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7-26:レムと古神の会合 中

「……なるほど、そんな事情があったのですね」

「えぇ……信じていただけますか?」

「聞いた内容的にはそれらしいですが……ともかく、半分は信じますよ」

「あら、全面的に信じてはいただけないのですね?」

「それはもちろん。なんだって自分の目で見たこと以外……時と場合によっては自分が見たものですら疑ってかからないのとなりませんから。ですから、私はなんだって全面的には信じません。そういう意味では、半分信じてるというのは概ね信用に足る、と思った証です」

「えぇ、それで十分……私だって、アナタ達を利用しようとしているだけなのですから。同時に、この星の代表としてアナタ達の来訪を歓迎いたします……よくぞ一万年の時の中からおいでなさいました。随分無理やりな来訪ではありましたが」


 どうやら、ゲンブはレムの言ったことをある程度事実と認めたようだ。


「さて、アナタの言うことが事実だとすれば、アルファルドはアルジャーノンと並んで現在は身動きが取れない……合わせて、アルファルドが権限を持っているハインラインも眠ったままになるということですね?」

「えぇ、先に懸念を伝えれば、エリザベート・フォン・ハインラインのヴェアヴォルフエアヴァッフェンをルーナに利用されてしまう可能性がある点ですが……ルーナやその手先に接触される前にエリザベートを回収できれば問題ありません。

 また、ヴァルカンは説得可能だと思っています。彼もこの星に居付いて、愛着があるようですし……元々は宇宙に憧れてここまでついてきたというのが正確ですから、高次元存在の降臨に対してはそう執着もないはずです。それに……」


 レムが一度言葉を切ってアシモフを見ると、エルフの老婆はモニターの中の女性に頷き返した。


「彼とは長いですから。私が説得しましょう」

「はい、そうしてくれると助かります」


 まさか、本当にヴァルカンも引き込めるかもしれないとは――そのことを推察していたゲンブは、人形の小さな手を顎に当ててかたかたと口を動かし始める。


「そうなれば……後はルーナだけ仕留めれば、この戦いに終止符を打つことができる……」


 人形の呟きに、モニター内の黒髪が頷き返した。


「正確には、ルーナが依り代にしているセレナと、お抱えの第五世代型アンドロイドであるジブリールとイスラーフィールを討って後、月に眠るアルファルド、アルジャーノン、ルーナ、ハインラインのそれぞれの本体を完全停止する、ですが」

「ジブリールとイスラーフィールは強力なのですか?」

「はい。ジブリールとイスラーフィールは第五世代型アンドロイドの中でも最後に作られた二体で、惑星の重力変動で巨大化した原生生物を容易く葬れる火力を有し、虎に対抗できるだけのスピードと耐久を持つ……単独でブラッドベリを凌駕できるだけの戦闘力があると言えば、その恐ろしさは納得してもらえるでしょうか?」

「……同じ後継機でも、アズラエルとはえらい違いだな」


 自分がこの場にいないアンドロイドの名を呟くと、アシモフが窘めるような調子で腕を動かしながらこちらを見る。


「後継機の中では、アズラエルは第五世代型アンドロイド、熾天使セラフシリーズの中では最初に作られたというのもありますし、何よりジブリールとイスラフィールはルーナが自身の護衛にと、オーバースペックで作成された二体です。二体が規格外なだけで、アズラエルが劣っているわけではありませんよ」

「……とはいえ、今はデュラハンのようになっているが」

「そうですね。落ち着いたら直してあげないと……」


 レアが独り言のようにそう呟いて後、改めてゲンブがモニターの方へと向き直る。


「それで? 他に強力な後継機は居ないのでしょうか?」

「あと二体……熾天使にはウリエルとミカエルが存在します。とはいえ、ミカエルは海と月の塔で私の本体の護衛をしてくれているので味方です……問題はウリエルですね。彼はアルジャーノンの配下で、私の方でも今どこで何をしているのか分からないのです。

 ともかく、ルーナの待ち構える海と月の塔にはミカエルもいます。この場にいる方々とヴァルカン……それにセブンスと原初の虎が居れば、ルーナと熾天使の二体、それとルーナが制御する第五世代型アンドロイドを相手にしても勝利することは可能と思われます」

