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5-30:神殺しの剣 下


 ◆


 王都を見下ろす北の丘にて、一人の少女が正座してその時を待っている。遠景に翼竜達が現れた今がチャンス――王都にてアレを一撃で殲滅出来る兵力はただ一人、魔術神のみだ。それならば、奴が必ず打って出てくるはず。


「……頃合いです、セブンス。準備を」

「分かった、ゲンブ……」


 少女は立ち上がってスカートについた埃を払い――わざわざ払うなら正座などしなければいいのだが、アレが一番精神統一できるらしいのだから仕方がない――横に突き刺していた、彼女の身の丈と同じほど、華奢な体が丸々隠れそうな肉厚の大剣を抜き出した。


 その剣を少女は大上段から一振り、そのまま中段に構える。剣の刀身、鍔の部分の少し上には太いパイプが地下へと繋がっており――それは我らが居城、宇宙船ピークォド号の動力部分と繋がっている。


「行くよ、機構剣ミストルテイン……システム、神殺し【ゴッドイーター】起動。セーフティロック、解除」


 少女が鍔の近くにあるトリガーを引くと、機械仕掛けの刀身が無骨な音を立てて開いていく。同時に、少女の瞳についているコンタクトレンズから、空中ディスプレイモニターが現れた。


「アンカー射出……母なる大地のモノリスに接続開始」


 鍔から鎖が飛び出て、それらが少女の腕と足に絡まり、先端にある鋭利な部分が地面へと深々と突き刺さる。同時に、刀身の機構が唸りを上げ――青白い光が幾重にも剣に走り出す。


「エネルギー充填百パーセント……いいえ、まだ……限界を超えて……!」


 剣から発せられる力の奔流が、少女の前髪を軽く押し上げる――彼女はモニターを見ながら、剣を脇構えに変えた。刀身が振り回された事により、繋がっていたパイプが走り、辺りの小石をまき散らしている。


「ソードライン、誤差修正……エネルギー充填百二十パーセント……!!」


 剣にエネルギーを最大限貯めた向こうで、時計塔から六色の光が走り、用意してきた魔獣たちを薙ぎ払った――絶好のチャンス、奴は今、最高の堅牢を誇る時計塔の外側にいるのだ。


「いきなさい、セブンス……アナタの祈りを奪った傲慢たる神々を滅ぼすために」

「……うぁぁああああああああああッ!!」

「そして、これが私たち、残された者たちの……旧世界からの反撃の狼煙となる!!」

「御舟流奥義、神威かむい閃光横一文字ッ!!」


 少女が大剣を横に薙ぐと、その剣閃に合わせるように光の筋が走っていく――上位存在が我らが旧世界の人類のために残した神秘、世界の真理が記載され、事象の境界面へと接続を可能にするモノリス――そこから抽出される無限のエネルギーが、新世界の創造神に向けて放出された。


 ◆


 強大なエネルギーを帯びた一本の筋が、学院の上空、ちょうどこの時計塔を覆うように襲い掛かってくる。この場所は、月と海の塔に並んでこの地表でもっとも安全な場所の一つのはずだ。学院の各所に貼られている結界に、魔術無効の術式、それが幾重にも張り巡らされているのだから――勇者の持つ聖剣の一撃ですら、一発なら防ぎきることが出来る防御力があるはずなのだ。


 ちょうど、学院の全ての防護のためのエネルギーがこの時計塔に集約され、強襲の一撃を自分の体の目先で抑えている。だが、この一撃はそれすらも上回るというのか――地表近くの結界群は一気に割れてその輝きを失い、術式もその効果を失いつつある。


 だが、体の支配者は何がおかしかったのか、右手で顔を覆って高らかに笑い始めた。


「あははははは!! なるほど、こちらが未回収だったモノリスを使ったか!! 頭脳派の君としては随分マッチョなゴリ押しじゃあないか、チェン!! ははは……」


 次第に笑い声が小さくなると同時に、自分の体を護っていたバリアも薄くなっていき――。


「ふぅ……やるじゃない」


 自分の口角が上がるのと同時に、体の支配が自分に戻ってきた。絶対なる者が、自分の体から去ったのだ――そしてもはや、この絶望的な状況から逃げ出す術もない。


「……アルジャーノン様ぁあああああああああ!!」


 もう助からないのだという絶望から、思わず自身が信じていた神の名を叫ぶ――そして何かが割れた音がするのと同時に、もう二度と自分の思考は働かなくなってしまった。


 ◆


 エネルギーの放出が終わり、刀身から巨大な蒸気が噴出し、繋がれていたパイプが地面に落ちた。セブンスは頭上で巨大な刀剣を一回しし、そのまま背中の鞘へとしまい込んだ。


「……行くのですか?」


 自分の質問に、少女は顔半分だけ振り返って小さく頷く。


「うん……イヤな予感がするから」

 

 そしてそのまま、大重量の剣をモノともしないスピードで崖を下って、王都の方へと向かっていった。


 すでに一番の目標は達した。魔術神アルジャーノンの依り代は沈黙。本体は月にあると言っても、肉体のエラーが起これば再起動までには一年以上の修復期間が必要になるはず。それまでに、残る七柱も始末していき、隙のできた月の施設を破壊すれば我々の勝利となる。


 もう一つの目標は、ハインラインの器の殺害だが――T3とホークウィンドを向かわせているのだから、問題は無いはずだ。


 しかし、読めない手合いがたった一人いる。その者は先ほど右腕を失い、すでに戦力としては換算できないはずだが――。


「確かに……腕の一つで止まる男ではないでしょうね、彼は……」


 魔王との戦いを覆した男がいる。本来的には彼と対峙する理由は無いのだが、現状では協調するのは無理だろう――元々、自分の計画の中に彼はいなかったのだから、せめて大人しくしていてもらいたいのだが。T3から送られてきている情報を見るに、どうやらその期待は薄そうだった。

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