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5-40:通称アラン・スミスと呼ばれる男の正体 下

「そう、とんだ僥倖だった……その青年は、非人道的な実験をするのに丁度いい境遇だった。自身の事故の前に両親を別の事故で亡くし、親戚づきあいも無い。両親の事故をきっかけに交友関係も皆無に等しくなっており……だから社会的に居なくなっても問題視されない。

 そしてたまたまその人物が、武装した第五世代型アンドロイドを掻い潜り、要人を暗殺できるだけの力を持った虎になるとは……出来すぎていたと言ってもいい。

 つまり、エルという娘の見立ては間違っていなかった。アラン・スミスは間違いなく暗殺者だったのだから」


 まくしたてるように叩きつけられたのが返って良かったのかもしれない、一個一個の事実にあまり現実感はなく、そこまでショックを受けることはなかった――自分が両親を亡くしていたこと、人付き合いもなかったことなど思い出そうとしても思い出せないし、半分は他人事みたいだった。


 そして同時に、第五世代とやらと戦えるようにするには当然目的があって然るべきだ。その目的が、危険な任務の遂行――要人の暗殺であったのなら、それも理由としては納得できる。


 しかし――。


「……俺は、喜んで人を殺す様な奴だったのか?」


 やはり、それだけは気になった。DAPAと言われる連中が、禄でもない陰謀を持っていたとしても――時に誰かを殺める熾烈な決断をしなくてはいけなかったとしても、それを楽しんでやっていたような奴が自分のオリジナルだったとは思いたくない。


「いいや、そんなことはないさ……事情は色々とあった。まず、機械の体になって目覚めたお前がこちらの要件を呑まないのなら、その場で抹殺すると脅した。それに……アラン・スミスは超法規的な存在、もはや人ではないんだ。人が人を裁くことは在ってはならないが、虎が人を食い殺すのは自然の摂理なんだよ」

「そんなのは詭弁だ。それとも何か、俺のオリジナルは社会的に死んでも、人の心まで持つことを許されなかったのか?」

「そうだな、言い方が悪かった……一言で言えば、お前は人を望んで殺す様な奴じゃなかった。そもそも、DAPAとの戦いに身を投じる中でも、気に入らない任務に対しては命令を聞かなかったりと滅茶苦茶だった……思い出しただけで頭が痛くなるぞ」

「はは、そいつはいい。いたいけな一般人を変な人体実験にさらした罰としては、頭痛なんぞクソくらえだろ?」

「違いない……だが、加熱するDAPAのやり方に、少しでも人々に手を差し伸べらえるのもまた虎だったんだ。奴らは世界の終末を偽装するため、様々な破壊工作を行った……それを阻止し、罪もない一般人を救っていたのもまた虎だったんだ」


 とはいえ、DAPAの偏向報道で常に悪者にされていたが、と付け足された。


「……だが、アラン・スミスが我々に加担した一番の理由は……」


 丁度その時、また自分の背後から光が伸びだし、自分の体が吸い込まれ始める。


「……そろそろ時間のようだな、アラン」

「あぁ、そのようだ」

「先ほどカッカするなと注意したが、お前の人生を大きく歪めたオレが、そんなことを言う権利は無かったな……」

「いいや、言うのはタダさ。それに……なんとなくだが、やっぱり俺はお前のことは信用していたんだと思う、べスター。

 もしお前が俺に実験を施さなかったら、その場でオリジナルの命が潰えて終わっていただけだ。蘇ってその手を血で赤く染めていたんだとしても……それ以上の人々を救えていたのなら……その存在が歪んでいても、アラン・スミスにはきっと価値があったんだと思う」

「ふっ……そうか」


 男の笑い声は自嘲気味だが、同時に少し暖かかった。本当は常に一緒なのに、なかなか話せる機会もない同居人に、変に気を揉んでもらうよりは気持ちよく会話も終わった方が良いだろう。


「そうだ……アラン・スミスになる前の、俺の本当の名前を教えてくれよ」

「あぁ……それは、イト……」


 ウ、まで聞こえて後、男の声は全く聞こえなくなってしまい――明るい光に包まれたと思ったら、また急激に世界の暗さが視界に一杯になる。今の時刻を想定すればそれも当たり前なのだが、それ以外にもある種見慣れた光景が現世に戻った自分の視界に広がっていた。


「……おはよ……ソフィ……」

「アランさん!!」


 相変わらず体に力が入らずたどたどしい言葉になってしまうが――目の前にいたソフィアに挨拶だけすると、すぐに少女は自分の胸に抱きついてワンワンと泣き出した。その背後で石畳に座っているクラウが胸を撫でおろす様に一息つき、同時にその隣にいるエルも疲弊した表情で大きく息を吐き出していた。

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