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1-24:大聖堂の異端者 下

「まぁつまり、地図が読めて方向感覚さえある人と組めれば、あとは全部自分がやるから、それで暇そうならば誰でもいいと、そういう事だった訳だな?」

「うーん、まぁ端的に言えばそうなのですが……でも、アランさんはちょっと特別なんですよ?」

「いや、さっきこんなの扱いしたよな?」

「いやぁははは、それはなんというか、その場のノリってやつですよ、ライブ感ってやつです」


 すっとぼけた表情で笑って後、クラウディアはすっ、と真面目な表情になる。


「実は私、大聖堂で寝泊まりしているんです。ジャンヌさんとは知らない仲でないので……アランさん、今日大聖堂に来てたらしいじゃないですか? それで、ジャンヌさんに頼まれたんです。もし良かったら、アランさんと一緒に冒険に行ってみてやってくれないかって」

「えーっと……それじゃあジャンヌさんに頼まれて仕方なく、か?」


 お情けでパーティーを組まれる、それはもちろんプライドは傷つく。できれば先ほど少し思ったよう、こちらの何かが買われての提案だと嬉しかったのだが――ただ、現状ではどこにも目がないし、お情けでも頂戴するのも仕方なしか。


 しかし、その予想には反し、クラウディアは静かに首を横に振った。


「いえ、そうでなくても、興味はありました。ソフィア准将やエルさんと懇意にしてるみたいだし、どんな人なのかなぁと」

「ほう、それで感想は?」

「変な人です」


 お前のほうがよっぽどだ、と言い返したかったが、エルも横で「確かに」と首を縦に振っているので言い返す気力も削がれた。


「……でも、悪い感じはしません。なので、とりあえずアランさんが良ければ、ひとまず一回ご一緒できれば、と思います」

「あ、あのなぁ。パーティーってのはもう少しこう、お互いの穴を埋め合ったりするもんだろう? 悪い感じがしない、くらいでいいのか?」

「いえいえ、ちゃんと私の欠点を補ってもらうつもりですし、アランさんの長所も活かしてもらうつもりです」

「欠点は方向音痴として、俺の長所って?」

「うーん、会話してて飽きなさそうって点ですかね」

「おい」

「ふふふ、半分は冗談です。ちょっと目先でやろうとしているお仕事が、魔族や魔獣の退治ではないんです。私、クリエイターも兼任しているので、ちょっと素材集めをしようと思っててですね。神聖魔法は魔力を消費するので、一日にそう何度も使えません。なので、むしろ不要な戦いは避けたいんですよ」

「成程、俺の索敵が役に立つと?」

「そういうことです」


 自分のスキルが買われて誘われている。それなら普通に嬉しいことだ。クラウディアの実力自体はエルのお墨付きだし、不安もないだろう。


「そういうことなら……むしろ、俺からも頼むよ、クラウディア」

「……えぇっと、自分から誘っておいてなんですけど、報酬の確認はしたほうがいいですよ、アランさん」

「おっと、そうだな……どんくらいで考えてる?」

「今回のお仕事では、薬の原料を調達し、私が合成して教会に卸す予定です。金額としては一万ゴールドの報酬とのことで、用心棒兼合成の手間がある分、私のほうが多くもらうつもりです……アランさんの取り分は成果報酬で三千ゴールドでいかがです?」


 ついでに、もし道中で魔族を倒した場合、倒した分だけ個々の取り高にするつもりです、と続いた。しかし、それでも最低三千ゴールド。それだけあれば、この前買った武具の分を相殺して余りある。貯蓄としても万全だろうし、取り分にも不公平は感じなかった。


「あぁ、それで問題ない。それこそ、全然ケチな感じはしないけどな?」

「あのですね、ケチは周りが勝手に呼んでるだけです。私は仕事に見合う金額を、きちんと分け合ってるだけなんですよ」


 クラウディアは人差し指をピン、と立てながらつらつらと話し続けている。中々性格がエキセントリックなせいで周りから認められ辛いだけで、結構良い奴なのかもしれない。


 そこで、ふと思い出した。今日、ジャンヌが言っていたこと。この街には、良くも悪くも有名な、ちょっと変わり者の三人の女の子がいると――しかも、クラウディアはジャンヌの知り合いと言っていた。ということは、クラウディアが最後の一人なのではないか。


