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7-30:草原での雑談 下

「うぅん、そうですねぇ。私、アランさんのことを近所のお兄さんって感じに思ってるんですけど」

「なんだか唐突な告白だなぁ。なんだ、近所のお兄さんって」

「親しみやすいって感じのことですよ! でも実際、なんとなくアランさんってお兄ちゃん気質ですよね。面倒見が良いというか、良い感じに隙があると言いますか。その隙のおかげで親しみがあるんですよねぇ。

 実際、妹さんがいるんじゃないですか? 年下の女性の扱い方、上手いと思いますし」

「なるほど……なるほど?」


 分かるような感じがして一瞬納得しかけるが、冷静に考えるとナナコの理論は同時によく分からないような気もして思わず聞き返してしまった。


 とはいえ、実際に妹が居たと言われたことに関しては、なんだか妙にしっくりくる。そもそも、自分が彼女たちを妹みたいに思っていると思ったのも、元々自分に妹が居て、その感じを彼女たちに重ね合わせていたのかもしれない。


「……そう言えば、ナナコも、記憶を失う前のセブンスも、俺とどこかで会ったような気がするって言ってたな。もしかしたら、ナナコの近所に住んで居たお兄さんに俺が似ているのかもしれないな」

「なるほど、そういう感じかもしれません! だから私も、自然と近所のお兄さんって言葉が出てきたのかも?」

「むしろ、実はナナコは本当に俺の家の近所に住む子だったのかもしれないな」

「そうだったら素敵ですねぇ。でも、お互いに記憶がありませんから……」

「真実は闇の中、だなぁ」


 そう、かなり低い可能性だが、あり得なくはない話だとも思う。今でこそ白に近い銀髪というなかなかお目にかかれない髪色をしているが、ナナコという名前が本人にとってしっくり来ていること、また瞳の色などを見れば、自分とナナコは同郷のように感じられるのだ。


 もちろん、同郷としても国単位で見れば何千万という人口が居た訳だし、同じ国の中というだけでも近くに住んで居た、などという可能性は低いのだが――しかし、少ししてその僅かな可能性すら無かったと思い直すことになった。


 というのも、仮に彼女がナナセ・ユメノのクローンだとして、その少女も恐らくだが七柱に造られた存在と考えるのが自然だからだ。対して自分は、べスターやレム、ゲンブの言葉を聞く限り、確かに旧世界に存在していた――そう思うと、自分とナナコが同じ時代、同じ場所に存在するのは、きっと今が初めてなのだ。


 ナナコはこちらが何を考えているなど露にも知らぬ様子で、満面の笑みを浮かべながらこちらを見ていた。


「それじゃあ親しみを込めて、今度からアランさんのことをお兄ちゃんって呼んでいいですか?」

「何がそれじゃあなのかは良く分からないが……」

「えぇ、呼んだらダメですか? なんというか、ソフィアと呼び方が被ってちょっと惜しいなぁって思ってたんですよ」

「そこに関して惜しいという感性が生じる君の脳内構造を理解できないんだが……まぁ、別に好きに呼んでくれて構わないぞ」

「それじゃあ、えへへぇ……お兄ちゃん!」


 小首を傾げ、満面の笑みでこちらを見上げてくる銀髪美少女。その子が自分に向かって、自分だけに対して、お兄ちゃんと呼んでくれている――これが和を以て貴しとなす精神、人間の根源にある真理、つまり――。


「……強い!」

「えぇ!? 私のお兄ちゃん、強かったです!?」

「あぁ、大分効いた……だが……」

「だが?」

「絶妙にしっくりこない……」


 危うく自分もロで始まってコンで終わる奴になりかけるほどの衝撃が走ったが、実際に自分の胸中に浮かび上がってきたのは違和感だった。胸はきゅんきゅん、心はぴょんぴょんしたのだが、なんだか少し違うような気がして、心の奥底から美少女のお兄ちゃんを受け入れられない自分が居るのだ。


「ふぅ……それじゃあ、今まで通りにアランさんって呼ぶことにしますね? しっくりこないのに呼び続けるのも変ですし」

「そうだな。やっぱり血縁関係がないのにお兄ちゃんって呼ばせるのは事案っぽいしな」

「じあ……?」

「いや、大丈夫、こっちの話だ……さて、薪も集まってきたな。そろそろ戻るか?」

「はい、そうですね……あ! また結局脱線しちゃいましたけど……それで結局、とくに好きな人は居ないってことで良いんですか?」

「あぁ、そうだな」

「なるほどぉ、了解です!」


 ナナコは両腕にたくさん薪を抱えたまま、キリッとした顔で応えてきた。


 野営地に戻ったあと、ナナコとソフィアは二人で固まってなんだか楽しそうに談笑をしていた。いや、正確にはナナコがグイグイいっているだけのようにも見えたが、所々ソフィアも満更ではなさそうな顔をしていたのできっと仲良くなっているに違いない。


 だが翌日、クラウとエルに「良い趣味してますね?」だの「不潔」だのなじられてしまった事に関しては、冤罪だと声高にして叫びたかった。

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