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6-13:ドワーフのシモン 上

 扉が閉まることで一時的に脅威が去り、改めて発見できた探し人をじっくり観察してみる。恰幅が良く髭面で、背の丈も低い所を見ると、やはりファンタジーの世界で語られるドワーフという種族であるのは間違いなさそうだ。


 ドワーフというとなんだか豪快そうなイメージはあるが、目の前の男は少し神経質そうな目鼻立ちで、幅の広い顔面に対し小さなレンズの眼鏡をかけているのが特徴的だった。


「ごほっ……アンタがシモンか?」

「あ、あぁそうだが……そういうアンタは?」

「俺はアラン・スミス。迷子のアンタを探しに来たんだ」

「アラン・スミス……それじゃ、アンタが十人目の勇者か!?」


 意外な人物の来訪に、シモンは驚いた様子だ。


「さてと、聞きたいことは色々あるが……そうだな、アンタはなんでこんなところに来たんだ?」

「い、いや、それは……」


 シモンは困惑したように視線を泳がせた。恐らくだが、本来この場所は聖剣の勇者やレムリアの民たちに知られてはならない――だから、どうしようか悩んでいるというところか。


 そして、ドワーフという種族はこの星の実態にどこまで近いのかまでは分からないが、少なくともこの星の人類よりは幾分か深層を覗いているのだろう。そしてそれは、自分も同じことだ。


「多分、話しても問題ないぜ。アンタが思っている以上に、俺はこの世界のことを知っているからな……たとえば、さっきの奴らが第五世代型アンドロイドということとかな」

「なるほど……十人目の勇者、やはり特別だってことか……」


 自分に対してなら事情を話して大丈夫と納得してくれたのだろう、シモンは一息入れてから口を開いた。


「ここには、破壊されたヘカトグラムを修理するための材料を取りに来たんだ……ドワーフの都では現在生産していない機材が必要で、それが先日故障してしまったらしいんだ。それを修理するための部品を、帰る前に回収しろとヴァルカンから通達を受けて……」

「なるほどな……それで、ここは何なんだ?」

「僕も正確なことは知らない。ただ、七柱の創造神たちがこの世界に入植したときに利用した機材を保管しておくための倉庫らしい。認証コードを利用すれば防衛装置に襲われる心配はないとのことだったんだが……恐らく、最初の一体は故障していたんだろう、部品を回収して戻るときに動き出したんだ」


 そう言われて、改めて室内を見回す。中央に位置する乗り物のような機械には、砂漠でも装甲できそうな厳ついタイヤがはめ込まれている。先端には厚いブレードが着いており――端的に言えば重機だろう。そして、重機の乗っている円形の台座に乗っている先にある天井は、開閉式になっているようだ。リフトで地表に重機を出して、元々はこの辺りの植林などをしていたのかもしれない。


 そのほかにも、周りには何やら前世でいう農具のようなものが陳列しているのが見える――そして視線をシモンの方へと戻すと、また扉の近くにあるディスプレイに向かって何かを作業しているようだった。


「……しかし、僚機の方は故障してないようだったからね。それなら、改めて休眠命令を出せば、安全にここから出られるはずだよ」

「ふぅ……そいつは良かった。アンタを護りながら脱出するのは、結構骨が折れる作業だからな……」


 シモンの言葉を聞いて安心し、一気に疲労感が押し寄せてきた。薬とADAMsが馴染んできているおかげで、以前のように身体の負荷のせいで意識が落ちることはないものの、それでも炎天下の中ここまで休憩なしで移動してきた挙句に戦闘までこなしたのだから少し休みたいのが本音だ。


 重機を背もたれ代わりに座り込み、作業を進めるシモンの背中をぼんやりと見つめる――だが、それもすぐに中断せざるを得なくなった。扉の奥から激しい打撃音が聞こえ始めたからだ。


「……くそっ、ノンビリしている暇もないってか!?」

「な、何故だ……休眠命令はしっかりと出したぞ!?」

「大方、アイツもバグってたんだろうよ……しかし、ここに何か武器に使える物は無いか!?」


 跳び上がって辺りを見回し、武器になりそうなモノを探す。農具の中には鉄製の短剣よりは質量があって威力がありそうなものもあるが、如何せん相手は金属――それも特殊な合金の体を持つ機械であり、それで倒せるかはいささか疑問だ。というか、手で持てるその辺の農具を使うくらいなら、まだ打ち杭を使った方が威力がありそうである。


『いっそ、ブルドーザーで引き倒してやろうか!?』

『馬鹿かお前は。こんな狭い中で操縦できるものか』


 緊張が戻ってきたせいか、脳内のお友達の声が再度聞こえ始める。しかしともかく、シモンと生きて脱出するには第五世代型の討伐が必要だ。なんとか打倒する手段は無いか――考えながら周りを見ていると、肝心のシモンがこちらの手を指さしていた。


「……あんた、それ」


 シモンが指さしていたのは、正確には自分の手でなく、先ほど拍子で拾った何某かの兵器の柄だった。


「うん、これか? 残念ながら、俺には使えないポンコツらしいが……」

「それをこっちに! セーフティを外して、アンタにも使えるようにするから!」

「お、そいつはありがたい!」


 第五世代型に付帯している兵器なら、恐らくそれなりの威力は担保されているだろう。そう思って柄を投げると、シモンがそれをキャッチしてじろじろと見始めた。


「……いや、冷静に見れば、コイツはビームダガーだ……アイツの懐に入り込めるのか?」

「はは、そんなん朝飯前だぜ。だからさっさとセーフティを外してくんな」

「あ、あぁ……わかった!」


 シモンは壁のディスプレイの隣にあるスキャナーのような空洞に柄を置き、キーボードを打ち込みだす。だが、シモンがセーフティを解除するよりも先に、扉の奥の鉄人が業を煮やしたのだろう、扉に赤い亀裂が走り――さいの目切りに扉が切り刻まれ、機械の目がまた自分の方をじっと見つめていた。