 こちらの勝手な推測だが、良い子との評に違わぬ笑顔で、クラウディアは手を差し出した。


「まぁその、依頼の内容次第では、今後は組んだり組まなかったり、とは思いますけど……よろしくお願いしますね、アラン君」


 唐突にさん付けから君呼びに変わった。こちらがそれで固まっているということを理解したうえで、クラウディアの方も違和感を感じているようだった。


「えっ、アラン君、多分私と同い年くらいですよね? だから、折角組むことになった記念に、君付けでいいかなぁと」

「いやまぁ、記憶喪失なんで自分が何歳かは分からんが……ちなみに、クラウディアは何歳なんだ?」

「私のことは、クラウでいいですよ。クラウディアって長いですしね……私は十六歳です」

「うん、クラウ、多分それよりは確実に年上だと思うんだけどなぁ……」


 東洋系の顔立ちは幼く見えるというし、そのせいかもしれない。


「うーん、でも言われてみれば確かに……見た目は若いんですけど、性格がちょっとオッサンですよね、アラン君」

「おい」

「でもまぁ、アラン君はアラン君でしっくりくるので、今日からアナタはアラン君です。嫌なら止めますけど」

「いや、そのままで問題ないよ。よろしく、クラウ」

「はい、改めまして、よろしくお願いしますね、アラン君」


 お互い視線を合わせて頷く。全然パーティーを組めずにヤキモキしていたが、結果として良い子と組めてよかった。性格に難はあるが可愛いし。


 などと考えていると、エルが席を立った。何なら少し不機嫌そうにも見える。しばらく蚊帳の外にしてしまっていたせいかもしれない。


「……話はまとまったみたいだし、私は退散しようかしら」

「いえいえ、待ってください。冗談抜きで、エルさんにも一緒に来てほしいです」


 間髪入れずにクラウが止める。しかも、結構真面目な雰囲気だ。それを察したのか、エルも一旦は席に着いてくれた。


「私ですね、アラン君と組めたのなら、トラヴァ苔を取りに、ハイデル洞穴に行こうと思ってたんですよ」

「……はぁ!?」


 クラウの横で、エルが飛び上がる。恐らく、エルは薬草に詳しいわけではないだろうから、ハイデル洞穴という場所の方に驚いたのだろう。


「エル、ハイデル洞穴って危険な場所なのか?」

「危険も何も……魔族の拠点の一つよ。正確に言えば、洞穴のあるハイデル渓谷が、だけれど。行けば、千の魔族は下らないでしょうね」

「あははー。だからアラン君の索敵が役に立つんじゃないですか」


 クラウは他人事みたいにすっとぼけた笑いを浮かべている。本当なら、さっき俺との話をまとめる前に、魔族の拠点に行くつもりだ、は言うべきだっただろうとも思った。しかし、恐らく言ったらこちらが尻込みすると判断したのか、コイツは組むことが確定した後で出ししてきたのだろう。


 とぼけた調子を切り替えて、クラウは一転、落ち着いた調子でエルに向き合う。


「とはいえ、数十体は相手にする想定で行くべきかなと。アラン君も多少心得はあるようですから戦力として換算してますし、そうでなくとも索敵しながらこっそり進めば私一人でも対処は可能だと思いますが、万が一もあります。なので、腕の立つ人があと一人ほしいのは確かです」

「あのねぇ……私はそもそも反対よ。別に、アナタの実力を疑っているわけではない。でも、アランだって駆け出しだし、最初からそんな危険な所に行かなくても……」

「それも一理ですが、ハイデル渓谷が魔族に占拠されたから、今レヴァルは薬草が不足しています。今回の案件を達成すれば、目先の物資難の解決にも繋がります。それに私達で全て殲滅しようって訳でもないですしね」

「うーん……まぁ、止めても行くんでしょうね」

「はい、まぁアラン君次第ではありますけど」


 そこで、クラウがこちらを向いてウィンクしてきた。もちろん、エルの言っていることのほうが正論、自分みたいな駆け出しが行くべきではないのだろう。しかし、今回は自分のスキルが買われて少し気が大きくなっているのもあるし、何よりエルさえ居れば、根拠もないが行けそうな気はする。


 だから、クラウには頷き返した。それを見て、エルは大きくため息をついた。きっと面倒見は良い彼女のことだ、行くと言ってきかないなら付いて来てくれるだろう。というか、クラウもそれを見越してこちらにパスしたに違いない。


「ふぅ……私の取り分は?」

「アラン君と一緒です。三千と、倒した魔族分で考えてます」

「安く見られてるのか、それとも公平と言うべきなのかしら?」

「それじゃあ!」


 クラウが身を乗り出して抱きつかれそうになると、エルは「くっつくな!」と叫びながら緑の前髪を押さえた。


「仕方ない、今回だけよ。アナタたち二人だけだと心配だからね」

「心配してくれるんですね! エルさん優しい!」

「ち、ちがっ……! アレよ! アナタたち二人だと、信用がないの!」

「信用がないのに着いて来てくれるなんて、余計に優しいですー」

「もう……着いて行くの、止めるわよ?」


 言葉とは裏腹に、エルの表情は先ほどと比べて柔らかい。ツンケンしているが、根は結構人懐っこい奴なのかもしれない。そう思っていると、エルがこちらをジトっとした目で見つめてくる。


「……なにニヤニヤしてるの?」

「いやぁ、可愛いところもあるもんだと思ってさ」

「アナタまで……はぁ……」


 エルはまた嘆息をついて後、クラウの頭を押しのけて席に戻した。


「それで、クラウディア」

「クラウって呼んでください」

「それじゃクラウ、出発はいつ?」

「えーっと、それなんですが……ハイデル渓谷って、どう行けば……?」


 そういえばコイツ、ド級の方向音痴だったか。距離とかで出発する時間も変わりますよね、とクラウはクラウで肝心なところでボケボケだった。その後、エルが大きなため息をつきながら地図を出し、行程の予定などを仕切り出したのも言うまでもない。

ここまでお読みいただきありがとうございます!!

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