1-17:武器屋にて 上
魔獣を討伐した翌日、気が付けば昼前という時間になっていた。ソフィアと別れた後はすぐに寝てしまったことを考えると、半日以上寝てしまっていたことになる。それだけ、慣れないことをして疲労が溜まってたということか――まぁ、そもそも前世ではどんな生活をしていたかも思い出せないのだが。
今日はひとまず、装備を買いに行くことにした。慎ましく生活しておけば三か月強は生きていけるとしても、自分で稼げるようになっておかないと不安もある。それに、異世界の武器屋に行く、それだけでなんとなくワクワクする。
宿を出るときに武器屋の場所を聞くがてらに、部屋を取っておくかどうか宿の店主に聞かれた。冒険者ギルドの敷地は結構大きいが、本来は立地的に、また戦時のセーフティネットとして存在しているのだから、部屋の予約はいっぱいでもおかしくないと思う。
「冒険者ギルドの宿は、値段は中間って所だからな。ワーカーやってるやつらは簡易宿舎に泊まるし、魔族や魔獣を討伐できるような連中はもう少し高級な宿を取ってるぜ」
とは、宿主の談。しかし、あまり夜にチェックインしようとすると、すでに満室のケースも多いとのこと。ひとまず、簡易宿舎はギルドの相部屋よりも怖いかもしれない。少し街の状況が分かるようになるまでと考えて、一週間二百十ゴールドで予約を取っておくことにする。
武器屋も、やはり正門の近くにあった。もしかすると、個人の業物を作っているような名工は隠れて存在するかもしれないが、ひとまず多くの冒険者が利用するというらしい大型の武器屋に足を踏み入れた。さすが最前線の武器屋というだけあり、店内はなかなか広く、武器、防具が幅広く取り揃えられているように見える。時間は正午ということが幸いしたのか、昼飯時のおかげで人はまばらだ。これなら、ゆっくり見れるかもしれない。
「……げっ」
入口で店内を見回していると、背後から女の声が聞こえた。その声は聞き覚えがあり、自分の数少ない知り合いと言えば彼女しかいない。
「げっ、とはご挨拶だな、エル」
「はぁ……まぁ、丁度良かったかしらね」
エルは腰につけているバッグに手を付けると、革袋を一つ取り出してこちらに手渡した。
「はい、ワーウルフ一体分の千ゴールド」
「え、良いのか?」
「良いも何も、アナタが倒した分なんだから当然でしょ……」
元々、ワーウルフ討伐に関しては全額無いものと思っていたのだから、一体分でも増えれば十分に助かる。これから武具を揃えるのだし、何かと入用なのだから、ありがたくいただくことにする。
「ありがとう、エル」
「どういたしまして……それじゃ」
軽く手を振りながら、エルはこちらの横を素通りしようとする。
「いやいや、ちょっと待ってくれ。俺、武器を買い揃えたいと思ってるんだけど……」
「そう? 勝手に買えばいいじゃない。私には関係ないわ」
素気無くそのまま、彼女は店の奥へと消えてしまった。もう一度会うことにはなる、はこの報酬を渡すためで、それ以上の干渉はする気はない、ということなのだろう。
どうしようか、彼女のことは諦めて自分で探すか。正直、武器や防具についても解説がもらえれば助かるのだが――。
「いらっしゃいませ、初めて見る顔ですねぇ、何かお探しで?」
エルに解説してもらおうかとも思ったが、その前に店員に捕まってしまった。のんびり自分で探したい気持ちというか、店員だとつい要らないものまで高額で買ってしまいそうで嫌なのだが。しかし、相手は脂ぎった顔の年季の入った中年、ということは武具に関してはプロだろうし、店員に聞けば良いか。
「あぁ、昨日、冒険者になってね。武器防具を買おうと思ってきたんだけど」
「はい、はい……ちなみに、お予算はいくらほどで?」
最初は三千ゴールドと思っていたが、エルからもらった千ゴールドがあれば、もう千は上乗せしてよいか。
「四千ゴールドかな」
「よんせ……はい、四千ゴールドでございますね」
額を伝えた瞬間に、店員の態度があからさまに変わった気がする。これはボラれるかもしれない、注意しなければ。