「……標的、暫定ホワイトタイガー」


 なるほど、どうやら相手の狙いは自分らしい。その証拠に、すぐ隣ですくんでいるシモンなど眼もくれていない――それなら、自分が時間稼ぎをすればいい。


「おいシモン! 大人しくしてろよ……奴さんの狙いは俺みたいだからな」


 そう指示を出した瞬間、アンドロイドの姿が消えた。ただし、ADAMsのように超高速移動をしているわけではなく、単純にステルス機能を使っただけだろう。その証拠に、接近する気配は速いものの認知できる程度だし、何よりも殺気が――機械の体に殺気があるというのも妙な話かもしれないが、それでも間違いなくある、お前を切り刻んでやろうという殺意が――こちらにぶつかってくるのだから、イヤでも敵の位置は分かる。


 横に少しだけズレると、自分の肩先を何かが掠め、そのまま背後にあった重機のブレードを両断していた。同時に、なんとなくだが透明な襲撃者が驚いたように、一瞬だけたじろぐ気配を感じた。


「……何で見えてるのかって言いたげだな? そこんとこだが、俺にも分からん」

『何を言ってるんだお前は……大方、事情は話しただろう』


 事情を聞いたのと記憶があるのは話が別だ、そうべスターに突っ込もうと思ったがお喋りしている余裕は無くなった。相手が重機から刀身を引いて、またこちらに攻撃をし始めてきたからだ。


 空を裂く音と、時折周囲のオブジェクトを焼ききる音が倉庫の中に響き渡る。中々広い空間で物も雑多にあるので、それを上手く防護壁代わりに使いながら敵の攻撃をいなし続ける。現状では、以前に手合わせしたテレサと比べて敵の速度はぬるいため、加速せずとも避けることは可能だ。


 とはいえ、現状の速度では埒があかないと向こうも判断したのか――攻撃が止んだと思うと、若干かすむ空間の奥から「警戒レベル、最大へ修正」という声が聞こえてきた。


『警戒レベル最大になったら、今までの速度とは比にならんぞ?』


 べスターの警告に対し、ADAMsの起動の準備をする――しかし同時に、敵が振り上る刀身の――とはいっても透明だが――奥で、シモンが柄を持った手を振り上げているのが見えた。


「セーフティの解除が完了した!!」

「そいつはいい! そのままそれをこっちに投げてくれ……悩むな!!」


 シモンの判断が鈍ることを警戒して、先手を打って警告を出した。そのかいあってか、シモンはすぐさま右手から柄を放り投げ――同時に機人の刀身がこちらに振り下ろされる。


 燃える刃が自分の髪に到達する前に奥歯のスイッチを入れ、音のない世界へと足を踏み入れる。凶刃を躱し、丁度良い位置で中に漂っている柄をキャッチしてボタンを押す――音速の世界でも機構は作動してくれ、柄の先端にあるレンズの部分から三十センチほどの長さの光の刃が現れた。


 そしてそれを逆手に持ち、レーザーブレードを相手の首を当てて――音こそしないものの、すれ違いざまに激しく火花が飛び散る――すり抜け、そのまま相手の腰のあたりを背後から突き刺した。


『……あばよ、古の宿敵だったらしい奴』


 加速を解くと同時に、光刃を突き刺していた部分からバチバチと激しい音が鳴り始め――第五世代型アンドロイドが膝から崩れ落ちると同時に姿を現し、頭部が乾いた音を立てて床に転がった。


 地面に落ちた機械の頭を覗き込むと、最初こそは電子音を立てていたものの、次第に眼の部分の光が消え始め、そのうち完全に沈黙した。


「……アンタ、なんで背中まで刺したんだ?」


 声に振り向くと、眼鏡を押し上げながら、シモンが訝しむ様な表情でこちらを見ていた。


「勘だが……恐らく頭部を切り離しただけじゃ、まだ動くような気がしてな」

「あぁ、その通り……第五世代型アンドロイドのメインコンピューターは頭部、サブコンピューターは背面のアンタがちょうどダガーを刺した辺りにある……そこまで知ってたのか?」

「いいや、繰り返しだがただの勘だ」


 実際には、オリジナルの本能がそうさせたということなのだろうが――シモンにどこまで話していいかも分からないので、とりあえずその辺りは曖昧に誤魔化しておくことにした。すると、「異世界の勇者は多少の科学知識を持っているらしいからな」とシモンの方もひとりでに納得してくれているようだった。


 そして改めて、第五世代を倒した武器の柄に目を向ける。


「いやぁ、しかし良いものを拾ったな。なんとなくレーザーは性に合わないんだが、これで俺の攻撃力不足も解消される……」


 そう言いながら柄のボタンを押すが、光の刃は出てこない。その後もポチポチとしてみるが、結果は変わらなかった。


「あれ、なんで……?」

「……レーザーブレードだってエネルギーがいるんだよ。元々、そのエネルギーは何から供給されてたと思う?」

「……なるほどね」


 要は、本体からエネルギーを供給されていたのだから、一回分だけでも使えたのは御の字か。若干惜しい気もしつつ、どうせもうガラクタなのだからと、倒れる機人の方へと柄を投げ捨てた。

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