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7-33:世界樹への旅路 下

「それは分からないなぁ……きっと、どっちが正しくて、どっちが間違えているって無いから。みんなそれぞれ、自分が正しいと思ったことを、一生懸命に頑張っているだけ……でも……」

「でも……?」

「皆の事情が分かれば、自分のすべきことが分かるような気がするんだ。七柱の創造神も古の神々も、私なんかよりもずっと頭が良くて、色々考えた上で行動してるんだと思うけれど……でも、誰かを悲しませるようなことをしてしまうのは……それだけは絶対に違うの」


 言葉を切ると、ナナコの口元から笑みが消える――同時に、深い暗褐色の瞳でまっすぐに、質問をしてきている金髪の少女を見据えた。


「だから、私は真実を知らなくちゃいけない。神様たちの事情を理解したうえで、戦いを止めるように説得してみるんだ。それで、もしお互いに戦うことを止められないようなら……私はきっと、どっちとも戦うよ。喧嘩両成敗、だね!!」


 最後には、また緊張感のない笑みがナナコの顔に戻ってきた。しかし先ほども思ったが、ナナコはなんだか自分に近い感性を持ってくれているような気がする。彼女は七柱の監視下に無いだろうし、そのうちこっそりと自分の知っている範囲のことを伝えてもいいかもしれない。


(……いや、流石にそれは早計か)


 今でこそのほほんとしているモノの、いつどこで記憶を取り戻し、ゲンブたちの元に戻ってしまうとも限らない――サークレットで操られていたという説が濃厚だが、それだって確実とは言い難い。


 もちろん、自分が持っている範囲の情報はゲンブだって知っているだろうし、ナナコに話したところでそんなにリスクもないかもしれない。同時に、ナナコの――セブンスと名乗っていた少女の、もっと言えば夢野七瀬という少女の本質はこちらであるように思うから、むしろ真相を知れば彼女も自分の味方になってくれる可能性もあるように思う。


 だが、やはり伝えるにはソフィアたちに聞かれるリスクもあるし、何よりこんないたいけな少女を旧世界から続く血みどろの戦いに巻き込むのも違うだろう。ソフィアを護るために棒一本で魔族を威嚇するだけの剣の腕は本物だし、実力があるのは間違いないのだが――実力があるからと言って、危険なことへと誘いこむのは避けねばなるまい。


 しかし、ソフィアはナナコの言葉をどう受け取ったのか――しばらく川の方を見て黙っているが、返すべき言葉を見つけたのだろう、ソフィアも顔を上げた。


「ナナコ……エルさんやクラウさんには、そういうこと言ったらダメだよ?」

「ほぇ? どうして?」

「あの二人は、私と比べると信心深いから……私はナナコの言い分は理解できるけど、創造神と戦うだなんて言いぐさは、納得できない人も多いはずだよ」

「そっかぁ……確かに。でも、ソフィアとアランさんなら大丈夫?」

「私とアランさんにも、あまり話さないで。誰に聞かれるとも限らないから……」


 ソフィアはナナコに対してそう言って後、何故だか突然自分の方へと振り返り、意味深にニッコリと笑う。その瞬間、なんとなしにだが、ソフィア・オーウェルは自分が想像している以上に核心に近づいているのではないか――そう思わされた。


 思い返せば、ソフィアは元々アレイスターの下で師事を受け、この世界の体制に対して懐疑的な意見を持っていたはずだ。それが近頃は、妙に創造神万歳というか、以前の客観性が欠けていたように思っていたのだが――実態としては、本心を押し殺して、従順なふりをしていただけなのかもしれない。


 そう、彼女はジャンヌ・ロペタの豹変を見ているのだ。同時に、神々の目を欺くためにはどうすればいいのかと自分に質問してきていた――実はソフィアは、ジャンヌを破滅の道へと落としたのは七柱の創造神ということに気付いているのではないか? 


 同時に、自分が次の標的にならないよう、彼女も上手く立ち回りながら情報を集めているのかも――学院の英才、稀代の天才ソフィア・オーウェルなら、それくらいのことをやってこなすのかもしれない。

 

「ソフィア……?」


 真意を知るべく、少女の名前を呼ぶ。するとソフィアは口元に人差し指をあて、可愛らしくウィンクをして見せた。


「それこそ、クラウさんやエルさんに聞かれたら困るもんね?」

「……あぁ、そうだな」


 言葉こそは無難だったが、今の所作にはそれ以上の意味が含まれているように思う。もちろん、自分から変に伝えることもないが、やはりソフィアはこの世界の歪みについて気付いている、そう確信させてくれた。


 こちらが深く頷き返したことで、ソフィアはまた微笑みを浮かべて頷いてきた。そして編み込みを揺らしながら再びナナコの方へと振り、人差し指をピン、と上げながら話し出す。


「ただ、事情を知らないとっていうのは賛成だよ! きっと私たちは、知らなきゃいけないことがたくさんあるから」

「それじゃあ、ソフィア! 協力してくれるの!?」

「うぅん、協力するというか、私は私で勝手に情報を集めるから、ナナコは私に着いてきたら分かるかも、みたいな?」

「あ、あははぁ……ソフィア、相変わらず私に対して辛辣……」

「もう、そんなこと言うんだったら、もう何も教えてあげないよ? せっかく、私の知っている範囲のことをナナコに話そうと思ってたのに……」

「えぇ!? そ、それは是非とも聞きたい……!」

「それじゃあ、変なこと言ったらダメだよ? それに、私が知っている範囲のことだけだから……」


 ソフィアが話すことなら、情報の取捨も上手いだろう。それこそ、自分が見てきたことをナナコに伝えるより分かりやすく話してくれるに違いない。それなら、この場はソフィアに任せてもいいだろう――もう一つ、線上に乗ってから気になっている相手が居るので、自分は彼女の方へと向かうことにした。

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