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6-27:継承の儀式について 上

「シモンさんとダンさんの仲を取り持ってみるんです!」


 クラウが出してきた作戦その一はそれだった。曰く、ダンはシモンに歩み寄りたい雰囲気があるので、二人の仲を取り持てれば信頼をされるのではないかということだった。


「なんだ、てっきり色仕掛けするとか言うんじゃないかと思ってたぞ」

「ちなみに、それも考えましたよ? 美少女三人で取り囲んでお願いすれば、ダンさんも鼻の下伸ばして考えを改めてくれるんじゃないかなぁと。でもそれじゃ結局、アラン君の信用にはならないじゃないですか?」

「まぁ、それもそうだな……だが、シモンからしてみたらどうかな? あの様子じゃ、親父の顔も見たくないって雰囲気だったが」

「まぁ、それはそうかもしれませんが……シモンさんには悪いですけど、ここはダンさんの好感度が肝ですからね。それにまぁ、きちんと会って話せば、意外とシモンさんも歩み寄れるかもしれませんし……」


 そう言った時、クラウはソフィアの方をちらりと見た。先日、親子の解消されない不和を見たばかりだから、言葉選びは慎重に行ったのかもしれない。案の定、ソフィアは少し渋い顔をしていたが、それを見てエルがすぐにソフィアの肩に手を置いた。


「……それに、ダンは高齢のようだったし……いくらドワーフが長寿と言っても、話せる内に話しておいたほうがいいかもしれないわね」


 そう、エルとクラウの言う事だってまた道理だろう。二人は話したくとも親がすでにいないのだから。ソフィアもそれを察したのか、少し伏し目がちにだが「そうだね……」と頷いてくれた。


 さて、やることは決まったと言っても、如何せんシモンの行方が分からない。そのため工場を離れて一度は寮に戻り、寮で世話になっているドワーフのおばちゃんに――この街で数少ない顔見知りだからこその人選だが――シモンの住処を聞き込みを行うことしたが、結果は芳しくなかった。


 次いで、ダンの邸宅に居る使用人に質問してみることにした。改めてダンの邸宅を見ると、種族の長という割には小さな一軒家に住んでいる。もちろん、小さいと言っても普通に暮らす分には十分な大きさはあるのだが。ただし、庭は広く、離れに大きな作業場のような建物が一つ、またビンテージ物という雰囲気の車や二輪車が何台か並んでいる分は多少豪華というべきか。


 しかし、機械にこだわりのありそうなダンが、車をのざらしにしているのが気にかかるが――。


「……そうか、雨も風もないからか」

「……はい? アラン君、どうしました? まぁ、アラン君の独り言は今に始まったことでもありませんが……」


 そうクラウに突っ込まれながら、自分がドアベルを鳴らす。少しして使用人の、これまたおばちゃんドワーフが扉から出てきた。おばちゃんにシモンの住処の場所を聞くと、渋い顔をされたが――逆を言えば、彼女はシモンの住処を知っているということなのだろう。


「あの、私たち、ダンさんとシモンさんがお話できる機会を作りたいと思って……」

「ふぅむ……それなら、旦那様も喜んでくれるかもしれないですね。そういうことでしたら……」


 クラウのフォローのおかげで、シモンの住処を割り出すことにも成功した。おばちゃんから渡された地図を見ると、ここからそう離れた場所でないアパートに部屋を借りているらしいことが分かった。とはいえ、車での移動が一般的なガングヘイムの地図であるので、徒歩で移動するには結構な時間が掛かったのだが。


 シモンの住むアパートは、前世的な感覚から言うと単身世帯向けワンルームの集合住宅、というのに相応しい感じだった。築年数も相当だろう、百年以上は経っている感じ――酋長の息子なんだからもっといい物件に住めばいいのにとも思うが、男の一人暮らしなんぞこれくらいの方が落ち着くという気持ちなんとなくだが理解できる。


 シモンの住む部屋はどこか分からなかったが、集合ポストのネームプレートで分かった。戻って来てからも放置しているのだろう、一杯の郵便物がぎゅうぎゅうに押し込められている――この地下都市に郵便というインフラがあるのも不思議な感じがするが――それは、アパート二階の角部屋だった。


「……シモンさん。いらっしゃいますか?」


 クラウが扉に向かって声を掛けるが、中から返答はない。


「うぅん、お出かけしてるんですかね?」

「いいや、中に居るぞ。居留守を使ってるんだ……気配も本人のものだ、間違いない」

「……改めて、アラン君って怖いですよね」

「いや、流石に壁が厚けりゃ中までは分からんぞ?」

「そういう問題じゃありません……まぁ良いです。シモンさーん! 居るのは分かってるんです、返事してください!!」


 さすがに居るのは分かっている、と言われてまで居留守を使えないと判断したのか、鍵が外れるのと同時に扉が僅かに開かれる。ご丁寧にドアチェーンの隙間の奥に、憂鬱そうな顔のシモンが居るのが見えた。


「君たちか……何か用かい?」

「えぇ、少しお話がしたいなって思いまして……こちらから来たのに不躾ですが、出来れば中に入れてほしいかなぁ、なんて?」

「いや、ちょっと散らかっててね……」


 まぁ、一人住まいのアパートに四人で押しかけるのもなんだし、男の隠れ家に女の子を入れるのも難があるだろう――きっと見せられないアレやコレの一つでもあるはずだ。ここは同じ男として、むしろシモンのことをフォローしてやった方が良いかもしれない。


「まぁまぁ、こっちも突然の来訪だしな? どうだシモン、それなら外に出て、少し散歩でもするのは」

「ふぅ……出来れば要件を教えてほしいのだけれど」


 なるほど、コイツはある意味ではなかなか根性がある。とりあえずの誘いは断りにくいものなはず――きっと前世的にはそうだったに違いない。逆に要件を先に聞くとなれば、シモンは内容次第では出る気はないと意思表示しているのだ。そういう意味では、シモンの奴はなかなかガッツがあると認めざるを得ないだろう。


 しかし、要件を直に言ってしまったら恐らく取り付く島もなくなってしまうに違いない。クラウも察したのか、こちらの目くばせに対して不敵に笑い小さく頷いて見せた。そうか、お前に良い案があるんだなクラウ――それを信じて、こちらも小さく頷き返した。


「……シモンさん、アナタは神を信じますか?」


 クラウがなんだか良い声でそう言った瞬間、ドアは乱暴に閉められた。向こうからしてみたら、玄関を開けたら居る人をリアルにやられてしまったのだから、むしろ自分としてはシモンの気持ちが分かってしまう。


 対してクラウは何が悪かったのか分からないのだろう、ドアが閉められた事実に呆気に取られていたが、少ししてハッとし、またドアをドンドンと叩き始める。

 

「え、ちょ、シモンさーん、もしもーし!?」

「残念ながら、そういうのは間に合ってるんで……」

「ちょっとだけ、先っちょだけで良いので!! 話を聞いてくださーい!!」


 何が先っちょだけだ、そう思いながら、エキサイトしていくクラウの肩を掴む。


「おいクラウ止めろ、シモンがビビってるじゃないか……というか突然なんだ、神を信じますかって」

「ぬぅ……そういうならアラン君が何とかしてくださいよ!」


 突然振られても困るのだが、それでも多分コイツよりは上手くやれるな――そう思い、クラウを押しのけて玄関の正面に立って声をかけることにする。

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