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7-10:岩壁に刻まれた太古の記憶 下

「……エルさん、ソフィアちゃん。私はこの人の話をもう少し聞いてみたいです」

「クラウ?」

「あの、お二人が警戒されるのも分かりますし、もちろん私も……アナタ達が悪い魔族ではない、と言われても本能的な部分では納得しかねているのが正直な所なんですが……グレンさんが感じている違和感は、ティアが感じているものに近い……ですから、情報共有をしてみたいです」

「なるほど……ソフィア、どう?」


 エルが意見を仰ぐと、ソフィアは小さく頷く。


「うん、いいんじゃないかな?」

「あら、意外と軽いわね……まだ確証が足らない、と言われると思ったけれど」

「うん、エルさんの言う通り。グレンさんとティアさんの違和感が一緒だとしても、それは古の神々と彼らが組んでいないことの証明とは全く関係ない……でも同時にそれは悪魔の証明だからね。

 彼らが本当にゲンブ一派と繋がりがあるとしてもそれを言うことは出来ないし、そうでなければ証明することは不可能なわけだから……私が反対したのは、ここに滞在するには彼らが戦争を避けていたというだけでは理由として弱いと思ったからで、話を聞きたいのなら残っても良いと思う」


 もちろん警戒は解けないけれど、ソフィアは最後にそう付け加えた。とはいえ、少女の雰囲気は大分柔らかい――いや、思い返せばソフィアのグレンに対する警戒は、自分が来た時にはそんなに強くはなかった気もする。


 思うに、救ってもらった恩もあるし、少しとは言え自分たちよりグレンと多く言葉をかわしているから、彼が信用に足るとは既に思っていたのかもしれない。むしろエルとクラウが納得できる理由を引き出せるまで、ソフィアはグレンから色々引き出そうとサポートしてくれていたのかもしれない。


 そう思っていると、ソフィアはグレンの方を向いて老人をじっと見つめだした。


「むしろ、グレンさん、アナタが私たちを信用してくれますか? 私など、先ほどアナタに武器をつきつけてしまいましたし……何より、私たちは半年前の魔王ブラッドベリの封印に携わっています。アナタ達の王を倒した者を自分たちの根城の招き入れる危険があるとは判断しないのでしょうか?」

「ふぉっふぉっふぉ……それに関しては先ほども述べた通り、もちろん思うところが無いとは言えませぬが……ある意味では私は魔王ブラッドベリとはたもとを分かった存在。それに……ナナコ殿が居るのなら、安心だろうと確信しております」


 ソフィアの質問に対し、老人は笑って応えた。そもそも、グレンがソフィアを救ってくれたのだってナナコがユメノ・ナナセに似ているからという理由――三百年前に何があったのか、その辺りだって確認しておきたい。


「そうだな、アンタにはナナコの……いいや、アンタの知っている範囲でいいからナナセ・ユメノについても聞いてみたい。俺からも約束するよグレン、ここにいる間は不戦協定を結ぶと。みんな、構わないか?」


 すでにある程度は場の流れも固まった段階で、念を押すように周囲に確認を取る。


「まぁ、リーダーにそう言われちゃね……」

「お、俺をリーダーって認めてくれてるんだな?」

「そうね。癪だけれど」


 エルに相変わらずのご挨拶を返されたことに対して自分は口笛を吹き、改めてグレンの方へ向き直ると、老人は深く頷いて杖を突きながら洞窟の奥へと歩みだした。


「それでは、もう少し奥へと参りましょうか……この洞窟は自然にできた場所を、我々が少し加工して利用しているところです。二階などの方が窓もあって開放感がありますから」



 老人の後を追い、自分たちも洞窟の中を奥へと進み始める。進む先と入口からの明かりはあるが、通路は暗く、足場も整備されているわけではない。ソフィアが明かりの魔術で照らしてくれても足場は危うい。エルやクラウの体幹なら危なげないだろうが、ソフィアが歩くには少々危険かも――フォローに入ろうと思ったが、それより早くナナコがソフィアにぴったりと付き、歩くのをサポートしてくれているようだった。


