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7-16:世界樹の夜 下

『いっそ、アレに乗って移動したらどうですか?』


 まさしく蜘蛛のように移動する植物性のゴンドラを眺めていると、再びゲンブの声が頭に響きだした。  


『馬鹿なことを言うな。ツタワタリに乗っているのがバレたら、逃げ場がないだろう』

『しかし、このままのペースで昇っていては日が暮れる……もとい、夜が明けますよ。少し大胆な移動も必要なのでは?』


 確かに、ゲンブの言うことも一理ある。むしろツタワタリの中にさえ入れれば、周囲から見えなくなり安全であるかもしれない。


『……以前、私がアレに乗っている時には気にしていなかったのだが。あの中は監視カメラなどは無いのか?』 

『監視カメラは存在するかもしれませんが、それならマントに搭載されている迷彩があれば、物陰にさえ隠れて姿を現さなければごまかしが効くでしょう。しかし、私としては植物性の機械だなんて、あまりピンとこないのですが……』


 それこそ、ゴンドラの中にいる他のエルフを逐一レムが監視していればバレるでしょうが、そう付け足された。とはいえ、いくらレムがスーパーコンピューターと言えども末端まで常時観察していることもないだろう。そう割り切って、天使から距離を置いて忍び込めるツタワタリの通り道の近くへと移動する。


 枝葉の間に身を潜め、ツタワタリが横を通り過ぎるのを待つ。上りの一匹が真横を通り過ぎるのに合わせ、まずは植物の隙間から中を観察する。乗客員は僅か一名、それも幸いなことに居眠りしてくれているようだ。ツタワタリに飛び乗り、隙間から中に侵入し、すぐに乗客員からなるべく距離を取り、これまた植物で作られたボックスシートの陰にしゃがみ込んで息を潜めた。


 さて、レア神が居る最上部にたどり着くには主に三つのルートがある。一つは世界樹の内部の正規ルート、これは見張りも多く使えないだろう。次点に、レアの居室にあるテラスからの侵入だが――前回王都襲撃の際にテラスからの侵入をしてしまったので、警戒はされていると考えたほうが良いだろう。


 そうなれば、残る道は一つだ。ツタワタリが世界樹の幹に到着し、眠りこけていた乗客が起きて外に出るまで静かに待ち、周囲に音がしなくなったのに合わせて自分も外へと出る。


 木の幹にさえたどり着ければ、恐らく外の警護に回されているであろう天使の相手はしないですむと予想される。それに、エルフは個体数も多くない――そもそも長寿で自己完結しているが故、生殖はあまり関心が無いのだが――夜半という時刻も助かってか、活動しているエルフは最小限だ。これなら、なんとかレアの居室までたどり着けるだろう。


 内部を見回るエルフに見つからぬように静かにツタワタリの発着場を後にし、身を潜めながら奥へと進む。


 世界樹の内部は、木の内面を削ってできた自然な作りになっており――実際、世界樹はガングヘイムのような鉄と螺子の機械は存在していない。その代わりに、世界樹はツタワタリを代表とした植物性の有機機械で構成されている。


 遺伝子工学で改良し、ある種の反射を利用して機械の代替として動く植物たち――知的生物の進化を抑制している惑星レムにおいて、本来は旧世界ですら実現しなかったオーバーテクノロジーらしいのだが、生まれた時から「世界樹とはそういうもの」として触れてきた自分には違和感もなかったし、世界樹をこれ以上改良しようなどという発想も出てこなかった。


 とにもかくにも、足音を殺し、気配を殺して移動し、幹の中央部分に当たる壁までたどり着く。そこの足元に隠された取っ手を掴むと、木の組織が動き出し、人一人入れるだけの扉上の穴が開かれる――これは非常用の通路で、一部の有力なエルフだけが知っている脱出用の螺旋階段が中に埋まっているのだ。


『……ゲンブ、確認だ。天使を撃退するには頭部と背中側の腰の付け根にあるコンピューターを破壊すればいいんだな?』

『えぇ……旧世界のままであるのならば、ですがね。とはいえ、この星の防衛装置は旧世界からの来訪者でなく、他の知的生命体の来襲に備えた物のようですから……恐らく、私のような旧時代の亡霊を意識してはおらず、よって演算装置の位置変更などはされていないと思いますよ』


 階段を昇るがてらに、通信にてゲンブに確認を取る。レアの居室の中には、テラス側と正規の入口付近に第五世代型アンドロイドが配置されていることが推察される。派手な音は立つが、先手必勝――レアさえ倒せば、後はADAMsを利用して一気に脱出するだけ、遠慮はいらない。


 最上部にたどり着き、外套からヒートホークを取り出して、植物性のレバーを操作する。直後、植物の扉が開き――それと同時に奥歯を噛み、正面のテラスに向けて一気に駆け出す。非情に微細な空間の歪みだが、見えないことはない――テラスの側に立つ長い髪の老婆をすり抜け、天使の硬い装甲を切り裂く高熱の刃を一薙ぎし、二体を頭を横から両断する。


 すれ違いざま、もう一本を取り出して二体を背後から切り付け、そしてまたすぐに振り返り、残りの一体の頭部と背中をそれぞれ切り付け、そのまま通り抜けた耳長の老婆へと肉薄した。

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