表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
198/992

5-39:通称アラン・スミスと呼ばれる男の正体 上

 気が付けば、真っ暗な空間に居た。そしてこの感じは、以前に一度体験したことがある。


「……ひとまずはお疲れ様だな、アラン」


 先ほどまで脳内に響いていたはずの声に振り向くと、暗闇の一部分だけ明かりがあるのが確認できる。その空間に置いてある椅子の背を抱いている男――エディ・べスターがこちらに声を掛けてきていた。


「……以前より、ハッキリと見えるな。まだ顔までは見えないが……」

「恐らく、お前の体にADAMsが馴染んできたってことだろう……その証拠に、以前より負担なく使えるようになっていたはずだ」

「まぁ良く分からんが、成長してるってことだな」

「はぁ……呑気だな、お前は」


 全然呑気な気など無いのだが。むしろ、襲撃からの一件から、コイツに聞きたいことなど山ほどある。ゲンブ達のこと、旧世界のこと、自分とお前との関係性、そして――。


「……なぁ、聞きたいことは山ほどあるんだが……俺は一体、何者なんだ? いや、何者だったんだ……? お前の知っている範囲で良い、それを教えてくれ」


 どう優先度をつけていいものかも分からなかったが、ひとまず――自分のことから聞いても、他のこともついて来てくれる気がする。レムは明らかに自分に何かを隠していたように思うし、先日の学長から聞かされた事に対する自分自身への疑念も晴らしたい。


「そうだな……少し時間もあるし、それもいいだろう。だが、話す前に一点質問だ。お前は何故、この世界でアラン・スミスと名乗っていたんだ?」

「それは……レムに名づけられたんだ。記憶喪失の俺に、アラン・スミスと名乗ったらどうかと」

「ふむ……どうやら女神レムとやらは、お前の二つの側面を知っているのだろうな。それでだが、先ほど言ったDAPAと戦うために秘密裏に開発されたサイボーグ、それがアラン・スミスだ」

「……俺が、サイボーグ?」


 べスターの言葉に、自分の体に視線を落とす――べスターの姿は見えるのに、真っ暗闇の中で自分の体は見えない。


「ま、待ってくれ、俺は人間じゃ……」

「あぁ、元々は一般人だった。アンドロイドとサイボーグを混同しているな? アンドロイドは最初から人によって造られたヒューマノイドなのに対し、サイボーグは体に機械を取り付けた者。体の構成に機械を使っている人型というのは同じだが、先天性か後天性かの違いがある」


 べスターはそこで一旦言葉を切った。顔は見えないから本当にそうしているかは不明だが、恐らく挙動的にはこちらを超え更なる遠い暗澹あんたんを眺めているのだろう。


「ある日、一人の青年がトラックに轢かれそうな少女を自分の身を挺して救った……その青年は一度社会的に死んで、虎に生まれ変わった。その虎のコードネームがアラン・スミス……その名を知っているのは、旧国際機関のお偉いさんのごく一部と、オレと……後二人しかいないはずなんだがな。

 お前が死んでからはアラン・スミスというコードネームは闇に葬られた……だから、チェンもホークウィンドも原初の虎というサイボーグが居たことをは認知していても、お前の名を知らなかったんだ」


 つまり、レムが言っていたことは半分は嘘だった。自分は確かにトラックに轢かれて、表向きには死んだ。しかし、そのまま転生したわけではなかったのだ。


 今の自分とトラックに轢かれる前の自分、その間を繋ぐ虎という存在――それが、アラン・スミス。どうりで、レムに提示されたこの名前に馴染みがあった訳だ――実際にこの名で呼ばれていたことがあったのだから。


「なるほどな……だが、腑に落ちない。二つの点で……一つ、なぜそんなサイボーグが必要だったのか。もう一つ、元々一般人の俺なんかより、なんでもっと強そうな奴を選ばなかったのかだ」

「一つ目の理由は、まぁ一か八かだったんだ……第五世代アンドロイドに対抗する手段としてな。DAPAの一角に、通称ARCというアンドロイドと生態研究の開発会社がある。

 第三世代の戦争利用で人権問題に発達し、日常的な業務をこなす人類の隣人としての第四世代の裏側で開発されていた第五世代……それらのアンドロイドは完全迷彩という機能を登載していて、既存の機器では察知が出来なかったんだ。

 熱反応、金属反応、音波に光……ありとあらゆる探知機を掻い潜るそれらは、無論人の目にも映らない。第五世代を探知するには、もはや嗅覚、もとい空間への微細な違和感を察知できる生物を使うしかない、その仮説の下に作り出されたのがアラン・スミスだ」

「……実際に、俺はその第五世代とやらを見極めることができた?」

「あぁ。もちろん、二年に及ぶ訓練と、同時に本来お前が持っていた空間に対する観察眼が凄まじく優れていたおかげなのだろうが……旧国際機関側で第五世代を見極められたのはお前と、お前の戦闘データを元に作成されたパワードスーツT2の演算機械、それにホークウィンドくらいだ」


 それを聞いて一つの疑問が氷解した。自分には何故、優れた索敵能力があるのか。機械での探知もできず、人の目にも写らない何者かに気付くためには、神経を研ぎ澄ませ、微細な違和感で対応するしか無かったはずだ――それ故に培われた能力が、自分の索敵だったのだ。


 一人で納得している間にも、べスターの話は続く。


「二つ目の質問だが、DAPA側が個人情報のデータを政府以上に知り、管理していた点からだ。軍人や有力なスポーツ選手の死体が消えたとなれば、DAPA側に警戒されるからな……」

「成程、それで元一般人である俺が選ばれた訳だ」

「あぁ……だが、とんだ僥倖だった。恐らく、強力な素体でも第五世代には対抗できなかっただろう。何故なら、第五世代を見極めることができる確証はなかったからだ……お前が選ばれたのは本当に偶然だが、皮肉にもそれが奴らに対抗する最高の素体だったんだ」


 今度は、べスターは恐らく椅子の背に額を預けて、沈むように下を眺めているような気がした――そして、どことなく自嘲的な声のまま話し続ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