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7-11:老魔族グレンとの会話 上

 グレンに通されたのは洞窟の二階部分にあたる一室だった。六人が座り込んでも余裕のある広さで、深く切りぬかれた壁から外の光が差し込んできている。


「さて、何からお話しましょうか?」


 毛皮の絨毯の上で胡坐をかき、窓からの明かりを背後に受け、老魔族のグレンはこちらに手を差し伸べながらそう言った。


 自分からも聞きたいことは何個かある。魔族のこと、ブラッドベリのこと、勇者ナナセ・ユメノのことなど――とはいえ、色々と話が込み入る可能性もあるし、なんなら少女達に聞かれると危険なこともあるだろう。今日ここに泊まれるのなら、後でグレンと二人で話すのが良いかもしれない。


 それなら、まずは他のメンバーが知りたがっている話題から始めたほうが良いか――そう思って隣に座るクラウの肩を叩く。


「まずは、クラウから聞いてみたらどうだ?」

「そうですね……先ほど仰っていた、神聖魔法を使うときに生じる違和感について、もう少し詳細に聞いてもよろしいでしょうか?」


 クラウの質問に対し、低いテーブルの奥で胡坐をかく老魔族は小さく頷いた。


「はい……確かニか月ほど前でしょうか、採集時に怪我をした若者の傷を治すため、神聖魔法を使おうとした時に違和感に気付きました。

 とはいえ、先ほど申し上げた以上のことは私からは無いのですが……ともかく、祈りが届いたというより、決まった作法に決まった奇跡が起こっている、そんな風に感じるのです」

「えぇと、それで……他にも同じようなことを言っている人はいますか?」

「えぇ、集落の方には他にも何名か神聖魔法の使い手は居ますので。皆同じように違和感を感じていると言います」

「なるほど……」

「……クラウさんはティグリス神の加護を受けていたのですかな?」

「いえ、その……ただ、ちょっと思い当たるふしがあると言いますか……」


 グレンの言葉に、クラウは煮え切らない返事を返して後、考え込むように俯いた。恐らく、ティアと会話をしているのだろうが――こちらで認識している範囲でも、ニか月前というのはティアが違和感を感じたのと一致するはずだ。


 ともなれば、やはりティアに奇跡を与えていたのは邪神ティグリスだったのであろうか? 自分の予想では邪神ティグリスという神は存在しないのだが――とはいえ期間が一致するとなれば、少なくとも魔族やティアに魔法の力を授けていたのは同じ一柱だったという仮説はそれなりに信憑性を持ちそうではある。


 そう、考えられる可能性は色々とあるが――。


「……なぁ、一ついいか? もしかしたらグレンには失礼な意見なのかもしれないが……もし、魔族に力を貸していたのが邪神ティグリスでないとしたら?」


 そう、そうなれば自分の中では筋が通る。邪神ティグリスは存在しない神だと仮定すれば、力を貸しようがないはずなのだ。だとすると、ティアや魔族に力を貸していたのは他の神々とすれば――同時に、ティアや魔族たちに力を貸していた何者かに何かが起こったが故に違和感を持つようになった――そう考えることはできないだろうか?


 自分の意見に対し、グレンは髭を揉みながら思考を巡らせているようだ。


「可能性としてはゼロではないと思います。しかし、そうだとするならば、我々に力を貸してくれていたのは何者になるのでしょう?」

「……そうね。言うのは簡単だけど、魔族に味方する神となれば、邪神ティグリス以外には考えにくい……七柱の創造神たちは魔族と敵対しているのだし、彼らが魔族に力を貸す理由がないわ」


 エルの反論はもっともだ。ただし、魔族と七柱が敵対しているという前提が正しければ、という話である。ブラッドベリ曰く、魔族も七柱によって創造され、管理されているとなれば――そして自分の想像通りに邪神ティグリスなど存在しないのであるならば、七柱のいずれかが魔族やティアに力を貸していたのであり、そしてそれは同一人物と考えることは自然なように思う。


 自分が色々と考えている傍で、ソフィアが顎に手を当てながら――彼女が何かを考えている時の癖だ――そしてややあって口を開いた。 


「アランさんの言うことが正しいと仮定するなら、考えられる可能性は二つだね。一つは、邪神ティグリスと七柱の創造神たち以外に……それこそ、ゲンブたちのような古の神々が居て、その彼らが魔族に力を授けているという可能性。

 そして、もう一つは……目的は分からないけど、七柱の神々が魔族に力を貸している……」

「ちょ、ちょっと待ってくださいソフィアちゃん。エルさんも言ってましたけど、七柱の創造神が魔族に力を貸す理由はありませんよね?」

「うぅん、それはある前提が崩れれば筋が通るようになる……それは、実は七柱の創造神が、魔族と敵対行動を取る意思がない……ないし、七柱のうちのいずれかが、魔族に対して同情的であるとか。

 それこそ、アルファルド神は何をしている神様か分からないし、ティアさんと魔族に力を貸している可能性はあるのかも」


 ちょうど自分が思っていた思っていたようなことをソフィアが言語化してくれた。聡明な彼女と同意見なら、自分の推測もあながちズレているわけではなさそうだ――そう安堵を覚えていると、ソフィアはこちらを向いて首を傾げた。


「……でも、アランさんはなんで魔族に力を貸しているのが邪神ティグリスじゃないって可能性を考えたの?」

「うん? いやまぁ、ただ可能性の一つを言ってみただけだけさ」


 君たちの信じる神様が、実は酷いマッチポンプをしている――とはなかなか言い難い。ソフィアは「ふぅん……」とだけ呟き、意味深な微笑を浮かべてグレンの方へと向き直った。魔族老の方はと言えば、何かを探す様に目線を配り、自分たちの方を見回している。


「ちなみに、先ほどから感じているのですが……どなたかの荷物の中に、魔族の結晶はありませんかな?」

「いや、そんなはずは……その、グレンさんが聞いて気分は良くないかもしれませんが、結晶は換金できるので、手元には……」

「……いえ、そういえば一つ、私が持っていたわ」


 エルは自身の荷物の中から、拳大の結晶を取り出してそれを机の上に置いた。見れば何か禍々しい雰囲気で、クラウなど訝しむ様子でそれを眺めている。


「エルさん、それは?」

「魔将軍タルタロスの結晶よ」

「うひぃ!? な、なんでそんなもの持ってるんです!?」

「いえ、敵ながらかなりの武人だったからね……敬意を表するとするなら、売却してしまうのも違うかと思って。ただ、どうしようかまでは考えていなかったけれど……」


 エルがクラウに事情を説明している間に、グレンが結晶を手に取って、膝の上に置いて眺めだした。

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