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5-41:七柱会議 上

 王都の襲撃が起こった後、ルーナより七柱の招集がかかった。とはいえ、本体はそれぞれ遠隔の地にあるし、自身はすでに実体はないAIなのだから――都合、電子による仮想空間内にそれぞれ集まることになっている。


 七柱に招集が掛かると言っても、概ね集まるのは四柱から五柱だ。ハインラインは常に眠りについているし、アルファルドが姿を表すことは滅多にない。その他、都合が合わないものが集合しないケースもあり、今も実際に集まっているのは自分を含めて四人だった。


「……アルジャーノンは、メモリーの修復と移行に手間取りそうじゃからな。これで全員か」


 そう切り出したのはルーナは――その姿は幼い少女のモノで、今はセレナと名づけた肉体に宿っている――仮想現実の海に浮かぶ円卓につき、自分の対面から周囲を見渡してそう呟いた。


「旧世界からの来訪者が、モノリスからパワーを抽出してをぶっ放してオレ達に牙を向けてきたんだ。ハインラインも起こすべきなんじゃないか?」


 そう言ったのは、自分の隣に座るヴァルカンだ。胸まで覆うほどの白い髭に、背は低いものの恰幅の良い男性――ファンタジー世界のドワーフをなぞった姿をしている。元々からそこまで身長の高い男ではなかったが、今はそれにもまして小さい。ただ、現在の体になってから結構な歳が経っており、その顔には多くの皺が刻まれている。


 ヴァルカンの意見に関しては、この場を仕切っているルーナが首を振った。


「結論から言えばノーじゃ……理由は追って説明する。さて、本題に入る前に……レム、答えてもらわねばならぬことがある」

「……原初の虎について、ですかね?」

「そうね、私もそれは聞きたいわ」


 自分の言葉に返ってきたのは、ルーナではなくヴァルカンの隣にいる女性の声だった。レア神――エルフという種族になぞった姿ではあるものの、すでに人間でいうところの初老といった風貌である。その身を長命には設定したものの、その寿命を四千年程度に設定しており、その身を使い始めてから三千年近く経っているのだから相応というところか。


「彼の存在は、我々にも伏せられていましたね。納得のいく理由が欲しいわ」

「……私の方で、チェン一派の存在を想定していました」

「その対抗策として彼を復活させたというの? 私たちの敵対者を対抗策にするだなんて愚行だし……仮に百歩譲ってアナタの言う事が本当であっても、そもそも何故私たちにチェン一派の暗躍すら伏せていたの?」

「彼らがこの星に来るというのはあくまでも可能性の一つで、確証はありませんでした。アルフレッド・セオメイルの生体チップが機能を停止した時に、若干の違和感があっただけ……その処置を施すほどの技術力を持つ可能性の一つとして想定していただけです」


 これは事実だ。実際、チェンは痕跡をほとんど残してくれず、アルフレッド・セオメイルの生体チップの停止は誤作動と言える範囲に留まり、あくまで可能性の一つとして想定していたに過ぎない。本当に彼らがこの惑星に来ていることを確信したのは、アラン・スミスがレヴァルの地下でその気配を察知した後だった。


 しかし、恐らく自分よりも早く、チェン一派を察知していた一柱が居るはず――魔族の使う魔法に関しては、彼が管轄。本当は存在しない、偽りの邪神ティグリスに対する祈りを受ける神――つまり、彼は自分よりも早くレヴァルの地下空間でジャンヌ・アウィケンナ・ネストリウスが暗躍していたことにも気付いていたのだし、彼は敢えてそれを放置していたとも言える。


 その彼は、今この場には居ない。居ない理由が分かっているのも自分だけだろう。その一柱だけは全てを知って、そのうえで行動していたのだ。


 同時にまた、チェン一派の暗躍こそが、自分がアラン・スミスを秘密裏に蘇らせた理由でもある。三千年前に、この世界の海に溶けゆく自分の自我が最後に抱いた疑問――この世界の既定路線を覆せる最後のチャンス、それが今しかないと思ったから。


 自分が心中を整理している傍ら、ヴァルカンが髭を撫でながら嘆息を一つついた。


「それならそれで、キチンと報告してくれなきゃ困るぜお嬢ちゃん」

「アナタは口を挟まないでヴァルカン」

「おっと……」


 レアにとがめられて、ヴァルカンはバツが悪そうに口髭を手で押さえた。


「さぁ、レム。まだ答えてもらっていないわ。あくまでもチェン一派への対抗策の一つとして想定したとしても、我々にその存在を伏せて、何故よりにもよって最大の敵……邪神ティグリスという寓話の元、原初の虎を復活させたのか」

「それは……」


 レアに詰めかけられ、どう答えたものかと返答に窮する――元々、アラン・スミスの人格を信頼してこの世界に蘇らせたのであって、まさかADAMsを取り返す事態になるとは思っていなかったのだ。


 ADAMsさえなければ、如何様にも言い訳が出来たのに――アラン・スミスというコードネームを知るのは、もはやこの世界に自分ともう一柱しかいないはず。だから、仮にアラン・スミスが自分の介入であると他の者たちに気付かれたとしても、それだけならさほど問題にはならないはずだった。


 しかし、ADAMsを利用したあの戦いぶりを見たら、七柱の誰もが気付く。彼が原初の虎であったと――自分が言い淀んでいると、対面でルーナが不敵に笑い始めた。

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