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7-21:携行式弓型波動砲エルヴンボウ 上

 T3が音速の壁を超える轟音を響かせて去った後、自分は改めて空中に浮かぶ鎧の姫君を見つめた。テレジア・エンデ・レムリアに恨みがある訳でもないし、かつての仲間が宿っているのなら猶更のこと手荒な真似はしたくないのだが――ともかく状況を確認するため、通信で参謀に声をかけることにする。


『まさかグロリアとこのように相見あいまみえることになるとはな……』

『そうですね……状況を繰り返しますよ、ホークウィンド。内側のグロリアはファラ・アシモフ、外側のテレジア・エンデ・レムリアはT3に殺意を向けており、ファラ・アシモフはこの事態を収束させたい。しかし……』

『彼女を差し向けてきたのは何者なのか、だな』

『はい。恐らくアルファルドの指金でしょうが、情緒の安定しない彼女が一人でここまで来たとは考えにくい。裏側での暗躍に徹する彼が彼女をここに連れてきたのではないとすれば、恐らくですが……』

「……こっちを見なさい!」


 チェンと通信で話しているうちにテレジア・エンデ・レムリアの表情が歪み、こちらに対して巨大な炎の矢が放たれる。躱すことは難しくない――着弾する前に他の枝に飛移って着地するが、二の矢、三の矢が放たれ続けるためになかなか一か所に留まる余裕はなかった。


『それで? 空を飛ぶ彼女に対して、何か手立てはありますか?』

『無いこともない……が』


 袖から苦無を取り出して投射するものの、やはり彼女の前に展開される炎の壁の前で溶解するのみだった。


『御覧の通り威力が無さ過ぎるか、またはありすぎるかだ。生け捕りは難しいな』


 そう言いながら、一瞬だけ背後に手を伸ばす――背中に背負う巨大八方手裏剣なら容易に溶けはしない。本気で打ち出すのに加算して、手裏剣の内部に忍ばせている装置を稼働させれば音速の世界に居る者にも通用する速度を出せることから、空中をそこそこの速度で動き回る少女にも当てることは可能――ただし、当てればその身を両断してしまうだろう。


『なるほど……私としてはグロリアだけ回収できれば良いので、テレジア・エンデ・レムリアの身体が両断されようが知ったことではないのですが……それでも遺体が落下してジャングルの藻屑になるのは避けたいです。

 しかし、説得する手立てはあるのでは? アナタはグロリアとも多少は仲が良かったように思いますが』

『そうだな……』


 仲が良かったとは思わないが、仲間としては信頼されていたとは思う。彼女としてはチェンよりはまだ自分の方が気心を許せる、という程度の感覚であろうが――とはいえ、自分としても旧知であり仲間であった者、それが敵側に操られているとなるならば、やはりどうにかして正気に戻させてあげたい。そう思って一度足を止め、宙を浮かぶ女の方へと向き直る。


「グロリア! 正気に……」

「死ね!!」


 説得を開始しようとした瞬間、女はヒステリックに表情を歪ませて炎の鞭を横薙ぎにしてきた。避けるのは容易――攻撃の上を跳躍して躱し、別の枝に移った瞬間にまた説得を試みることにする。


「正気に戻れ、グロリア! 共に戦ったことを覚えていないのか!? お主は今、DAPAに操られているのだ!」

「……DAPA、私の敵……うぅ……!」


 DAPAという単語に覚えがあったのか、テレジアの攻撃は止み、炎を放っていた手で頭を抑えて身をかがめた。なんとか真実を思い出してくれればいいのだが――そう思いながら増える肩を眺めていると、女は頭を抑えたまま大きく首を振り出した。


「……うるさいうるさいうるさいうるさい! 黙りなさい、ホークウィンド! アナタは王都を襲撃し、シンイチさんを殺した私の仇で……味方……あぁあああああああああああ!!」


 絶叫と共に攻撃が再開し、こちらとしてはまた受け身に徹さざるを得なくなる。しかし、情緒どころか口調も安定していないように見える。先ほど覗かせたのは、本来の身体の主であるテレジア・エンデ・レムリアの人格だろう。


『ははは、やっぱり無理ですか……今の彼女はグロリアでもありテレジア・エンデ・レムリアでもあり、同時にどちらでもない。人格が混同してしまい、正常な判断が出来なくなっている……そうなると説得しても無駄でしょうね』

『貴様、分かっていて提案したのだな?』

『それはまぁ、我々の言葉程度で傾く者をこの場に投入するへまを七柱は犯さないでしょうし……とはいえ、穏便に済ますに越したことはありませんからね。一応提案したまでです。どうせT3が戻ってくるまで暇で……』

「死ねぇ!!」


 チェンの言葉尻は女の絶叫にかき消され、同時に炎が襲い掛かってくる。テレジアは両腕を交差させ、同時に二本の炎の鞭で波状攻撃をしてくる――最初の一撃は躱したものの、その後も二本の腕を振りかざしてこちらを追うように攻撃を続けてくる。一万年前の時は味方として第五世代型を薙ぎ払ってくれていた頼もしかった炎熱の一撃が、今は自分の身に襲い掛かってきているのだ。


『……この状況を見て退屈とは、言ってくれる』

『ははは、正気ではない彼女の攻撃にやられるほどホークウィンド卿も甘くはないでしょう……とはいえ、説得が出来ないのなら、T3を待つ他ありませんね』

『あぁ、精霊弓とやらが上手く加減が出来ればいいんだが』


 T3が登っていった上を見上げる――が、すぐに視界に一杯の炎が映りだされる。これではよそ見をしているほど余裕もない。チェンとの通信を切り、改めて少女の攻撃を避けるのに専念することにした。

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