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6-20:ドワーフのダン 下

「あ、あのぉ、それで……レッドダイヤはどこにあるんでしょうか?」

「おぉっと、そうだな……レッドダイヤはウフル山脈の最高峰、スネフェル火山の火口付近にある。そこが危険なのは、多くの魔獣が生息しているから……炎に身を包んだ強力な奴が多数確認されている。

 とくに危険なのは、炎を纏った鳥型の巨大魔獣、通称フェニックスだ。まるで火を喰って活力としているみたいに、マグマを喰うと再生しやがる。場所が場所だから大型の武器は持っていけねぇし、携行可能な武器では奴の再生能力を突破できなかったんだ」


 通称フェニックス、そいつは自分とは相性が悪そうだ。そもそも、超大型なだけでも火力が不足するのに、再生能力持ちとなれば自分の力でどうにかできるイメージが沸かない。


 そんな自分の悩みを見透かしてか、ダンは嬉しそうに目尻に皺を寄せた。


「うんんんん?? どうしたんだい、アラン君。なんだか神妙な表情をしているじゃないか」

「くっ……そういう奴は俺の専門外なんだ……」

「かっはっは! 偉そうな口を聞いたくせに、所詮はその程度か!!」


 ようやっとこちらから一本取れた、という雰囲気でダンは大きく笑った。ひとしきり笑って後、今度は急に落ち着いた顔――長い時間を積み重ねてきた者とでも言わんばかりの、どこか達観した微笑を浮かべて――自分たちの方を流し見た。


「だが、お前さんたちの中には、奴の再生能力を突破できる実力を持つ可能性がある……ソフィア・オーウェル、グロリアスケインを出しな」

「は、はい!」


 ソフィアが荷物から二本に折れた魔法杖を取り出して机の上に置くと、ダンは再びその片方を手に取って断面を注視し始めた。


「……あの、失礼ですが。魔術杖の修理もできるんですか?」

「あぁ、問題ねぇ。そもそも、これを最初に作ったのだってヴァルカン神だ……アルジャーノンにせがまれてな」

「そうだったんですね……それじゃあ、魔術杖の改良とかも出来たりするんでしょうか?」

「うん? そうだな……この天才、ダン・ヒュペリオンの技術を持ってすれば、不可能じゃねぇだろうが……どんなふうに改造してほしいんだ?」

「えっと、実は…………」


 ソフィアの提案内容にダンは驚きの表情を示した。


「技術的に出来なくはねぇが……オレは魔術も基礎原理は分かっているつもりだ。お嬢ちゃん、アンタのいう改造は、脳みそが二つでも無い限りには出来ねぇと思う。しかも、それをやるメリットもあまり感じねぇな」

「……古の神々と戦うには、必要なんです」


 ソフィアの低い、真剣な声に、ダンも少々のまれているようで――確かにこの子が真剣な時は、大人ですらどこか気後れする凄みがある――ため息を一つはいて後、後ろ髪をかきながら頷いた。

 

「……分かった。しかし、何せ初めての注文だ。修理と改造には少しばかり時間が掛かりそうだが……」

「それでしたら、ひとまず予備の魔術杖で火山に向かいます。私の体には大きいので取り回しにくいのですが、学院教授向けの逸品なので、第七階層まで問題なく使用できますから」

「分かった。とはいえ、グロリアスケインには早めに手はかけておくとして……ここの設備じゃ魔術杖は直せねぇな……」


 ダンは二本の棒を持って立ち上がり、ポケットから何かの鍵を取り出した。アレは先ほどシモンが持っていたのと同じ感じ――つまり、車のキーだろう。


「一緒に来な。この街は外からの来訪者を想定してないから、宿がねぇ。代わりに、こいつを直せる工場の近くにある空き宿舎を貸してやる」


 その後、ダンに連れられて駐車場まで移動し、また一台の車に乗り込んだ。その車は、先ほどシモンが乗っていたモノと年代が近いように思うが――先ほどはハンドルが左座席にあったのに、今度は右座席にある。そのせいで、自分は最初に開く扉を間違えてしまった。