「ここには多くの魔族がいるんですか?」


 そう、ナナコがソフィアをフォローする傍ら、老人の背中に対して問いかける。


「いいえ、我々の集落は谷を降った所にあります。我々は木の実や山菜の採集のために山に入っていただけで……ここはそのための拠点です。ですので、入口にいる若い者達で全員ですよ」


 歩みを進めていると、天井の高い開けた空間にたどり着いた。天井の高さが分かるのは、大地の切れ目から陽光が差し込んでいるおかげだが――老人は岩盤の切れ目にある階段の方へと向かっているが、それを追っている途中で壁に埋まっている何かに気付く。


「こいつぁ……」

「ふぉっふぉっふぉ……アランさん、これに興味がおありで?」

「あぁ、これは何なんだ? 化石みたいだが……」


 そう、壁に埋まっているのは大昔にこの辺りに生息していたであろう生物の化石らしきものだった。虫だか爬虫類だかに似ているようだが――前世的な知識に該当するような生物のものではないのは確かだ。とはいえ、大きさ的には手のひらサイズからそれを倍にした程度のもので、そこまで大きな生物ではなかったとは推察できる。


「正確なことは私にも分かりかねますが、外見はこの辺りに生息する魔獣に近い……ですから、これらは魔獣の祖先なのだと思っています。大分身体は小さいですがね」

「……なるほど」


 魔獣、言われてみればそうなのかもしれない。グレンの言うようにサイズは大分小さいのだが――大昔には魔獣の大きさはこちらが一般的だったのかもしれない。ただの知的好奇心ではあるものの、自分の推察がある程度の論拠になるものか、他のケースを確認してみたい。


 そうなると、知っていそうなのは様々な知見を持つ我らが准将殿か。そう思いながらいつの間にか自分の隣に移動してきていた金髪の少女に質問してみることにする。


「なぁソフィア。レムリアの方でも魔獣の化石って見つかったりするのか?」

「うん、いくつか発見されているよ。私は専攻じゃないから詳しくはないけれど……この壁に埋まっているモノと同じく、現存するモノより身体が小さいという点は共通しているね」

「魔獣は進化の過程で身体が巨大化したのか……?」


 しかし、自分で言っていて違和感もあった。前世的な感覚から言うと、生物は進化に従って身体を小さくしていく気がしたからだ。もちろん、身体が大きければ外敵に負けにくかったり、食糧を取りやすかったりなど長所もあるのだろうが――逆に小さい方が必要なエネルギーも少なくて済むし、巨大な生き物ほど数が少なかったり、絶滅している可能性が高かったように思う。


 そんな風に考えていると、ソフィアが微笑を浮かべながらこちらを覗き込んでくる。


「……もしくは、惑星レムの重力が弱まったことで、魔獣の身体が巨大化したのかも?」

「確かに。だけど、重力が弱まるだなんてことは……」


 いや、ありうるのか。以前、クラウから聞かされた神話を思い出す――女神ルーナがもう一つの月を作ったと。衛星が増えれば外から引っ張られる力が増して、重力が弱まることもありうるのではないか。


 もしこの仮説が正しいとするなら、七柱の行ったテラフォーミングにより、魔獣は巨大化したのだと推測される。まぁ、そもそもテラフォーミングをしたこと自体も推測の域を出ていないのだが。


 更に、クラウから聞いた神話の中で、魔獣はこの星の原住生物だったと聞かされたことを思い出し――惑星の改造も事実だとするのなら、魔獣たちは生態系を破壊されたとも取れる。


 もちろん、本来の生態が原住生物達の幸せだったとも分からないし、起こってしまった事実は覆らない。そうなれば、このような推測にもあまり意味もないのかもしれないが――ただなんとなしに、元々は自分の同胞とも言える旧世界の人類たちがこの星を滅茶苦茶にしてしまったことに対し、この星に本来生息していた生物達に申し訳ない気持ちが生まれてきたのも確かだった。

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