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5-22:ソフィア・オーウェルと不良行為 下

「……ねぇ、アランさん。ジャンヌさんはどうして、私たちが突き止めるまで魔族の側についていることがバレなかったんだろう?」

「そりゃ、上手くやってたからだと思うが……」

「うぅん、人は欺けても神様は見ているから、ジャンヌさんはきっと特別なことをしてたんだと思うんだけど……アランさんはジャンヌさんが何をしていたか、聞いてないかな?」


 尋ねてくるソフィアの表情は真剣そのものだ。それならば、なんとか彼女の期待に応えられるようにと、記憶をほじくり返してみる。


「……そう言えば、レムが何か言ってたな。二重思考ダブルシンクだとか……」

「それ、詳しく教えてほしい!」


 口にしてしまっておいてなんだが、これをソフィアに伝えてしまって良いものか――ようは七柱を欺くための手法な訳で、これを伝えるのはソフィアを危険にさらしてしまう恐れがある。


 ともあれ、かなり食い気味にこちらに顔を近づけているのを見ると、今更知りませんとも言いにくい。声は聞こえなくなっているものの、自分のことはレムが常に見ているはずだから、言ったらまずいことならレムが止めるだろう――そう思い、覚えている範囲のことを伝えてみることにする。


「えぇっと……少し聞きかじっただけだから、ちゃんとは覚えてないが……矛盾する事柄でも同時に考える、だったか。あのレヴァルの地下で、レムの眼が届かないとき以外は、きちんとルーナ神を信仰をしているように自分すら欺いてたとか、そんな感じかな」

「なるほど……」


 レムの邪魔が入らなかったということは、言って問題が無かったという事か。ともかく、ソフィアは正面に向きなおり、顔を俯けながらしばらく沈黙を続け――そしてこちらに向きなおってケロっと笑った。


「……すっごい大変そう、私には出来ないかなぁ」

「そうか? なんかソフィアなら出来ちゃいそうだが……まぁ、普通は難しいよなぁ。俺なんかは絶対に無理だ」

「あはは、うん、アランさんには絶対に無理だと思う」

「お、言ったなぁ?」

「うん。だって、アランさんは純粋で、真っすぐだもん。矛盾する事柄を抱え込むなんて、出来ないと思う」

「俺はそんなんじゃないと思うが……結構ひねくれてるぞ? 俺から見たら、ソフィアの方が純粋で真っすぐだ」

「そんなことないよ。私は結構悪い子なんだから……」


 ここで、いいや俺の方が、とか言い出すといつもの問答になってしまう。まぁ、それも悪くないのかもしれないが――ソフィアとはなんやかんやで水掛け論をする仲、これがこの世界に来てからのお決まりになっているのだから。


「ま、純粋で真っすぐなだけじゃ窮屈だからな。息抜きもちょっと悪いことも必要さ。それこそ、買い食いとかな」

「買い食いって悪いことなの?」

「あぁ、俺の知識じゃ、やる奴は悪い子ってことになっているな……自分でやってたかは覚えてないが、まぁ多分やってただろうと思う」

「そっかぁ……うん、それならもっと悪いことしないと!」

「いや、率先して悪いことするのはまた違うかもしれないが……しかし、買い食い以外のことをしてもいいかもな。周っているうちに、何か興味のある屋台とかなかったか?」

「そうだなぁ……」


 ソフィアは視線をキョロキョロと動かし、気になる屋台を探し始めたようだ。何なら投擲の屋台とかあったら、商品総なめにしてやるなどくだらないことを考えている横で、ソフィアが首を動かすのを止め、一点先を見つめ始める。


「……アランさん、あれ……」

「うん……?」


 ソフィアが指さす先には、ソフィアと年齢の近そうな一人の少女が居た。その子は、周りの景色からあまりに浮いた存在で――白に近い銀の髪に、ヒラヒラのフリルのたくさんついた黒い服に身を包んでいる。周囲を不安そうにきょろきょろと見ていることから察するに、アレは迷子か。


 そう言えば先日、迷子を救うのにクラウが迷子になっていたっけ――ともかく、そんな深入りせずに、祭りの管理委員だとか、それこそ軍の詰め所などの適当な場所に連れていくくらいはしてもいいかもしれない。


 しかし冷静に考えれば、これ以上に少女の連れ合いを増やすと、あれな危険度が加速度的に上昇するのでは――というかそもそも、誰か知り合いを探しているだけかもしれない。祭りに参加しているのなら、この街の子でもおかしくはないな――などと考えているうちに、ソフィアがぽつりと呟く。


「……誰かとはぐれたのかな?」

「あぁ、そうかもな……でも、この街の子なら大丈夫じゃないか?」

「うーん……でも、あの身なりだと身分も高いかもしれないから、商業区は馴染みが無いのかもしれないし、祭りに参加するために他所から来た子かもしれないよ」


 確かに、そういう考え方もあるか。それなら、先ほど考えたように迷子を解消できそうな場所まで案内してあげてもいいかもしれない――そう思っていると、暫定迷子のその子とバッチリ目があった。そして、少し表情を明るくし、少女はこちらへと近づいてくる。


「……あの、アナタ……私とどこかで会ったこと、ない?」


 日の光を遮るように自分の前に立った少女は、髪を明かりに輝かせながらじっとこちらを見つめていた。

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