「成程……」


 ゲンブは袖から扇子を取り出し、一人納得するように呟き――ややあってから、口元を隠すようにしてレムを見る。


「……最後に確認です、レム。アルファルドはアナタが私たちと組むことを想定していなかったと思いますか?」

「それは……可能性の一つとして考慮はしていると思います。その時のための策を事前に練って、ルーナに伝えている可能性もありうるかと」

「そうですか……いえ、そうでしょうね。彼はそういう男です」


 ゲンブは扇子を畳んで袖に戻し、モニターに背を向けてこの場にいる者たちが見えるように振り返った。


「戦力的に見れば、ルーナの抱える第五世代型アンドロイドの数が多いのに対し、我々は寡兵……とはいえ、この場にいる者たちで対処可能なはずです。また、特に強力と想定されるルーナと熾天使だけなら、恐らく勝機は十二分にある。

 しかし、相手はこちらの行動を予見しており、対抗策を練っている可能性があります。そうなると、権謀術数を覆す大きな力が必要……」


 一旦言葉を切り、人形は半身を逸らしてモニターの方を覗き見る。


「レム、アラン・スミスの説得は可能でしょうか?」

「えぇ、出来ると思っていますよ。元々、私がアナタ達に協力すると決めたのは、彼の意志を尊重したためです。そして彼は今、ある意味では人質に取られている三人の少女たちを護るために、アナタ達と戦うポーズを取らないといけないだけですから。彼女たちの身柄の安全を提供できれば、こちらに加わってくれるはずです」

「……どうかな。奴は私を憎んでいる」


 ゲンブとレムの会話に割り込むようにごちる。実際、聖剣の勇者を殺した後の原初の虎の殺意は、今までに感じたことが無いほどのモノだった。それほどこちらを恨んでいるのに、今更手を組むもなさそうだが――そう思っていると、レムは目を閉じながら長い黒髪を横に振った。


「真実を知れば、アナタの功罪も水には……まぁ流しはしないでしょうが、納得はしてくれるはずです。激情の人でもありますが、それで優先順位をはき違える人でもありませんから」


 アイツをよく知るレムが言うのなら、あながち嘘でもないのだろうが――自分の気持ちはそう単純なものではない。そしてそれを知っている不埒な人形は、また自分にとって不愉快な笑い声を上げて笑った。


「ははは、違いますよレム。彼はアラン・スミスと手を組みたくないのです」

「あら、そうなのですか?」

「えぇ……まぁ、気持ちは分からなくもないですがね。しかしT3、優先順位をはき違えないでください。別に虎同士で殴り合うのは大いに結構ですが、それは全てが終わってからでも構わないでしょう?」

「……そうだな」

「全然納得いっていない感じですし、なんなら先日、原初の虎にも同じようなことを言ったばかりですが……案外似た者同士なのかもしれないですね、アナタ達は」

「止めろ、アイツと似ているなどと言われるのも不愉快だ」

「おぉっと、怖い怖い」


 表情は動かないくせに、人形は目元が細まっていると見まがうほど楽し気な声をあげ、再びレムの方へと向き直った。


「さて、概ねの方針は決まりました。改めて、ご協力感謝しますよ、レム」

「こちらこそ。なお、レアとアガタ、テレジア・エンデ・レムリアの三名に関しては、ルーナたちにはアナタ達が捕獲したという映像データを見せていますので、そのつもりで」

「ははは、まるで私たちが悪者のようですねぇ……なんなら、世界樹を護るために戦ったと言うのに」

「世界樹を護るために戦ったのはアルフレッド・セオメイルとホークウィンド卿でしょう?

 アナタは別にどちらでも良かったとお考えなのでは?」

「そんなことはございません。見ての通り可憐にしてか弱いお人形、平和主義者なので」

「はぁ……王都とガングヘイムを強襲し、世界樹に来たのだってレアを暗殺するつもりだったくせに、どの口が言うんですか……」

「そうだ、もう一点だけ追加で確認したいことがあります」

「……グロリア・アシモフのことですね?」


 レムがテレジア・エンデ・レムリアの中に宿ったもう一つの人格の名を告げると、エルフの老婆の肩が僅かに揺れたのが見えた。黒髪の女神はそれを見ていなかったのか、頷き返したゲンブの方を見ながら続ける。

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