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5-21:ソフィア・オーウェルと不良行為 上

 学院の敷地を出ると、すぐに人だかりに巻き込まれた。ソフィアは自分とはぐれない様にするためか、こちらへぴったりくっついて来ている。


「さて、お祭りに参加したいって言っても、何か特別にやりたいこととかはあるのか?」

「うーん……特にないかなぁ。こうやって、親しい人と、わぁって一緒に周れれば満足というか……」


 この子は学院を出るまでは、同世代の友達もおらずに缶詰めで勉強をしていた訳で――それでも普通なら親とこういった催しに参加してもおかしくないのだが、この子の両親の場合はそれも望めなかったのだろう。ともなれば、確かにソフィアはお祭りに参加するだけで満足なのかもしれない。


 しかし、せっかく参加するのなら、より楽しめるほうが良いだろう。この子はお菓子が好きだから――。


「……よし、色々と露店のお菓子を買い食いしてみるか?」

「えぇっと、買い食いって何……?」


 なるほど、不良行為とは無縁の子なのだから、買い食いという言葉を知らなくてもおかしくはない。純粋無垢な子に悪い遊びを教えるのは何だが、それはそれでイケナイことをしているようで、自分としては背徳的な遊びができる――いや、お菓子を食べるだけだが。


「買い食いっていうのはだな、学校の帰りなどに、食べ物を買ってその場で食べちゃうことのことだ」

「わぁ……楽しそうだね!」

「よし、露店を制覇するつもりでいくぞ!」

「あはは、それはちょっと難しいかもだけど……でも、私頑張るね!」


 ソフィアは笑った後に両手をぐっと握って、気合を入れた表情になった。


 その後、露店にあるお菓子を買って食べて周った。制覇するのは冗談にしても、なるべく色々食べられるように、分けて食べられるものは二人で分け合いながら食べ歩いた。とくにソフィアが一番気に入ったらしいのはクレープで、トッピングを決めるのに数分悩むほど露店の前でうんうんと悩み、一口食べた時には感動して表情がとろけていたほどだ。


 ともあれ、結局五種類も食べたら限界が近くなり、ジュースを片手に噴水の縁石の上で休むことになった。


「ふぅ、おなか一杯……でも、制覇は全然できなかったね……」

「ははは、まぁまだ時間もあるから、あとで余裕が出来たらまた買って周ったっていいし……それに、結局こういうのは、同じお菓子のお店が何個もあったりするから、五種類も食べたら大体制覇って言っていいと思うぞ」

「うん、まだまだ時間はあるもんね!」

「あぁ、そうだな」


 自分の方から言葉を切って、噴水を取り巻く広場の方をぼぅっと見てみる。この世界の人々は暗い顔をしていることが多い印象だったが、流石に祭りともなれば、行き交う人々の表情は明るい。


「……皆楽しそうだな」

「うん、そうだね……でも、これもレヴァルに居た皆が頑張ってくれたから……アランさんが頑張ってくれたから。みんなこうして笑顔でいるんだよ」


 横を見ると、この広場で一番明るい笑顔をしている少女の顔があった。その視線があまりに真っすぐで照れくさくなり、自分はまた広場の方へと視線を逃がす。


「いやぁ……言っても俺は最後の一か月間だけ参加したくらいだ。ソフィアやシンイチの頑張りには及ばないよ」

「時間に換算すればそうかもしれないけれど……アランさんがいなかったら、今回の魔王征伐は人類が負けていたかもしれない。そう考えれば、アランさんはシンイチさんと並んで、英雄って言っていいと思うけど」

「あはは、止めてくれよ、そんな英雄なんて柄じゃないしさ」

「そんなことはないと思うけど……」


 ソフィアは考え込むように少し視線を上げ、しかしすぐにじっ、とこちらを見つめてくる。


「……確かに私としては、アランさんはあまり有名にならないほうが良いかな。皆のアランさんになったら、寂しいもん」

「お、おぉ……?」


 ソフィアがあまりに艶っぽい目で真っすぐに見つめてくるので、こちらとしても少々どぎまぎしてしまう――いかん、このまま行けば事案だ。衛兵さんこちらです案件だ。というか、今だって実は周囲から変な目で見られているのではないか。よくよく周りを見てみると、チラチラとこちらを伺っている連中は確かにいる。


 その連中に対して心の中で違うんですと言いかけたが、止めておくことにした。ともかく、今は危ない奴のレッテルを張られてでも、祭りを知らない少女に楽しみを教えなければならないのだ。自分の使命に心を奮起し視線を戻すと、ソフィアは少し俯き、何やら真剣に考え事をしているようだった。

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