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7-39:賢人十三人集 下

「それで? ゲンブたちは何処に居るんだ? まさか、ここに迎えに来てくれるわけじゃあないだろう?」

「うむ……ジャングルを更に抜けた海沿いに、世界樹に移り住む前にエルフたちが使っていた古の集落がある。そこに、アラン・スミスとセブンスの二名だけで来いとの指示だ」

「なるほど、それじゃあ、とっと向かうか」

「待て、セブンスはこの場に留まってもらう」


 居心地の悪い部屋からさっさと退散しようと振り返ると、背後からソルダールに引き止められた。


「どうしてだ? セブンスとレアの引き換えなんだろう?」

「いいや、そもそもレアの生死が不明だ……彼奴等、人質にすると見せかけて既にレアを亡き者とし、セブンスを回収するつもりやも知れぬ。同時に、セブンスは危険な存在だ……それをゲンブたちの元に返すわけにはいかぬ」


 ソルダールの言うことも一理ある。先ほどその場でレアを殺害しなかったことに違和感はあったが、セブンスを回収するために人質にすると見せかけて、実際は葬っている可能性もゼロではないだろう。


「それで? ナナコをここに置いていくとして、どうするつもりなんだ?」

「どうもしない。ただ、安全な場所で待機してもらうというだけだ……そもそも、貴殿らがここを目指した理由は、セブンスの生体検査を行うためだろう。我々としても、彼女の正体を知らなければならない……確かに、夢野七瀬にそっくりな外見をしているからな」


 そう言うソルダールの表情も声も冷静そのものだが、その腹の内には何かどす黒いものがあるのを感じる――そもそも、彼がレアのことを信用して大切に想っているのなら、仮に死んでいる可能性を考慮したとしても、生きていることを信じてナナコを連れて行くように指示するだろう。


 ということは、コイツはレアが死んでいたとしても何とも思っていないのだろう。それ故に、ここにナナコを残すのは危険だ――自分の直感がそう告げている。元々は敵対関係にあった少女ではあるが、サークレットを失ってからのナナコは善良そのものであり、危険な目には会わせたくない。


「いいや、ナナコは連れていく。レアが生きている可能性に賭けるべきだし……エルフであるアンタたちには関係ないのかもしれないが、こちらとしてはアガタとテレサの命もかかってるんだ」

「では、セブンスを奪われてもいいというのか?」

「何言ってんだ。ナナコを渡すつもりもないぜ……ここで決着をつけてやればいいだけだ」


 そう言いながら右の拳を左の掌に当てて、室内に乾いた音を響かせる。自分の言ったことの意味を誰一人として理解してくれていないのか、一同訝しむ様な表情でこちらを見ている。


「なんだ、俺は古の神々を倒すためにレムに蘇らせられた勇者なんだろ? そんな意外そうな顔をされるなんて心外だぜ。だが、最後の交渉札としてナナコを連れていきたい……人質のようで悪いが、ナナコ、問題ないか?」


 ハイエルフたちを説得する時間は無駄なので、本人に確認を取るために振り返ると、ナナコは良い笑顔で頷き返してくれた。


「はい! むしろ、私も着いて行きたいです! ゲンブさんたちが何を考えているのか、私も知りたいから……!」


 人質扱いしたというのに、ナナコは一切の嫌悪感も躊躇も見せない――同時に、少女の真実を知りたいという覚悟も本物なのだ。


「ナナコの厚意と決意を裏切る訳にはいかないな……俺の命に代えても、君を危険な目には会わせないようにするよ」

「アランさんカッコいい!! 頼りにしてます!!」


 ナナコは手を両手を合わせながら再び満面の笑みを見せてくれた。ソフィアが一瞬むっとした表情をしたのが気になるが、ともかくハイエルフたちにグタグタと言われる前に、少女をここに置いて行かない旨を伝えなければならない。


「ということだ。本人も行く気なんだし、ナナコは連れて行くぞ。検査は、俺が立ち会える時にしてもらうよ」

「……良かろう。貴殿の強さが本物なのか、それともハッタリなのか、見せてみるがいい」

「自分で言うのもなんだが、ダンのおかげでそこそこ頼りになるようになったと自負してるよ。それで、古のエルフの集落とやらの場所はどこだ?」

「先ほど言ったように、川を下って海の近くまで出ればすぐだ。下流までは若い者に船頭をさせよう。だが、今日はもうじきに日が暮れる……世界樹に泊まっていき、明日の朝に発つがいい」

「あぁ、そうさせてもらうよ。ちなみに、ベッドは用意してもらえるんだよな?」


 椅子を用意してもらえなかったことを皮肉に返したつもりだが、ソルダールは眉一つ動かさずに「無論」と返してきただけだった。嫌味の通じないやつだ――そう思いながら自分たちは室内を後にした。

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