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7-38:賢人十三人集 中

「今から一週間ほど前、古の神々であるゲンブたちの襲撃を受けた。果敢な防戦も敢え無く、レアと防衛に参加してくれていたアガタ・ペトラルカとテレジア・エンデ・レムリアの三名が捕らえられてしまったのだ」

「それは下でも聞いてるぜ……しかし、それは妙なんだ」

「……妙とな?」


 老人の白い眉が釣り上がり、ぎょろっとした瞳がこちらを見据えてくる。


「あぁ。ゲンブ一派なら、間違いなくその場でレアを殺害しただろう……併せて、アンタたちもね。ここと同じようにガングヘイムも狙われたが、奴らはヴァルカン神の居場所に問答無用で攻撃を仕掛けていた。それこそ、七柱の創造神を生け捕りにするなんて考えはないみたいにね」

「だが、事実としては生け捕りにされたのだ」

「まぁ、俺はその場を見ていないから確実なことは言えないが……もしレアがさらわれたというのなら、それはゲンブ一派に相応の理由があったに違いない」


 そう、ゲンブ達が――とくにT3がここに来たというのなら、七柱であるレアを間違いなく殺害しただろう。アイツはエルに対し、自分なら仇を見たら迷うことなく殺すといったのだ。


 もちろん、ここはアルフレッド・セオメイルの故郷であるし、妙な情が沸いたという可能性はゼロではないが、ゲンブだって手を組めるか分からない相手は潰すしかないと断言していた。そうなるとレア神を生け捕りにするというのは違和感がある。


 同時に、先ほどソフィアが言っていたこと――新たな第三勢力が居るかもしれないということが今更ながらに気にかかる。仮にソフィアが言ったことが正解でなくとも、何かそれに近いことが起きているのも確かなのかもしれない。


 そう、キーになるのはアガタとテレサのように思う。アガタはレムの声が聞こえるし、何故に失意の底にいたテレサを連れてここまで来ていたのか。そこに今回の問題に関する解決の糸口があるような気もするのだが――明確な答えは出ないままだ。


「……奴らの狙いは、セブンスだ」


 ソルダールはそう言いながら、自分の背後にいる銀髪の少女の方へ視線を向けた。


「今朝がた、ゲンブ一派より連絡が入った……レアとセブンスを交換にしようという打診がな」

「なるほどね」


 一応、それはもっともらしい理由であるようには思う。要は人質交換を打診するために、ゲンブたちはレアを生け捕りにしたと。だが、それだけでは納得しきれないこともある――それを自分が口にする前に、ソフィアが自分の隣へと歩み出てきて、ハイエルフたちに一礼した。


「申し訳ございませんが、質問をさせてください。ここに来るまでに、世界樹の至る所が火災の被害にあっているのを見受けました……その炎の使い手は誰だったのでしょうか?」

「防衛のための精霊魔法だ。それにより被害が……」


 横にいる一人が話しているのをソルダールが手で制止した。恐らく、適当なでまかせはこちらに――とくにソフィア・オーウェルには通用しないと判断したのだろう、ソルダールは准将殿をじっと見つめながら話を始める。


「テレジア・エンデ・レムリアだ。彼女が古の神々と戦うために放った炎が世界樹を焼いたのだ」

「テレサ様が? どういうことですか? 彼女は魔術を使える訳でもありません。それなのに炎を放ったとは……」

「グロリアハンドというものがある。神話代の魔神を封じ込めたそれを、ルーナがテレジア・エンデ・レムリアに授けたのだ」

「古代の魔神……それは何者ですか?」

「その者の名は、遺品に由来する通りグロリア……旧世界においてレア神の娘だった者だ。だが、その娘は七柱の創造神を裏切り、古の神々の側に立って戦ったのだ」

「そ、そんな……レア神も心苦しかったでしょうに……」


 クラウが悲痛気に呟くと、室内に一瞬だけ静寂が訪れる。そしてその静寂はソフィアによって破られた。


「しかし、レア神の娘は、何故七柱の創造神を裏切ったのでしょう?」

「かどわかされたのだ、邪神ティグリスにな」


 そう言いながら、ソルダールは自分の方を盗み見た。悪いことはなんでも邪神のせいか、と突っ込もうとも思ったが、その視線はそれ以上の意味を含んでいるように感じる――最初は皆が知っている名前で誤魔化そうとしたのだと思ったが、もしかすると本当に自分のオリジナルが何かをしでかしたのかもしれない。


 ソルダールはこちらから視線を外し、改めて質問をしている少女たちの方へと向き直った。


「古の神々との戦いの末、魔神グロリアはアルジャーノンによって倒された。そして、我が娘の裏切りを心苦しく思ったレア神は、その魂を滅することをせず、代わりに封印したのだ。

 そして、グロリアハンドは持つものに魔神の力……炎と飛翔の力を授ける。先代勇者シンイチの仇を取るため、テレジア姫は魔人の力に手を伸ばしたのだ」

「なるほど……世界樹が燃えていたのは、あの子が飛翔しながら炎を放ったからということね。しかし、温厚なテレサが、エルフたちの住む世界樹に向かって攻撃を放つとは考えにくいのだけれど……」


 そう呟くエルの声は低い。優しく温厚な義妹が凄惨な光景を作り出したと言われれば、違和感と同時に信じがたい想いがあったのだろう。先ほど自分がなんでも邪神のせいかと思ったのと同様、エルも他人事のようにテレサのせいにされたのに苛立ちを感じているようだった。


「グロリアハンドには魔神の魂が封印されている。そのため、魔神による精神干渉があり、破壊衝動をコントロールできなくなるのだ」

「随分と危険なものを授けるんだな、ルーナ神は」


 そう思わず呟くと、再び老人一同に忌々しげに睨まれる。しかし、今のは確かによくなかった。クラウの信じる神に対して悪態をついてしまったのだから。少し様子が気になって振り向いてみると、クラウは怒っているというより困惑したように手で口元を抑えている――流石に慈愛の女神と呼ばれるルーナの真意を計りかねて困っているようだ。


 そんなクラウをよそに、再び聡明なソフィアが毅然とした表情で口を開いた。


「それだけではありません。魔神が封印されていたということは……いくらレア神の娘と言えど、古の神々の側に立って戦った魂であるのなら、ゲンブたちと合流させるのは危険なのでは?

 むしろ、それ故にグロリアハンドを持つテレサ姫もゲンブたちは連れ去ったのではないでしょうか」

「……魔神の魂の封印を解くことは、レア神も懸念していたことだ。その封を解くのを決めたのはルーナとアルファルドであり、その真意は不明だ」


 片方は聞き馴染みのある名前だが、もう片方のアルファルドには自分はあまり馴染みがない。もしかすると魔族たちやティアに魔法を授けているかもしれない神かもしれない以外、あまり情報のない神だったか――暗躍が得意そうな分、厄介そうな相手だ。


 自分の背後で、「ルーナ様のことですから、きっと何か深い意図があるに違いありません……」とクラウが呟くのが聞こえた。慈愛の女神が魔人の力を知り合いに授けたのが納得いかないのだろうが――ともかく、ここで下手な詮索をしても仕方がない。本人たちに会いに行けば事実も分かるはずだ。

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