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7-24:第五世代型の騎士 下

「アルフレッド・セオメイル……私を連れて行ってくれ」

「貴様、何を……?」


 言っている、そう言い切る前に、ラバースーツの男は跪き、顔を地面に置いて身体の方で土下座のポーズを取った。


「この通りだ! 私も船に乗せてくれ!!」

「……ダメだ。乗せる理由がない。そもそもレムの提案とやらが罠の可能性だってあるのだ。元々信用できないものは一人でも排除しておきたいからな」

「くっ……だが逆に、貴様らがレア様を手にかけないという確証もないだろう……」

「主君を護るためにどこまでも着いて行くとは、見上げた騎士だが……」

「……騎士! ナイト!!」


 自分が何気なく放った一言に、アズラエルの地面に置かれている瞳に興奮の色が映った。


「アルフレッド・セオメイル、私を騎士と言ったか!?」

「あ、あぁ……」

「そうか……あぁ、騎士、ナイト、素晴らしい……私はレア様の警護をする傍らで、旧世界の様々な文献を読み漁った。その中でも、洋の東西を問わず、騎士や武士など主君に使える者たちの叙情詩には何か感ずるものがあったのだ。

 私と同じ、主君に付き従い、時に主を護り、敵対する悪を討つ武芸者達には、私自身と何か通づる何かがあり……私も創造神たちの祖先がした道を辿り、これこそが人の持つ矜持というものかと判断するに至り……」


 今までどこか無機質な様子であったのに、唐突にハイテンションになった第五世代についていけず――自分だけでなく、周りも同様のようで――みな一様にぽかんとした様子で土下座姿のままのアズラエルを見ていた。


 そして一通り話し終わり、先ほどの興奮はどこへやら、アズラエルは表情に無機質さを取り戻して口を開いた。


「……もし、レア様が他の創造神達と事を構えるというのなら、私はレア様の騎士として、貴様らに協力して戦うことにしよう」


 アズラエルは元々の味方を裏切って我々に与すると天使が宣言した訳だが――それには違和感がある。彼ら第五世代型アンドロイドは七柱の創造神に対して絶対服従――元々は自分もそうだったわけだが――そのため、アズラエルの提案には違和感を覚えた形だ。


「そんなことが可能なのか?」

「天使たちと戦うことは可能だ。他の七柱と直接戦うのは厳しいが……我々の中にある三原則が働くからな。しかし、私はレア様の直属であり、行動の最優先はレア様の身命の警護にある。そのため、他の七柱の創造神がレア様を狙うならば戦うことも出来るはずだ」


 なるほど、彼は後期型の第五世代型アンドロイドであり、七柱の中でもレアを最優先としてプログラムされているから原理的にはそうなるのか。しかし、彼の言葉で何とも言えない感情が去来してきた。


 恐らく、この感情の正体はある種の憐憫だ。自分の感情を自分で決められない、自分のしたいことも使命も自分で決められない第五世代型アンドロイドという存在が憐れに感じられたのだろう。


 しかし、それだけでは自分の感情を上手く表しきれていないように思う。恐らく、それは嫌悪――それも同族嫌悪。自分は生態チップが外れたことにより七柱への絶対服従は無くなったが、結局はある種のルールの中で物事を判断しているに過ぎない。今回の件だって――テレジア・エンデ・レムリアが世界樹を焼いているのだって、七柱への復讐という一点を加味すれば無視したってよかったのだ。


 しかし、それを自分が吉としなかったのは、自分と同じ種族であるエルフたちと、故郷が焼かれるのを黙って見ていられなかったということに他ならない。同族を護ろうとするは、結局のところは生物の本能――本能とはすなわち遺伝子に組み込まれたプログラムとも言えるのではないか。


 そう考えれば、自分と第五世代型アンドロイドの間にいかほどの違いがあるというのか? 結局は自分も彼も、プログラムという組み込まれた摂理の中から逃れられないのだ。成程、憐れに思う彼と自分の間にそう違いが無いことが生み出すある種の自己嫌悪がこの違和感の正体か。


「……そう、私の存在価値そのものが、レア様と共にあるのだ……だから、どうか、私を側に……」


 語尾が弱弱しくなっていくアズラエルは、語気に合わせて視線も下がっていく。それに対し、煤に汚れた白いローブを翻しながら、エルフの長は跪く信徒の元へと歩みだした。


「……顔をあげなさい、アズラエル」

「レア様……」


 そしてそのしわがれた手でアズラエルの顔を持ち上げて抱きかかえ、夜空を背景にしながら翻ってこちらに振り向いた。


「ホークウィンド、この通りです。彼は私が命を下さない限り安全です……どうか、連れて行ってはいけませんでしょうか?」

「ふむ……」


 ホークウィンドは考え込むように視線を泳がせる。恐らく、我らが軍師の意見を聞こうとしているのだろう。そしてすぐに、自分にも合わせて脳内に声が響き渡る。


『別にいいのではありませんか? 猫の手も借りたい状況ですし……本当に協力してくれるというのなら戦力は多いに越したことはありませんから』


 ホークウィンドはゲンブの言葉に頷き、視線をレアとアズラエルに戻してもう一度頷いた。すると、ここまでずっと神経質そうにしていたレアの表情が少し柔らかくなり、アズラエルの方もまるで感情があるかのように口元を緩ませていた。


「すまない、恩に着る」

「いや、そもそも襲撃してきた者たち、しかも主君を誘拐しようという連中に恩に着るというのもおかしな話ですが……」


 アガタ・ペトラルカが半ば呆れたように、半ば独り言のようにそうごちた。そして直後、上空から強い風が吹き、辺りの枝葉を大きく揺らし始める。巨大な質量の何かがこちらへと近づいてきたかと思うと、自分たちの上空の空が大きく歪み始め――次第に迷彩がはがれていき、闇夜にピークォド号が姿を現したのだった。

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