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6-44:大いなる力の奔流 上

 セブンスが退き、ダンの邸宅に静けさが戻ってくる。遠距離でソフィアの魔術の追撃はあったが魔術が途中でかき消えているのが見えたから、逃げ切られてしまったようだった。


「う、うーん……はっ!! エルさん、ソフィアちゃん! 無事ですか!?」

「うん、大丈夫だよ!」


 首を抑えながら上半身を起こすクラウに、扉から出てきたソフィアが答える。一緒にシモンも降りてきたようで――それと同時に、車とやらがこちらへすごいスピードで接近してきて、門の前でまた勢いよく止まった。


「な、なんじゃこりゃあ!?」


 車を開けて開口一言、ダンが自身の家を身ながら悲痛な叫びを上げた。改めてみると、一階の壁には二つ大きな亀裂が走り、付近の窓ガラスは割れてしまっている。二階など丸々一部屋分の穴が開いており、庭には所々クレーターがある有様――まぁ、自分の家がこんな状況になっていれば叫びたくもなるだろう。


「い、いや……まぁ、襲撃者を迎撃できただけでもいいとするか」

 

 そうぼやくダンの元に、ソフィアが小走りで近づいていく。


「ダンさん! ゲンブ一派が襲撃してきた理由は分かりますか!?」

「あぁ? そりゃあ、ヴァルカン神を倒しに来たんだと思うが……」

「それじゃあ、ヴァルカン神を護らないと……恐らく、セブンスはそちらへ向かったんだと思うんです!」

「なるほど、それで……」


 ダンは言葉を切って、改めて彼の家の惨状を納得した様子で見る――すると、気配を隠す様に物陰に隠れていたシモンを発見したようで、驚いた表情を浮かべた。


「シモン!? おめぇ、どうしてこんなところにいやがる!?」

「そ、そんな……僕はソフィアを案内しただけで……」

「テメェ、オレの部屋に勝手に入りやがったんだな? まぁ、それは良い……だが、換装パーツの付け方もおかしいじゃねぇか! なんで短くなってんだよ!?」

「そ、それは……ソフィアが取り回しやすようにしたんだよ!」

「そもそも、テメェみたいな青臭いガキがこんなところをほっつき歩いてんな! さっさとテメェの巣穴に戻って閉じこもってろ!」

「くっ……もうちょっと言い方ってもんはないのか、クソ親父!」


 恐らく、ダンはシモンに危険な場所にいてほしくないということなのだろうが、言い方はもう少しあるようにも思う。段々とヒートアップしていく二人を止めないと――そう思っていると、先にソフィアが二人の間に入った。


「ダンさん、今は緊急事態です。厳しいようですが、シモンさんとの話し合いは後にしてください!」

「ちっ……また、後でゆっくりと話そうシモン。ソフィアちゃんの推測通りなら、急がねぇとマズいな……お嬢ちゃんたち! 車に乗るんだ! オレが襲撃者が来ているほうへ連れて行ってやる!」


 そう言いながら、ダンは再び車に乗り込んだ。自分たちも車に移動し、ソフィアとクラウが後ろの席に、自分は前に乗り込み――すぐにダンの車は後ろの方へ角度を着けながら勢いよく下がり、切り返して元来た道の方へと走り出した。坂を降りながら、車はどうやら街の中央にある地底湖の方へと向かっているようだった。


「ダンさん、あの子の持つ剣なんですが、聖剣レヴァンテインに似ていました。何か理由は分かりますか?」

「アイツらがどんな理由でレヴァンテインのマネっこしたかは分からねぇが、威力は勝るとも劣らねぇな……ただ、レヴァンテインのマルドゥーク・ゲイザーは一日三発までの制限があるのと同様に、あの剣は最大出量で撃つなら一発が限度なはずだ」

「なるほど、それで……」


 ソフィアが納得する理由はなんとなくだが自分にもわかった。彼女は自分とクラウを相手にしている時は、出力を抑えていたのだ。同時に恐らく最大の一撃は、ヴァルカン神を倒すのに残している――そんなところだろう。


「……エル、ダッシュボードを開けな」


 ダンが丸い装置を握りながら、自分にそう声を掛けてくる。ダッシュボードとはなんだか分からないが、彼の視線の先、自分の目の前にある引き出しのようなモノのことだろう――取っ手を引くと、その中には色々と整備などに使う道具らしいものが詰まっていた。


「その中に、強化弾……構成魔術の威力を強制的にあげる魔術弾が入っている。第六と第七、一発ずつあったはずだ。それをソフィアちゃんに」


 そう言われて、魔術弾らしいものをなんとか探り当て、後ろに座るソフィアに手渡す。


「ダンさん、これの使い方は?」

「いつも通りに詠唱すれば問題ないぜ。ただ、後装してもすぐに撃てねぇからすぐに使いたいなら魔術弾を込めなおす必要はあるな」

「分かりました」


 答えてすぐにソフィアは魔術杖を操作し、元々装填されていた弾を取り出して自分が渡した弾を杖に詰めだした。取り回しやすいように多少ソードオフしたようだが、それでも一メートルを超える長さの杖を操作しているのだから、自然と杖は横向きに操作することになり、先端はクラウの膝に乗っている。


「切り札は最後に取っておいた方が良くないですか?」

「うぅん、出し惜しみはなし……恐らく、次は一瞬で決まるよ。だから、最善を尽くすんだ」


 魔術弾を再装填しなおし、ソフィアは機械の蓋の部分をバン、と音を立てて閉めた。


「それでダンさん、ヴァルカン神はどこに居るんですか?」

「あぁ、ちょうど地底湖のど真ん中、その底に眠っているんだが……そうだな、ちょうど破壊された灯りの真下だ」


 それで、地底湖の方へと向かっているのか――ふと前のガラスの向こうを見ると、禍々しい紫色の電撃が上空を走っているのが見えた。だが、車の屋根が邪魔で、その上空で何が起こっているのかまでは視認できない。


「ダン、これ窓はどうやって開けるの!?」

「あぁ、ちょっと待ってろ、オレが開けてやる……」

「あ、後ろの方も開けてください!」


 ダンがドア側のボタンを操作すると、四つのドアについている全ての窓が一斉に下がりだした。そして、窓から少し身を乗り出して上空を見る――僅かに輝いて見えた灯りの部分を確認すると、やはり割れた太陽の上に紫色の光が集まり、それがドンドン収束しているのが見えた。

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