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5-13:勇者の故郷 上

「……やぁアランさん、久しぶり」

「あぁ、久しぶり……相変わらずすかした顔をしているな、お前は」

「ははは、ご挨拶だね」


 あまりにさわやかにシンイチに挨拶されたせいで、なんとなく嫌味が出てしまったのだが、また華麗にかわされてしまった。


 部屋に通され、各々椅子に座り、改めてシンイチがこちらに視線を向けてきた。


「エルさんとクラウさんも、長旅お疲れ様……そうだ、ソフィアは?」

「ソフィアは……」


 今朝がたあったこととアレイスターに説明されたことをかいつまんでシンイチに説明する。話が終わるころには、シンイチは考え込むように視線を下ろしていた。


「……なるほどね」

「そうだ、シンイチ。お前に良い案は無いか?」

「ソフィアに関してかい?」

「あぁ」


 シンイチはかなり頭がいい。ソフィアと同じか、それ以上――いや、少し頭の良さのベクトルは違うか。ソフィアは論理的で、状況証拠などから真理にたどり着くタイプ。シンイチも近いことは出来るが、コイツは人の感情まで加味する――目に見えない部分すらも見透かして、本質を突くタイプだ。


 そんな彼に相談すれば、建設的な意見も出るかもと期待しての質問だったのだが――シンイチは少しの間考え込んで、小さく首を横に振った。


「一言で言えば、無い、かなぁ……」

「……そうか」

「いや、正確には……結局、着地点をどうしたいかによって取るべき行動は変わってくるってだけさ。目先のソフィアの気持ちを汲むのなら、それこそオーウェル邸に物申しに行けばいいかもしれない。でも、それでは根本的な解決にならないだろう?」

「あぁ、そうだな」

「だから、アランさんは困っているわけさ。何処に着地するのが正解か、分からないから。もっと踏み込んで言えば、正解なんてないのかもしれないね……あっちを立てればこっちが立たない。皆が長期的に幸せになるだなんてことは、中々あり得ないことだからさ……」

「……そうかもしれないな」


 そう言われて、今朝からずっと自分を覆っていたもやが晴れたような気持ちになった。今回の件は、何が正解か分からないから――もちろん、気分が晴れやかになったわけではないが、それでも少し気持ちの整理は出来た気がする。


 そうなれば、より良い答えとしては、結局ソフィアがどうしたいのかを知る必要があるように思う。最近、何がしたいかと聞いて、誰かを助けている人を支えたいとは言っていたが――それは抽象的すぎてソフィアの本音が読めないし、親との関係性についての結論ではないから、結局どうすればいいのかは分からないのだが。


「……強いてを言えば、人というものは共通の敵がある時だけ強く結束する。マリオンがソフィアをレヴァルに滞在させていたのは、もちろん軍で影響力を持つという実践的な課題があったにせよ、それ以上に人類の窮地に立ち向かううえで最善の策を考えたからだ。

 そうなれば、また何か強大な脅威が出て来れば、オーウェル親子も結束するかもしれないね」


 自分が考えをまとめている横で、シンイチが独り言のようにつぶやいた。そして、それに合わせるようにテレサが苦しそうな表情をしながら小さく腕を振ってシンイチの言葉を切った。


「止めてくださいよ、シンイチさん。その、ソフィアさんには申し訳ないかもしれませんが、せっかく魔王を討伐したばかりなのですから……」

「あぁ、そうだね。ごめんよテレサ……不謹慎だった」


 シンイチは自虐的に笑って後、すぐにいつものすかした笑顔になって顔を上げる。


「ともかく、アランさんたちもしばらくは王都に滞在するんだろう?」

「あぁ、そうだな。ソフィアの件もあるし、しばらくは王都に滞在しようと思っている」

「それなら、祝賀会にも一緒に参加してくれよ。知ってる人が多いほど、気まずい時間が減るだろうし」


 その気持ちはわかる。人が多く集まる場所では、コミュニケーション能力がモノをいう――気がする。あまり積極的に自分から人に話しかけに行くタイプでない場合、パーティーなどは結構居心地が悪いものになる――ような感じだったように思う。


 なので、知っている人とくっついておけば、なんとか気まずい時間を乗り越えやすくなるというのがシンイチの算段だろう。前世の記憶もないので自分が果たして気まずい思いをしてたかは分からないが、きっとそんな感じだったような気もする、きっと。


 とはいえ、祝賀会に参加したいかと言われれば、どちらかといえばノーだ。一応、魔王征伐の立役者といえども、自分は此度の戦役の後半にちょっと参加したくらいで知り合いも多くないし、貴族が集まる華やかな場所は居心地が悪そうだ。シンイチを困らせてやるのも面白いかもしれない――そう思っていると、テレサがポン、と笑顔で両手を叩いた。


「……そうだ! お義姉さま、クラウさん、祝賀会に参加するのに、ドレスを見繕っておきませんか!?」

「え、ドレス、ですか……?」


 こちらが参加するとも言っていないうちに、お姫様はすっかりその気になっているようだった。しかし、返事をしたクラウは苦笑いをしている。


「はい! 夜は王城で舞踏会がありますし、そこに参加するにはドレスコードがあるので……城の中にあるドレスをお貸しいたしますよ!」

「はぁ、ドレス……一回も着たことが無いので、ちゃんと着こなせるか不安ですねぇ」

「クラウさんはスタイルも良いですし、きっとどんなドレスも着こなせますよ!」

「そ、そうですか? うーん、そう言われると、ちょっと着てみたいような……」


 最初こそ乗り気でなさそうだったのに、テレサに乗せられたおかげか、クラウも満更ではなさそうになってきている。一方で、エルの方が露骨にイヤそうな顔をしていた。


「……私は、この前の一件で懲りたから、当分ドレスを着たくはないのだけれど……」


 なるほど、先日の結婚式の件を気にしているのか。確かに、動きにくそうにしていた――とはいえ、毎度ドレスを着ているタイミングで襲われるわけでもないだろう。そう突っ込もうと思ったが、テレサが何やら身振り手振りを一生懸命している事の方が気になった。


 そのオーバーな感じは自分には分からなかったが、どうやらクラウが何か察したらしく、テレサに向かって頷いて、そのままエルの方に向き直った。


「まぁまぁエルさん、実際に着るかは置いておいても、ひとまず見に行ってもいいんじゃないでしょうか?」

「……そうね。見るだけなら、ね」


 エルの返答を聞いて、テレサはほっと胸を撫でおろしたようだった。そして、女子三人が立ち上がり――そのタイミングで、自分にシンイチを説得してほしいと頼まれていたことを思い出す。ドレスを見に行くというのはそのための言い訳か。


「それでは、シンイチさん。私たちは少し席を外しますので……」

「あぁ、僕はアランさんとお話して待っていることにするよ」


 シンイチは出ていくテレサたちに手を振って、少ししてから大きく息を吐き出した。

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