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6-43:ExC(s)eed

「ライトニングジャベリン!」


 巨大な氷柱に次いで、自分とセブンスの間に走った電撃が走る。セブンスも流石に一歩下がり、自分はその隙を逃さずに神剣に飛びつく。銀髪の少女もこちらの動きにすぐ反応し、自分を妨害しようと一歩前に出る。


「させ……」

「第五魔術弾装填、ジャッジメントジャベリン!!」

「くっ……アンチソーサリー!!」


 建物に空いた穴から聞こえる呪文に対し、セブンスは対応せざるを得なくなった。しかし、魔術の装填が恐ろしく速い気がする――ともかく、神剣を拾いなおしてすぐに立ち上がり、改めて魔術が放たれた方を仰ぎ見る。


 そこには、一室の壁を丸々ぶち抜いて立つソフィア・オーウェルの姿があった。


「セブンス……今度こそ、勝たせてもらうよ」


 ソフィアはそう言いながら、魔術杖を振り回して――そう、振り回して見せた。普段は左手で杖を持ってレバーを右手で操作していたと思うが、なんとレバーを右手で握って、自身の体の上で一回転させたのだ。


「ソフィア・オーウェル……アナタの魔術は、私には通じない」

「通じるか通じないか……アナタの身体に刻んであげます」


 見上げるセブンスの眼光も鋭いが、それ以上にソフィアの視線は強く、同時に冷たい。しばらく、銀と金の髪の少女が見つめ合い――そしてその緊張をソフィアが先に破った。杖をセブンスに向け雷撃を放つが、銀髪の少女はそれを大剣で斬り、そのまま一気に跳躍してソフィアが空けた穴から中に侵入した。


「ソフィア!!!!」


 魔術を斬る相手に、ソフィアを一人にするのはマズイ――そう思いながら慌ててダンの邸宅の方へと移動して、ドアをけ破った瞬間、轟音と共に何者かが上から落ちてきた。


 あのセブンスという少女の強さとスピード、魔術を無効化する技を考えれば――最悪のケースを想定すると、振り向いて何が落ちてきたのかは見たくない。しかし、意を決して振り向いてみると、落ちてきたのはソフィアではなく、刀身と持ち手を凍らせながら表情を歪ませるセブンスの姿であった。


 ◆


 以前一度勝ったと言えど、ソフィア・オーウェルは決して油断できない相手だとゲンブから聞いている。同時に、電撃の魔術をいなしながら相手にできるほど、エリザベート・フォン・ハインラインも甘くはない。遠回りにはなるが、まずは援護射撃を出せるソフィアを倒すべきと判断し、屋内に跳んで入る。


「……かかったね」


 屋内に着いた瞬間、ソフィアの声が聞こえる。何にかかったというのか――実際、剣を構え直しながら少女を見るが、杖を頭の上で振り回して再装填しているのだから、その隙に攻撃すれば自分の勝ち――と思ったのだが――。


「動けない……」


 というより、足が前に出ない。下を見ると、自分の靴を氷が覆っており、これのせいで動けなくなっていることに気付く。ソフィアは自分がここから来ることを読んで、予めトラップを張っていたのだ。


 とはいえ、この程度の小手先技なら何という事はない。解呪のコードを起動してミストルテインを足元に突き立て、氷の魔術を無に帰し――そうしている間に、前方から少女の凛とした声が聞こえてくる。


「第三、並びに第五魔術弾装填……行くよ、栄光を超える戒杖、グロリアスケイン・エクシード! 構成、氷結、冷風、停滞、かの物に纏わりつけ! 氷晶の塵風【フロストエア】!!」


 足元の氷を解呪するのに気を取られて、次の魔術への対応が遅れた。放たれた魔術にはダメージこそないが、纏わりつくような冷気は全体の無力化が難しい――全身を猛烈な冷気にさらされたことにより、体の動きが鈍くなってしまう。要するに、妨害の魔術を入れられてしまった訳だ。


「くっ……でも……!?」


 でも、再装填までに時間がかかるはず。その間に倒せばと前進しようとした瞬間、ソフィアの杖の先端がこちらを捕らえていた。慌てて解呪を起動したまま刀身を盾のように構えて――恐らく退かないと死ぬ――後ろに跳んだ。


