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7-27:レムと古神の会合 下

「グロリア・アシモフは最後の世代ですから、人格と能力をレムリアの民に移植することが出来る……ですが、その類まれなる能力を残すためにゲノムを保管、つまり、彼女の腕だけ残されていただけにすぎません。

 彼女の人格がゲノムに残っていたのは我々も想定外でした。しかし同時に、脳の残っていない彼女の人格は不安定で、レムリアの民に人格を転写しても大本の人格と競合し合い、精神が安定しないのです。

 グロリアがレムリアの民に馴染むには、他の七柱同様になるべく彼女に近い存在であることが条件となり……ヴァルカンやハインラインは遺伝子情報が近い者でないと身体を上手く動かせませんが、グロリアはどちらかと言えば遺伝子情報よりも、移植される者の精神的な状況が自身に近い方を好むようです」

「テレジア・エンデ・レムリアはその条件に合致したのですか?」

「一部分は、と言うべきでしょうか。愛する者を奪われ、復讐に燃える乙女……そういった点ではテレジア・エンデ・レムリアの精神状態に合致したと言えます」

「それだけでしたら、他にもっと合致する素体もあったんじゃないですかねぇ」

「それもそうなのですが……テレジアにグロリアを適合させようというのはルーナの意見で、その詳細は不明です。恐らく、悪趣味な嗜虐精神の表れだと思います。

 ともかく、私としてはグロリアの軌道を逆手にとって、アナタ方の元へ届けようと思ったのですが……暴走して迷惑をかけてしまう結果になりました」

「成程……しかし、なかなか厄介な状況になりましたね。グロリアとテレジア、両者の仇がこの船には乗っているのですから」


 確かに、そう言った意味ではテレジア・エンデ・レムリアとグロリア・アシモフ両者と敵対していない者は船の中にほとんどいない――自分やゲンブ、ホークウィンドはテレジアと敵対しているし、グロリアはレアや第五世代型アンドロイドであるアズラエルを敵視するだろう。


 そういう意味では、グロリアをテレジア・エンデ・レムリアに適合させたのは、我々に合流させまいというルーナの意図があったのかもしれない。ひとまず回収できたのは良いモノの、御せる存在ではなくなっているのだから。


 そんな風に考察している傍らで、モニターの中のレムが口を開いた。


「ひとまず、彼女の世話はアガタに任せると良いでしょう。テレジアとは友好的な関係を築けていますし、グロリアとも敵対はしていないので……」

「そうですね、そうさせてもらいます。ですが、このままでは戦力として扱いづらいのが正直なところですが……このまま行くと、彼女の……グロリアとテレジアの人格はどうなるのですか?」

「この星に渡ってくる時に行った実験結果から言えば、次第に人格が融合し始め……すでにそれは始まっていますが……互いにアイデンティティを消失し、廃人になってしまいます。もっと精神状態が近い素体が居れば、互いの意識を持ったまま融合できるのではという仮説はあるのですが、星間移動中にグロリアを宿した素体には社会性がほとんどなく、人格形成も甘かったので、彼女に合う素体が無かったので、正確な所は不明です」

「成程。それでしたら、彼女に合う素体を探す必要があるかもしれませんね……それまでは一旦、王女様の中に居てもらい、アガタ様に面倒を見てもらいますか」


 ゲンブがそう言うと、アガタ・ペトラルカに一同の視線が集まる。それに対して薄紫色の髪の少女は両腕を組みながら大きくため息をついた。


「身分の差はあれど、共に旅した仲間でもありますから……自壊していく王女を見届けるのは、心苦しいものがありますけれど」

「……ごめんなさい、アガタ」


 モニターの中でレムが伏し目がちにそう呟くと、アガタは眼を瞑りながら首を横に振る。


「大丈夫です、レム。私は全ての覚悟を決めてきています……アナタの御心のままに、この身も魂も捧げる覚悟が。ただ、私はアナタに忠誠を誓っているのであって、彼らのことを信用しているわけではないので、そういった意味で気が進まないだけです」


 アガタ言い終えると、その釣り目で自分たちの方を睨んできた。怒りというよりは、単に気が進まないという調子ではあるが――何にしても、ある種の天外魔境であるこの場で悪態がつけるのだから、この少女は相当肝も座っているし、何よりレムに対する忠誠は本物なのだろう。


「ははは、また怖い人が船に乗ってきましたねぇ……結構、私はアナタのような人が好きですから、歓迎しますよ」

「ですから、私はアナタのことは信用していないと……まぁ、歓迎されないよりはマシでしょうから、素直に歓迎されておくことにしますか」


 アガタはそう言いながら、有難くなさそうに手を振った。口調はお嬢様のそれだが、態度はやからのそれである――などと考えているうちに、モニターの中のレムがブリッジの中にいる一同を見回し、改めて口を開いた。


「それでは、また何かありましたら通信を繋ぎます。ちょっとしたことでしたら、私は常にアガタと繋がっていますので、アガタに質問してくれれば答えますので」

「えぇ、これからよろしくお願いします、レム」


 ゲンブが返事をするのにあわせてレムは微笑み、アガタが機材からペンダントを取り出すと同時にモニターの中の女神が消え、ブリッジの窓には星空が戻ってきたのだった。

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