前の言うことが本当だという確証が欲しい。そうでなければ、俺たちはむざむざと敵地に招かれるリスクを背負うことになる」

「そう言うと思っていましたよ。そのために、アガタ・ペトラルカに御同行を願っているのです……待っていてください、今彼女を呼んできます」


 ゲンブが振り返ると、腕を組んで佇んでいたホークウィンドが頷き、一足飛びで先ほど何かが光った建物の方へと跳躍していった。


「私たちも移動しましょうか。ここは誰かさん達が無駄に暴れたせいで何かと誇りっぽいですし」


 確かにゲンブの言うよう、自分が近くの建物を破壊してきたせいで、この辺りは粉塵も舞っている。もう少しすれば落ち着くだろうが、向こうがこちらに来るのに合わせてこっちも移動してもいいだろう――背後からT3に睨まれる気配を感じながら集落の中央部分の方へと移動していると、向こうから三人分の人影が移動してきた。


 先頭に立つのはホークウィンド、その背後にはアガタ・ペトラルカともう一人、初めて見る老婆がいる。老婆と言えども背筋はピンとしており、スラっと長いシルエットに長い髪、そして長い耳――恐らく、彼女が噂に聞くレア神だろう。


「アガタ、大丈夫か?」

「えぇ、問題ございませんわ……ゲンブから聞いているとは思いますが、捕らえられて居た訳ではございませんから」

「本当か? その、疑うわけじゃないんだが……」


 話している感じではいつものアガタであるように見えるモノの、彼女が現在、正気かどうかが若干怪しい――実際、ナナコはゲンブたちに操られていた訳だし、恐らくその原因であったサークレットがアガタの頭にあるのだ。そうなると、今の彼女は正気ではなく、操られていている可能性を考慮しなければならない。


 そう思っていると、アガタはサークレットを叩き始めた。


「……レムが言っています。今、アランさんはこのサークレットのせいで私が操られていると懸念していらっしゃると。これは、何かあった時の一応の対策です。この密会がおファックなルーナに見られたときに、操られていたという言い訳が立ちますからね」

「はぁ、なるほど……いや、確かに操られていないみたいだな」


 自分の思考をぴたりと言い当ててきたのはレムと通信している証拠だろうし、口調も元々の彼女らしいものだ。何より、眼の光が本物だと言っている――髪と同じ薄紫の瞳、その奥に煌めく光が、以前に見た彼女の意志の強さと一緒だった。


「ふぅ……それでアガタ、レムの奴はなんでゲンブたちと組むことにしたんだ?」

「それを決めたのは他ならぬアランさん、アナタだと伺っていますが?」

「……はぁ?」

「そうですね、少々誤解のある言い方だったかもしれません。レムがアナタを蘇らせたのは元々、ゲンブと……チェン・ジュンダーと手を組むかを決めるためだったのです。この世界の歪みは、かつて敵であったゲンブたちと組んででも正すべきものなのか否か……レムはその裁定をアナタにしてもらおうと思っていたのですよ」

「確かに、何度も悩んだよ。ゲンブたちと手を組んで、七柱と戦うってことをな。ただ、決断はしていなかったはずだが……」

「えぇ、その通り。ですが、アナタは王都襲撃や魔族の間引きが無ければ、おそらくすぐにゲンブ達と手を組んでいたはずです。

 そうなった時に、この星に生きとし生ける者達を救うのであるならば、レムはゲンブたちと手を組むほか無いと考えたのです……この星の人々を世界の歪みから救い出したいという気持ちは、アナタもレムも変わらないのではないですか?」

「あぁ、その通りだ」


 アガタの、そしてその背後にいるレムの言葉に対して自分は頷き返す。しかし、それはゲンブたちと直ちに手を組めるということを意味しない。こいつらの真意が分からなきゃな――そう思いながら人形の方へと振り返ると、ゲンブ人形はこくこくと頷いていた。

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