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1-20:エルの武器講座 下

「……アナタ、スカウト向きよ。というより、記憶を失う前は、それに近いことをしてたんじゃないかしら?」


 エルは柱に近づいて、二本のナイフを引き抜いて後、こちらに近づいてくる。


「ちなみに、私は最初に投げた位置で当てるのが限界くらい。アナタはその倍で正確に、四倍でもしっかり的に当てている。しかも、最初は半回転で当ててた……アレ、飛距離は伸びない代わりに、命中精度は高いの。そのあとは遠投で、そもそも当てること自体が難しいわ。まぐれでは無理なことは勿論、一朝一夕で出来るものじゃない……体に染み込まれているのよ、アナタの投擲術は」

「そんな、待ってくれ、そんな……」


 自分は平和な世界から転生してきたんだ。だから、そんな物騒なことが出来るはずがない――いや、もしかしたら、趣味でナイフ投げをやっていた、そんな可能性もあるのか? いや、もしかしたらレムが言い忘れただけで、実はスカウトのスキルを与えていたのかもしれない。昨日だって、ソフィアに索敵が出来て驚かれていたくらいだし――。


「……私がアナタを必要以上に警戒していた理由、言うわね。ワーウルフは、耳も鼻も良いわ。もちろん、私を探すことに集中していたから、多少は他のモノを探すのには意識が欠如してたのでしょうけど。

 でも、気配をある程度消せないと、あの距離までは近づけない。その上、確かに一瞬魔族相手にひるむ様子も見せたけれど、ナイフを投げる時には、アナタは一切の迷いがなかった。だからね……」


 こちらが色々と考えている傍で、エルは話を続ける。声は聞こえても、内容はイマイチ頭に入ってこない――顔をあげられなかった。


「……私はアナタのこと、暗殺者だと思ったのよ。記憶喪失は本当だとしても……もしかしたら、船の中にアナタの標的がいて、航海士に偽装して潜り込んでいたんじゃないかしら? それで、そこで何某かの事故があって、海に放りだされて……」


 そこまで言われて、なんだか自身のアイデンティティの危機を感じた。この身に刻まれている技は、暗殺者に近い。投擲、索敵、隠密、確かにアサシンが持っていそうな技能ばかりだ。


 そうなると、やはりレムに転生させられた、というのは妄想なのかもしれない。もしかしたら、自分は元々この世界の住人で――いや、そうなればこそ、人を殺めることを生業としていたのだとしたら、それは自身の持つ倫理観にかなり反する。だが、この倫理観すらも、自身が作り出していた幻の可能性があるのだ。


 もし、昨日のソフィアの言っていたセントセレス号の消息不明と、自身が暗殺者であったという仮定を合致させるなら、自分が船で船員を殺害した挙句、船が動かせなくなり、消息不明になっている可能性すらある。そうなれば、自分は大量殺人者になってしまう。そう、思考がぐるぐると回りだし、眩暈がする心地がしてきた。


「……ごめんなさい。唐突に、お前は暗殺者だ、なんて言われて気分が良いわけないわよね。でも、アナタにそっち方面のスキルがあるのは本当。それに、暗殺者じゃないとしても、スカウトに親和性が高いスキルをすでに有しているのも確かなのよ」


 そう言いながら、今度は刃渡り三十センチほどのダガーナイフが手渡される。それを受け取ると、悲しいかな、先ほどの大剣よりも手になじんだ。


「暗黒大陸は、危険な場所よ。もし体に刻まれている芸があるなら、それを使うに越したことはない……もちろん、そのうえでディフェンダーをやりたいっていうなら、そっちの武具も説明するけれども」

「いや……」


 彼女の言っていることは至極真っ当だ。一昨日に昨日と戦闘をしてみて、これから練習で生き残れるほど、暗黒大陸で冒険者として生き残るのは簡単でないのは実感済み。それなら、少しでも持っている技は活かすべきだ。それに、盾を持って守る戦いというのは、なんとなく自分に向いていない気もする。しかし――。


「……なぁ、エル」

「なに?」

「俺、本当に暗殺者だったと思うか?」


 言った後にハッとする。情けないことを言った――慰めてほしいかのような物言いをしてしまった。やっと顔を上げると、しかしエルは気を使っているようでもなく、やわらかい表情をして笑っていた。


「……とりあえず、一つ言えることは、アナタみたいに軽くていい加減な奴が暗殺者ってのも違う気もするわ。その技と同様に、その適当な性格も、生来のモノでしょうし。私が言ったのはあくまでも可能性だし、あまりに気にしないで」


 言葉よりは、その笑顔に少し救われた気もする。冷静に考えれば、レム本人に直接聞けば良いだけだ。この二日間、特に音信もないが、こちらを見ていると言っていたし、そのうち声もかけてくるだろう。


 何より、過去が無い分、今が全部だ。もし自分が自分を転生者と勘違いしている痛いやつで、過去に暗殺者だったのだとしても、これからはやりたいようにやれば良いだけだ。


「はは、気を使わせちまったな、ありがとう」

「何、変なものでも食べたの?」

「なんだよー元はと言えば、お前が変なことを言うからだぞ?」

「はいはい、ごめんなさいね……それで?」

「あぁ、言っていることはごもっとも。それに、確かにこっちのが手になじむからな」


 右手のダガーをひょい、と投げ上げ、クルクルと回転させたところで柄を取ってキャッチして逆手に構えて見せる。


「えぇ、適当なもの薦めて、死なれたら目覚めも悪いからね……商人は、そういうの気にしないんでしょうけれど」


 エルが横目で店員のほうを見ると、中年は口笛を一吹きしてとぼけて見せた。しかし、ディフェンダーが向いていない、スカウトが向いているのは分かったが、本場の目利きも一応確認してみたい。


「あのー、一応、アタッカーとしてはどうでしょう?」

「アナタ、力は?」

「五でした」

「向いてないわね」

「はい、わかりました……そういえば、エルはなんで武器屋にいるんだ?」

「はっ……自分のことを忘れていたわ。この剣がそろそろ限界そうだから、買い換えようと思って……」

 

 なんでも、どうせ魔族や魔獣の怪力を相手にしていれば、すぐに武器なんぞ壊れてしまうので、高額のものを買うよりそこそこの値段でそこそこ頑丈なものを買うのが良いのだとか。そうなると、ガランゼウスの長剣が人気なのも分かる。


 ともかく、その後も武具一式を見繕ってもらい、投擲用のナイフを二十本、ダガーを二本、投擲にも近距離戦にも使える手斧を一挺に、動きやすく服の下に着こめるチェインメイルと、投擲しやすいよう指抜きの篭手を買い、結局計千五百ゴールドくらいで装備の購入は済んだのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!!

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