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6-34:地下への襲撃、爪を研ぐ虎 下


 ◆


 外から響く爆音に一気に意識を取り戻し、目の前で同じく外を見ているダンの方へと顔を上げる。


「ダン! うぷっ……」


 意識は一気に覚醒したものの、体に残ったアルコールはすぐには分解されてくれない。そのせいか吐き気が酷いのだが――勢いよく顔面にかけられた水のおかげで、幾分か気分も良くなった。


「……少しは酔いは覚めたか?」

「少しはマシになった……ありがとうよ。しかし……」

「……あぁ、どうやら古の神々がお出ましのようだ」


 ダンはこちらに掛けた水筒を放り投げて立ち上がり、背後にある扉の前へと移動した。


「アラン、着いてきな」

「いや、しかし、俺も迎撃に……」

「いいから来るんだ」


 ダンが扉の横にあるパネルを操作すると、機械の扉が開かれる。老人の雰囲気には逆らえない何かがあり、同時に信用できる何かがある。緊急事態に無駄なことをする男とも思えないので、ここは着いて行く価値がありそうだ。


 扉の奥の一室は、窓もなく薄暗く、足元を走る非常灯の僅かな明かりが淡く室内を照らしている――室中の輪郭を辿ると、どうやら様々な設備や配管などが所狭しと敷き詰められている小さな部屋であるのだが、この施設の主たるダン・ヒュペリオンはどしどしと配線に足を取られることなく奥に進んでいく。


「……レムからテメェの武器を作ってくれと言われたとき……いてて。テメェにくれてやるもんなんて何一つねぇと思いながら、気が付けば勝手に体が動いていやがった……その答えがこれだ」


 ダンは腰を曲げて何かを室内の奥から取り出し、振り返ってこちらへと歩いてくる。そして真剣な表情で帯状の物をこちらへと差し出した。


「……ベルト?」

「投擲用の武器などのサブウェポンは間に合わなかったが、一番使うはずの二つに関しては完成している……着けてみな」


 言われた通りにベルトを受け取り上着の下に巻きつける――帯が太くズボンに直接取り付けられないので、元々の短剣がささっているベルトはそのままで、受け取った新しいベルトは上着の下、腹部に直接巻きつける形になる。


「両脇の二刀は、高周波ナイフだ。接近専用だが、強度と切れ味は折り紙付きだ。テメェが超音速でぶん回しても折れもしねぇ壊れもしねぇ、しかし鋼鉄だろうが超合金だろうがスパスパ斬れる代物……名づけて、カランビットナイフ・タイガークローだ」


 言われて、両腕を交差させて刀剣を抜き出してみる。刀身は大きく反った両刃で、柄の部分に指を通す穴が開いている。穴を起点にクルクルと回し、順手、逆手でそれぞれ握ってみるが、かなり手になじむ――穴の部分にトリガーがあり、それを引くと刃が振動する機構のようだった。


「刀身は短いが、お前さんの場合は突進して相手の懐に飛び込むか、すれ違いざまに斬りつけるのがメインだと思ってな。取り回しやすいから自分を傷つける心配もないし、力も入りやすいからパワーも乗せやすく、防御にも向くだろう」


 こちらがナイフを振り回している横で、ダンが追加の説明をしてくれる。


「あぁ、コイツはいい仕事だぜ、ダン。名前も気に入った」

「へっ、安直だって文句言われるかと思ったぜ」

「一周回って、シンプルな奴がカッコいいと思う年頃なんだ……それで、もう一つは? あとは何もついてないみたいだが」


 二対の短剣を鞘に収めながら尋ねると、ダンは暗闇の中で白い歯をむき出しにして笑った。


「……アラン・スミスの最大の武器にして最大の弱点、それがADAMsだ。爆発的な加速力を産む代わりに、身体を蝕むが……もう一つの武器はその長所を伸ばし、短所を補う機構だ」


 ADAMsの長所と短所を補うとなれば、体を機械や改造するか、パワードスーツを装着する必要があるはず。肉体改造なしでとなればスーツの着用になると思われるのだが――そこまで考えた瞬間、ダンがベルトを渡してきた真意を察した。


「おい、ダン……まさか!?」

「馬鹿野郎!! 緊急事態だってのに二ヤついてんじゃねぇ!! まぁ、オレも気持ちは分からんでもないがな……!!」


 これが何のための装置なのか理解した瞬間、興奮のあまりにテンションが上がってしまった。とはいえ、とがめるほうのダンも根っこが男の子なのだろう、向こうもニヤつくのを抑えられないようだ。


「そ、それでどう使うんだ!? こうか!?」


 言いながら腕を振り回してそれっぽいポーズを取ってみる。しかし、先ほどまで笑っていたはずのダンは俯いてしまった。


「……残念ながら、音声認識やポーズによる機構は出来なかった」

「な、なんだと!? 超科学力を持っても不可能だと言うのか!?」

「落ち着け馬鹿野郎! むしろ最高のセーフティがついてるとも言えるんだ……正面のバックルを弾いて開いてみろ」


 言われた通りにバックルの端を弾いて開くと、中に何かしらの機械のようなものが埋め込まれているのが見える。


「バックルを開いている状態で、ADAMsを起動するんだ……音速の壁を超えた瞬間、そのエネルギーが発動のキーになって、お前を護るための鎧が発現する。とはいえ、鎧自体のエネルギーの問題で、常時着けておける訳じゃねぇ」

「なるほど、制限時間がある訳だな……何分だ?」

「単純に身に着けるだけなら十分程度。ADAMsの利用量に応じて短くなる……ただし、エネルギーの解放をすれば……」


 ダンの説明を巨大な爆発音が遮った。まだ距離は遠いようだが、結構派手に暴れまわっている奴がいるらしい。


「ちっ……ノンビリしている暇はなさそうだな!」


 吐き捨てながら、アルコールの臭いが漂う休憩室の方へと向き直る。 


「お、おい待て! まだ説明が終わってないぞ!?」

「あとは使いながら覚えるさ! ありがとうな、ダン!!」


 振り返ってそれだけ言い残し、休憩室を抜けて工場の階段を駆け降りる。工場の扉に手を掛けたタイミングで、上の通路に重い足音が響く――ダンが途中まで追ってきたのだろう。


「……オレは原初の虎は信じてねぇ! だが、テメェは信じる!! この街を……頼む、アラン・スミス!!」


 左手で親指を上げて返し、工場の扉を開け放った。見れば、焼ききれた天上から月明かりが差し込み――市街地の方であがる爆発と煙が、あけ放たれた穴を目掛けて昇っていくのが見えた。

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