「……だぁ! なんでテメェが横に乗るんだ! 助手席には美女って相場が決まってるだろうが!!」


 ダンはしばらくは無言で運転していたが、また唐突に喚き散らし始めた。幸いなのは、運転のために唾が前に飛んでいることだろうか。


「うるせー! 狭い車なんだから、俺が後ろに座ったら窮屈だろうが!」

「それなら外を走りやがれ!! 聞いてんぞ、テメェが音速で走れるってことはな!!」

「馬鹿野郎! 生身で走るとボロボロになんだよ!!」

「かーっ! あぁいえばこういう! テメェの親の顔が見てみたいね!」

「おあいにく様、残念ながら記憶に無いんだな、それが」


 べスター曰く、自分の両親は既に他界しているし、そもそもすでに一万年前の人なのだから生きてすらいない。だが、それを言うこともない――記憶が戻ったのかと言えば違うし、生半可なことを言えば少女たちに怪しまれてしまう。


 しかし、自分の言った何気ない一言に意外と申し訳ないと思ってくれたらしく、ダンは声を荒げるのを止めて、道の先を見ながら口髭を小さく動かした。


「……言い過ぎたな、すまん」

「おい、急にそんなしおらしくなるなよ……調子が狂うだろうが」

「お前さんに記憶が無いのは、レムから聞いている……だってのに、デリカシーが無かったと思ってな」

「はぁ……今までの暴言を考えたら、もっと早くにそれを気付いてほしかったね」

「それとこれとは話が別だ。テメェの声を聞いているとイライラしてくんだよ」

「なんだそれ、黙ってろってことか?」

「あぁ、その通り。本当なら、エルちゃんかクラウディアちゃんに横に乗ってもらって、目の保養をするつもりだったのによ……」


 ダンはそうぶつぶつ言いながらハンドルを握って前を見ている。むしろ、運転中なら横は見にくいし、ルームミラーで確認できる分、少女たちには後ろに乗ってもらった方が良いと思うのだが。


 ともかく、黙れと言われたからには黙るしかないか――まぁ、この爺さんのご機嫌を取ることもないのだが、話したところで建設的でもない。後ろに座る少女たちも何を話せばいいのか分からないのだろう、車内はしん、としてしまっている。


 仕方なしに外を見ていると、地中だというのに段々と景色がオレンジ色に変わってきていた。もしかすると、時間に合わせて照明の色も変えているのかもしれない。それならそれで、時間の感覚が狂わずに済みそうで助かるのだが。


「……シモンの奴、何か言っていたか?」


 しばらくの沈黙の後、ダンが独り言のようにつぶやいた。隣を盗み見ると、相変わらず視線は前を見ているが、何か思うところがありそうな表情をしている。


「あぁ、アンタが偏屈なジジイだって言ってたぜ。実際、その通りだったな」

「けっ、あのクソ馬鹿野郎が……」


 ダンは悪態をつきながら、ハンドルの端を軽くたたいた。


 偏屈なジジイとは言ったものの、自分はダンに対してそんなに嫌悪感はない。むしろなんとなくだが、職人気質で頑固だが正直者、そんな印象を受ける。口が悪いのだけはフォローのしようもないが――表現が大げさなだけで、そんなに悪意も感じはしない。


「そういえばだが……車の趣味、アンタとシモンで似てるんじゃないか? 似たようなのに乗ってたぜ」

「いいや、確かに年代の趣味が近いかもしれないが、アイツはオシャンティーなのに被れててダメだ。やっぱり機能と頑丈さ、故障しにくさなんかも重要だぜ」

「うん、結構違うのか?」

「お前さんたちが何に乗ってきたのかは知らねぇが、ハンドルが逆なら元々作ってた国が違うんだ……まぁ、言っても分からねぇだろうがな」


 後ろの少女たちは分からないだろうが、自分には何となく分かる。旧世界は国ごとに交通の規格が違ったから、生産国でハンドルの位地も違ったのだろう。とはいえ、自分が知る限りでは自動走行車が一般的だったので、自分すら知らない、もっと前の時代のことなのだろうが。 


「あの、ダンさんはシモンさんとどういう関係なんですか?」

「……親子だよ。アイツは、オレの一人息子さ」


 後部座席の真ん中に座るソフィアの質問に対し。ダンは振り向きもしないでルームミラーを覗きながら、自嘲気味に口元を釣り上げて笑った。

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