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6-35:黒い鎧、赤い虎 上

 工場を出て街の中央へ向かって走っていく途中、逃げ惑うドワーフたちとすれ違う。より安全な方へと逃げていく彼らに対して、自分は爆発が起こっている危険の中心に向かっているのだからすれ違うのも当たり前か――緊張感が高まってきたおかげか、脳内から自分を呼ぶ声が聞こえ始めた。


『アレはおそらくチェンだな。それでなんだが……』

『言いたいことは分かってる……だが、それはやっこさん次第だ』


 べスターとしては、可能ならゲンブと話がしたいことは理解している。自分としては――手段を選ばないゲンブ一派のやり口は気に入らないし、シンイチの件やエルの件で単純には手を組めないと思っている一方で、確かに多少は話し合う必要性があるのは感じているのも確かだ。


『しかし……ありゃなんだ?』


 宙に浮いている人形に近づいていくにつれ、次第にその周りに浮かんでいるオブジェクトもハッキリしてくる。どうやら、アレも何かしらの人形らしい。ただ、推定ゲンブが宿っていると思われるものと違い、等身も人並みでそれぞれが何かしらの武器を手に持っている。身体は鋼鉄に覆われており――砂漠の地下で見た、第五世代アンドロイドに近い感じのもの、それが視認できる範囲だけでも四体はいるようだった。


『アレは、チェンの機械布袋戯……旧政府軍の諜報員にして、サイオニックであるチェンジュンダーが念動力で操るロボット群だ』

『なるほど、新兵器の実験台に丁度良さそうだ』

『馬鹿か貴様は……戦わないにこしたことはないだろうが』

『おっしゃる通りで』

『とにかく、今回はオレの名前を出せ。そうすれば、恐らく会話の糸口にはなるだろう』

『あぁ、了解だ』


 こちらが近づいていくにつれ、機械人形たちは手を止め、主を護るようにその周りを取り囲んだ。向こうもこちらの接近には気付いていたのだろう――同時に、すぐさま敵対行動に出るつもりもないということらしい、向こうから攻撃することなく自分の声が聞こえる所に来るまで待っていたようだ。


「アラン・スミス……まさか、アナタがいらっしゃるとは。不幸半分、幸運半分といったところでしょうか?」

「いいや、百パーセント不幸……と言ってやりたいところだが。だが、俺からも話がある」

「えぇ、えぇ、私もアナタとはゆっくり話をしたいと思っていました。ですが、アナタの要件から聞きましょう、なんでしょうか?」

「……エディ・べスター」


 以前と同じような、西洋風のアンティーク人形――その表情は動かない。しかし、少し動揺したように肩を揺らしたように見える。


「……センチメンタルな感傷と思っていましたが、アナタがADAMsを取り戻したのはやはり……」

「あぁ、俺の中にエディ・べスターの亡霊がいる。常に声が聞こえる訳じゃなくて、緊急時しか聞こえないのが玉にきずだが……」

「まさか、霊などという非科学的なモノが存在しているとはにわかに信じがたいですが……アナタが知らないはずのホークウィンドの名前を出したことを鑑みれば、あながち否定もできないでしょうね。ちなみに、緊急時しか声が聞こえないということは、全ての事情が共有されているわけではない、という認識でお間違いないでしょうか?」

「あぁ。だが、恐らく重要な所は共有された。それを正しいかどうか判断する材料はないが、おおよそ間違いないと納得もしている」

「なるほど……それで、アナタはどちらに着くつもりなのですか?」

「それはお前次第だ、ゲンブ……いや、チェン・ジュンダー。俺はお前らの味方でもない、七柱の味方でもない……俺はシンイチが護ろうとしたこの世界に生きる人々の味方。それを踏みにじる奴が、俺の敵だ。

 それに、俺には七柱の全員が邪悪とは思えない。この世界の在り方に疑問を覚えて俺を蘇らせたレム、俺を信じてくれたヴァルカン……まだ、話せる奴だっているかもしれない」

「それ自体は否定しませんよ。一万年の時があったのだから、彼らだって内部分裂している可能性はある。出来れば、そう言った方とは手を組みたいくらいです……ですがアラン・スミス。アナタのその甘さが、悲劇の引き金になるとは考えないのですか?」


 チェンの言葉に、一瞬迷いが蘇る。それは自分がエルに、相手の事情も知るべきと言ってしまったこと。それが無ければ、シンイチはあの夜に散らずに済んだのに――こちらの迷いを見透かしてか、チェンは上から叩きつけるように続ける。


「甘さが敗北に繋がるのなら、無用な情は捨てるべきだ。善き人を殺したそしりなど、後の世の人々が好き好きにすればいいのです。同時に、この惑星レムでは、母なる大地で行われていたモノと同様の実験が行われている……誰が敵で誰が引き入れられるのか分からない間は、全員を対象として抹殺していくしかない」


 その声からは、チェンの感情は読み切れない。自らの非道を自覚しつつも良心の呵責に苛まれながらも覚悟を決めているのか、それとも根っからのサイコパスでただ本心を言っているだけなのか。


 どちらにしても、チェン・ジュンダーは合理的な考えの持ち主であり、敗北の可能性を少しでも減らすのに最善の手を打とうとするリアリストと言えるのだろう。手を組めるものが居るなら組むが、不透明な間は危険因子を少しでも排除する――その考え方自体は否定できるものではない。


 だが、それに自分が共感できるかと聞かれれば別だ。


「……お前の言っていること、間違えてないと思うぜ。それに、俺に甘さがあって、同時にその半端さが、良くない結果を招くことだってあるのも否定しない。

 だがな、偉い奴や頭の良い奴の陰謀に巻き込まれる人たちに……歴史の大きなうねりにさらわれて悲鳴を上げている人に手を差し伸べる奴だって、必要なんだと思う」

『アラン……そうだな、お前はそういう奴だ。そして、オレはもう一度お前に会ったら、今度こそその感情に任せようと思った……』


 脳内の友が、自分の意見を肯定してくれた。それに幾分か自信を取り戻し自分が宙に向かって――浮いている人形に対して視線を向けると、人形はやれやれ、といった調子で首を横に振った。


「ふぅ……べスターから聞かされていた話は本当だったようですね。原初の虎は、甘い夢想家であると」

「甘い夢想家で結構だ」


 要するに、チェン達は惑星レムに生ける人々のことを鑑みることもないは無い、ということなのだろう。それならば――こちらが身体に力を入れると、人形は慌てたように――いや、わざとらしく手を振って見せた。

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