「ブリジットジャベリン!!」


 呪文の名が聞こえると同時に、刀身に確かな衝撃が加わり、壁に空いた穴から外へと吹き飛ばされてしまう。氷柱をぶつける魔術、だがその冷気のせいで剣を持つ手も凍えそうだ。身体能力も鈍くなっており、なんとか、という調子で着地した上を仰ぎ見る。


 そこには、こちらを緑色の瞳で冷たく見下ろす少女が、頭上で杖を一回転させている姿があった。そしてやっと理解した――杖の両端に魔術弾を装填する機構がついており、ほぼ同時に二発の魔術を撃てるようにしているのだと。


「そんな……あり得ない」


 そう、目の前の事実としてはそうなのだが、それはあり得ないはずなのだ。魔術とは本来、構成要素を術者が演算し、詠唱を簡略化するなら魔術弾を媒介にして発動するが――どちらにしても演算という過程がある以上、人の脳で二種類の魔術を同時に処理することは不可能なはずなのだ。


「……魔族の中でも知能の低い物や、魔獣を相手にするなら、ディフェンダーの人に守ってもらいながら強力な攻撃魔術で敵を殲滅するのが合理的……でも、アナタのような魔術を無効化する者が相手なら、妨害魔術で有利状況を作るのも魔術師の役割です」

「……あり得ない。それを同時にしようだなんて」

「あり得ないなんてことはない。アナタが眼にしていることが真実ですよ、セブンス」


 先ほどと同様、屋内に居る少女と睨め合う形になる。しかし、先ほどと心理的な状況は全く異なる。油断したつもりは無いが、以前圧倒した相手に今度は圧倒され返しているのだ。そして、それだけではない――。


「……はぁ!!」


 下で待ち構えていたハインラインの器が自分に斬りかかってくる。無事な左手で柄をしっかりと持ち直し、なんとかその一撃はミストルテインで受けるモノの、妨害魔法のせいで力が入りきらず、今度は鍔迫り合いでも圧倒される形になってしまう。


 このままではマズい、押し切られる――そう思った瞬間、遥か遠方で大爆発が起こった。その音と衝撃はかなりのモノで、地下空間に巨大な火柱が上がるほどのものだ。


「くっ……何!?」


 状況を把握するためか、エリザベート・フォン・ハインラインは距離を取り、同時にソフィアも一瞬だがそちらに気を取られたようだ。妨害魔法の入った今の状態で、魔術を二連射するソフィアとエルを同時に相手にするのは厳しいし、クラウディア・アリギエーリが目覚めたら敗北は必須――そう判断し、周りが気を取られている間に一時撤退することにする。


 エリザベート・フォン・ハインラインの「逃げた!?」という声を背に受けながら、坂にある建物の屋根をつたい距離を放す――背後に冷たい殺気を感じ、振り向いて襲い掛かる雷撃を切り落とし、そして少しの時間差で放たれてきた氷柱を弾いて、ソフィア・オーウェルから距離を取るため移動を再開した。


 ある程度進むと、向こうから自分を視認できなくなったのか追撃が止まった。同時に、妨害魔術の効果が切れ、やっと本調子を取り戻す。


『セブンス……苦戦していたようですね』


 そして安全圏まで移動できたタイミングで、ゲンブがサークレット越しに声を掛けてきた。


『うん……アナタのいう通り、ソフィア・オーウェルも危険な存在……でも、二つの魔術を同時に駆使するなんてあり得る?』

『あの子も言っていましたが、まぁあり得てしまった、ということになるのでしょう。魔術の同時構成は第七階層を撃つよりも難しいはずですが……スーパーコンピューター並みの演算力があれば可能なのかもしれませんね。それを肉の器にある彼女が出来るとは、にわかに信じがたいですが』

『ようするに、ゲンブも分からないと』

『ははは、コイツは手厳しい……ですがその通りです。彼女の考案なのか、それともフレデリック・キーツの入れ知恵なのかも分かりませんが……それより、フレデリック・キーツの眠る場所が分かりました。アナタにそこを破壊さえしてもらえば、我々の勝利です』


 確かに、今回の第一目標はフレデリック・キーツの撃破だ。退くことに対しては、なんだか胸にもやもやは残るモノの、自分たちの勝利条件は満たせる――そう割り切ってゲンブのいうポジションを目指すことにした。

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