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7-32:世界樹への旅路 中

 船着き場にいるエルフたちは自分たちを歓迎してくれた。普段は人里離れ、レムリアの民と距離を取って生活している彼らだが、自分たちが十人目の勇者であることを知らせるとすぐに事情を教えてくれた。


 曰く、古の神々の襲撃があったのが四日前で、世界樹の上層で激しい戦闘が行われたこと。同時にレアは人質にとられ、戦闘をしたアガタとテレサも同時に連れていかれたとのことだった。


「……テレサ様、来てたんだね」

「ソフィア、テレサ様って誰?」


 熱帯雨林を蛇行する川の上、船上でソフィアがぽつりと呟いたのに対し、その隣でジャングルを見ていたナナコが質問した。


「テレサ様は、レムリア王国のお姫様なんだけれど……先代勇者であるシンイチさんを失ってから引きこもっていたから、まさか邪神討伐に参加されているとは思わなかったなぁって」

「う、うぅん? お姫様が戦場に立つっていうのも違和感があるんだけれど……」

「えっと、そうだね。その辺りの説明もしないと分からないかな」


 ソフィアが今までの状況、とくにテレサを筆頭に旧勇者のパーティーについてと、王都襲撃についてをナナコに説明しだした。この辺りはソフィアは容赦が無いタイプというか、かつてセブンスと名乗っていたナナコが王都を襲撃し、同時に時計塔を吹き飛ばし、学長ウイルドを亡き者にしたことまでを説明した。


「……そっか、私はそんな酷いことをしてしまったんだね」


 話が終わると、ナナコは川の流れを見ながらそう呟いた。ソフィアから話を聞いている途中から目に見えて気落ちしていたし――自分も彼女と近い経験をしたからわかる。記憶を失う前の自分が人殺しであったという事実を突きつけられる時の動揺というものが。


 記憶が無いせいで他人事のように感ぜられつつ、同時に記憶を失う前の自分が非道な人間であったのではないかという恐怖に、記憶が戻った時に残酷な衝動が戻ってくるのではないかという不安――そして何より、人の命を奪うという、取り返しのつかない過ちを犯してしまっているという絶望感。そういった感情が、今の彼女に――自分よりも余程幼い彼女の胸に去来していると思うとやるせないものがある。


「ナナコ、大丈夫か?」

「えへへ、はい、大丈夫ですよ。むしろ、ソフィアたちが私のことをえらく警戒していた理由も、今更ながらに納得できました」


 ナナコはそう言いながら気丈に笑った。彼女の幼い顔は無気力に見えつつも、どこか芯の強さも感じる。大丈夫というのは嘘ではなく、すでにある程度の心の整理を済ませているのかもしれない。そうなったら、自分よりもナナコは精神的に強いと言えるかもしれない。


「……ナナコも操られていただけだから。責任能力は無かった訳だし、裁判をしても無罪にはなると思う」


 ソフィアも言い過ぎたと反省したのか、珍しくナナコに優しい言葉をかけている――いや、裁判云々は気持ちに寄り添っているわけではないし、優しいというのも少々違うかもしれないが。


 ナナコも自分と同じ考えなのか、ソフィアに対して苦笑いを返した。


「えぇと、そういう問題じゃない気が? いくら操られていたとしても、私が危険な存在ってことは変わりないわけだし、裁判で許されるのも違うと思う。むしろ、私がしなければならないのは償いだよ」

「……記憶が無かったことに対して、責任を持つの?」

「あはは、うん……逆に記憶が無いから実感が無くて、こんな風に軽々しく言っちゃうだけかもしれないけれど。でも、一つだけ確かなことがある……それは、この世界に重大な危機が迫っていて、多くの罪のない人が巻き込まれてしまっているということ」


 銀髪の少女は再び水の流れに視線を戻す。しかし、先ほどは物憂げに見つめていたのに対し、今度は考え事をするように口元に手を当てながらじっと水面を眺めている。


「でも、どうしてゲンブさん達は七柱の創造神たちと戦っているんだろう?」

「それは、復讐のためって言ってたけれど……」

「逆を言えば、七柱の創造神たちも、古の神々に酷いことをしたってことだよね?」

「う、うぅん、それは……」

「それに、アルフレッド・セオメイル……その人は、元々勇者と一緒にいたのに、ゲンブさん達に加担してる。

 もちろん、そのアルフレッドさんがエルさんのお父さんやシンイチさんって人を殺したことが許されるわけじゃないけれど……元々は世界平和のために戦った人が、今は世界を混乱させる側に加担している。それには、きっと事情があるんだと思う」


 ナナコはそこで言葉を切って、自分とソフィアの方を見つめてきた。


「だからきっと、私は知らなくちゃならないんだ。自分がなぜ、セブンスと名乗ってゲンブさん達に加担していたのか……そしてなぜ、神々が争っているのか、その理由を」


 そういう少女の顔には、どこか強い意志を秘めた笑顔が浮かんでいる――七柱の創造神に造られた存在でないおかげが、ナナコはこの世界の在り方を客観的に観れているようだ。それはある意味、自分にとっては味方が出来たような心地がして、なんだか心強い。


 しかし実際、ソフィアから話を聞いただけでここまでの心境に至るとは、ナナコは自分が思っている以上にしっかりしているのかもしれない。正確には邪念がない分、思考が単純というべきなのかもしれないが。


「……もし、事情が分かったとして。もし七柱の創造神が間違えているってなったら、ナナコはどうするつもりなの?」


 そう質問するソフィアの声は低かった。この世界に生まれ落ち、自分が信じていた神に反抗する可能性があると示唆されれば、ソフィアから緊迫した空気が出るのも致し方なしか。対するナナコは、そんなソフィアの調子などどこ吹く風と言った調子でたはーっと笑った。

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