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7-29:草原での雑談 中

 日が沈む前に拓けた場所に陣取り――どの道身を完全に隠せるような入り組んだ場所もないので視認性の良い場所を選んだ。野営の準備を始め、自分は薪を集めるために散策に乗り出した。


 そして、自分の散策の背後に一つの気配が着いて来ている――その正体は分かっている、ナナコだ。

 

「俺と仲良くしちゃダメなんじゃなかったのか?」

「それはそのぉ、先ほども言ったように色々と事情がありまして……!」

「その事情とやらを教えてほしいんだがな?」

「そ、それは言えないんです……」

「でもそれじゃあ、俺もどうナナコと接すればいいか分からんしなぁ」


 別にナナコのことを悪く思っているわけでもない。むしろ、彼女の表裏のなさや人の良さから察するに、悪意を持っている訳でないのは分かっている。とはいえ、どう接すればいいか分からないのは事実だし、何よりあまりに素直すぎて、少々意地悪がしたくなるのも正直な所だ。


 事実、振り返ると、少女は少々涙目になりながら一生懸命にこちらへ着いてきていた。


「その、意地悪しないで連れて行ってくださーい! さもないと、お仕事が無くて申し訳なくなっちゃうんです……!」

「ふぅ……分かった分かった。意地悪して悪かったな、ナナコ」


 こちらが謝罪をすると、ナナコは表情をぱぁっと明るくして、また髪をぶんぶんと振りながら小走りに近づいてきた。今にして思えば、こう単純で素直な子は周りにいなかったから新鮮でもある――ソフィアたちも優しく良い子たちなのではあるが、皆一様に一癖二癖あるので、ナナコのように感情をストレートに出してくれる子は自分にとっては接しやすくもある。


 さて、仕事を果たさねば。この辺りは木も多くないから、薪を探しには時間が掛かる――辺りを見回していると、仕事を手伝うために着いてきていたはずのナナコは、そのくりくりした瞳で地面の代わりにこちらを見ているようだった。


「あのあの、アランさん! アランさんって、好きな人っています?」

「どうした、藪から棒に」

「ヤブラカボウ……? デクノボウの親戚ですかね?」

「やぶからぼう、突然にって意味だ。ちなにみ木偶の坊は役立たずで気が利かないって意味な」

「あぁ、なるほどぉ! なんだか聞き覚えのある言葉ではあったんですが、そういう意味だったんですね!」

「良かったな、一つ賢くなって」

「はい!」

「それじゃあ、薪になる枯れ木を探してくれ」

「了解です!!」


 ビシィ、と音が聞こえそうなほど勢いよく敬礼のポーズをとり、ナナコも薪を探し始めた。少しの間、まばらに生える木々の周辺で薪を探していると、ナナコは腕に枯れた枝を何本か抱えながらこちらに走ってきた。


「……って、はぐらかさないでくださいよ!」

「いや、はぐらかしたつもりもないんだが……薪を探しながらだって会話は出来るだろう? ちょうどそんな感じに」

「はっ、それは確かに……!」


 腕に抱える薪を指さすと、ナナコはハッとしたような表情を浮かべる。そして今度は近めの距離で、互いに薪を拾いながら会話を続けることにした。


「それで、アランさんって好きな人は居ないんですか?」

「だからどうしたんだ、藪から棒に」

「ヤブラカボウじゃありませんよ! あんな美人達や可愛い子に囲まれてるんですから、誰か好きになってもおかしくはないじゃないですか?」

「そうだなぁ、ナナコも可愛いしな」

「わ、わ、わ!? そ、そういうのは結構です! 間に合ってますので!」

「間に合ってるのか!?」


 まさか間に合っているとは。そもそも、彼女は元々ゲンブたちと一緒にいたはずだから、出来ているとするならT3辺りか。そう思うと、アイツを見る目が変わってしまう。


 最低でも三百歳を超えるはずのT3が、見た目で言えば幼いナナコと出来ているとなったら、もうそれはロではじまってリに繋がり、コンで終わるアレだ――いや、冷静に考えればナナコは記憶喪失なのだから、特に深い意味もないのかもしれない。


「……とはいえ、初めてあった時も一緒にいたみたいだし、うぅむ……」

「もう、アランさんはすぐに話を脱線させますね!?」


 気が付くと、ナナコが准将殿よろしくに頬を膨らませてこちらを見ている。


「ナナコには負けるさ」

「むぅ……! なんだか、皆さんがアランさんに対してむくれちゃう気持ちが分かったかも……!」


 思い返すと、ソフィアはよく頬を膨らませているし、クラウも「もう」と言いながら怒っている顔が容易に浮かぶし、エルにもため息をつかせている――そうなると、ぜひむくらせてしまう理由を問いただしてみたいが、こちらが質問するよりも早くナナコが指をピン、と立てて先手を取ってきた。


「もう一回、もう一回聞きますよ? もうはぐらかさないでくださいね? ちなみにはぐらかしてるつもりも無いとか言わないでくださいよ?」

「そうだなぁ……ダンにも同じようなことを聞かれたが、特に異性として好きってのは無いな。あの子たちのことは仲間だと思っているし、大切に想っているつもりもあるが……妹みたいに思ってる感じだ」

「えぇ、そうなんですか? エルさんとクラウさんなんか、凄い大人じゃないですか?」

「ナナコから見たらそうなのかもしれないが……いや、俺から見ても落ち着いていると思うよ。とくにエルなんかは、そうだな、妹なんて言ったら失礼かもしれない」


 実際、エルなんかは見た目も雰囲気も落ち着いているし、妹と言うには違和感もある。しかし同時に、彼女も少々だらしないところなどがあって隙もあるし、ステラ院長の見立てやべスターの証言を聞く限りでは一世代分は自分より彼女の方が年下になるので、年下というか妹的に感じてしまう部分はあるのかもしれない。


 そんな風に考察していると、目の前でナナコがなんだか一人で納得したようにうんうんと頷いているのが見えた。

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