6-50:君の渾名は 下
「ぶふぉ!! いやなんですかセブンスって!」
そしてそのまま、クラウとソフィアの間から、銀髪の少女は袖を振りながらこちらを見た。
「聞いてくださいよアランさん! 皆さんが私のこと、セブンスって呼ぶんです!」
「呼ぶも何も、お前さんが自分でそう名乗ってたんだぞ?」
「えぇぇええ!? や、ヤバい……私の中の獣が暴走を……うぅん……何をしてたんだ、記憶喪失前の私……!? ともかく! ちょっとセブンスって呼ばれるとサブいぼが立つと言いますか! もうちょっと他の呼び方は無いでしょうか?」
「いいじゃないかセブンス。俺はカッコいいと思うぞ?」
「ほ、ほんとですか? ほんとにほんとですか!?」
「あ、あぁ、嘘じゃない……なぁ?」
そう、嘘じゃない。何なら初めて彼女の名前を聞いた時などあまりの格好良さに心が震え立ったほどだ――こういう感性を共有できる緑髪の方に声をかけると、彼女も眼をキラキラさせながら、同時に口元を手で押さえながらこちらを振り向いた。
「そうですね、私もカッコいいと思いますよ……ふふっ!」
「笑うなよクラウ……ふほぉ!」
「あー! やっぱり絶対おかしいと思ってるんです!!」
かつてセブンスと名乗っていた少女は、袖で頭を抑えながらぶんぶんと頭を振った。そして、すがるような瞳で金髪の少女の方へと向き直る。
「あの、ソフィア? 歳も近いと思うし、その……何か良いあだ名とか無いかなぁ?」
「……さぁ?」
ソフィアは通称セブンスに話しかけられても、すぐにそっぽを向いてしまった。以前に首元に剣を突きつけられまでされたのだから、警戒を解けないのも仕方がないか。
歳の近い少女に頼れなくなり、かつてセブンスと名乗っていた少女は、最後にはこの中で一番真っ当な性格のレイブンソードさんの方へ一歩近づいた。
「ぬーん……あの、エルさん? その、何か良いあだ名とか……」
「……私はそういうのは苦手よ。笑ってる二人に聞いてみたら?」
「あの二人、絶対変なのつけるじゃないですか!?」
「まぁ、それもそうだけど……」
こちらからは見えないが、七番目の少女が下から真剣な目で見上げてきているのだろう、エルは気まずそうに視線を泳がせ――レイブンソードはクラウが「ライトニングスラッシャーとかでいいんじゃないでしょうか?」とか喚いているのを華麗にスルーし――最終的にはため息を一つ、眉間を指でつまんで口を開いた。
「……アラン、アナタがちゃんとしたやつを考えてあげなさい」
「いやぁ、俺はセブンスで全然……」
いいぞ、という前に、銀髪の少女が泣きそうな目でこちらを見ているのに気付き、さすがにいい加減なことは言えなくなってきてしまった。
「……ふぅ、分かった分かった。というか、勇者ナナセに似てるって話だし、ナナセでいいんじゃないか?」
「でも、勇者ナナセ本人なわけじゃないよね?」
ソフィアにぴしゃり、と突っ込まれて思わず黙ってしまう。ソフィアとしては、さんざん振り回してきた相手が勇者と同じ名なのは納得いかないのかもしれない。
「まぁ、それもそうだな……うーん、それじゃあ…………えぇっと…………ナナコ」
あまり自信が無かったので、最後は我ながら消え入るような声でなんとか絞り出す形になった。口から出た名が少々間の抜けた響きのせいか、自分を見ていた少女達が一斉にぽかん、とした表情を浮かべており、あだ名を所望した少女は俯いてしまっている。
「アラン君、ナナコというのは?」
「えぇっと、セブンスがナナだから……?」
そう、セブンスが七番目、それにナナセのナナにも掛かるし、あとはまぁノリで子をつけた感じなのだが――クラウは「アラン君、センス……」などと冷たい瞳でこちらを見ていた。
少しの間、気まずい空気が流れる――しかしその沈黙はポフ、という間の抜けた音で終焉を迎えた。肝心の銀髪の少女が、袖と袖を叩いて顔を上げ、満面の笑みでこちらを見ていたのだ。
「良いですね、ナナコ! 親しみがある感じがします!!」
「マジか」
「マジです! なんだか、昔そんな風に呼ばれていたような……素敵なあだ名、ありがとうございます! アランさん!」
セブンス改めナナコは顔に大輪の花を咲かせ、そのまま頭の高さが腰にかかる勢いで会釈をし――ぐぅ、という間の抜けた音が牢内に鳴り響く。
「あのぉ、それで……ご飯とか、いただけないでしょうか?」
再び顔を上げた少女の表情は、打って変わって苦笑いが浮かんでいたのだった。
【作者よりお願い】
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6章はここまでです!
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