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6-39:陳の罠 上

 解放したエネルギーが巻き起こした爆発による煙が晴れると、鉄巨人は跡形もなく燃え尽きていた。というか、半径五十メートルほどに巨大なクレーターが出来上がっており、辺りの建物を吹き飛ばしてしまっている。夜間で店はやっていないし、恐らく自分がドンパチやっている間にみんな避難もしただろうから人的被害は無いだろうが――。


『……むしろ、俺の方がゲンブより街を破壊しちまったな……』

『まぁ、調整も出来なかったんだ、仕方ない……それで、チェンはどこに行った?』


 言われた通り、人形の気配を探す。相手も潜伏して奇襲するつもり、というわけではなさそうだ。かなり離れてしまっているが、遠景に浮遊する人形を捉える――なにやら身をひそめる所を探しているのか、こちらから離れていってしまっているようだった。


『どう……追う……』

『……おい、べスター?』


 突然べスターの声にノイズが入り、段々と聞き取りにくくなってくる。ただ、寸でのところでアドレナリン、という単語が脳内に響いて状況を理解した。要は危機的状況が去って自分の興奮状態が落ち着いているせいで、べスターの声が聞こえなくなり始めているのだ。


『おい、今ADAMsが使えなくなったら困るぞ!? ……くっ!!』


 なんとか使用不能になる前に加速装置を起動させ、チェンの後を追う。チェンは坂の上を走っている貨物列車に身を隠すつもりなのだろう、ほとんど点のごとき小ささになっているシルエットが列車の中へと吸い込まれた。


 それを追い、一気に道路を駆け抜け――消防車が出動しているようだが、その横をすり抜け、坂に点在する建物の屋上を飛び移り、一気に貨物列車の屋根まで到達したところで加速を切った。


『おい、べスター、聞こえるか? ……いや、聞こえないのは俺か……うん?』


 べスターの声が聞こえなくなるのと同時に、自分を覆っていた黒い鋼体がかさぶたのように崩れ落ちてしまう。ADAMsを使った反動はないが、それでも加速が出来なければ変身は出来ない――いや、恐らくは冷却時間などが必要で連続の変身もできないだろう。ここからは生身で進まなければならない。


 貨物の上を飛び移りながら、人形の気配を手繰る。コンテナの中にでも入られてじっとされたら分からないかもしれないが、開けたような形跡もないし、恐らくは前の方に居るのだろう。自分も前に進むことにする。


 運転車両にたどり着く直前でふと前を見ると、トンネルに列車が入る直前だった。反射で「うぉ!?」と間抜けな声をあげてしまうが、寸前で身をかがめ、なんとか入口に頭を激突しないですんだ。そのまま匍匐ほふく前進して連結部分に降り、改めて気配を手繰る――運転席に三人分の気配、それも一つはやけに小さい。ここにチェンがいることは間違いなさそうだ。


 運転室への扉をゆっくり、静かに開ける――中を覗き込むように見ると、恐らく運転手であろうドワーフが倒れており、その傍らにゲンブ人形が浮いているのが見える。角度的に、ここからなら当てられる――ベルトから市販の短剣を一本抜き出し、それを微かな隙間から人形の後頭部を目掛けて放った。


 てっきり結界により弾かれるかと思った短剣は、そのまま人形の頭に深々と刺さった。事切れたかのように人形が落下するのを確認して、扉を開いて中に入ることにした。


「なんだ、もう結界は切れていたのか……?」


 こちらの質問に対し、人形はうつ伏せから首だけ百八十度回し、天上を仰ぎ見るような容で答える。


「ははは、というより、もうこの人形の身を護る意味も無くなったのですよ」

「……どういうことだ?」


 人形が笑いながらカタカタ口を動かすのに合わせて、貨物列車の速度が上昇した。


「悪いですが、アナタにはしばらく遠くへ行ってもらいます。巨大な迷路になっている地下鉄道の中で、しばらく彷徨っていてください。幸い、ADAMsは緊急時にしか作動できないようですから、結構な時間稼ぎになるでしょうし」

「なっ、しかしお前も街から離れて……」

「ふふふ……いやぁ、あえて以前と似た人形を調達して正解でした」


 やられた、要するにこの人形は本体ではなかったということか――冷静に考えれば念動力で遠隔操作ができるのだから、チェンは危険な渦中に身をさらす必要なんかないのだ。

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