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1-15:依頼の報告と魔術の基礎について 上

「報酬は全額、アランさんが受け取ってくださいね」


 依頼達成をバーンズに報告しに来た冒険者ギルドのカウンターで、唐突にソフィアから切り出された。


「いや、待ってくれ、それはおかしいんじゃないか? ギリギリ半々、貢献度で考えたら一対四くらいで、ソフィアが多く受け取るべきだと思うが……」

「いえ、軍の規定で、副業禁止なんです」


 まさか、異世界に来て公僕は副業禁止を聞くことになるとは思わなかった。


「むしろ、想定以上の魔獣を倒したので、もっと多く支払っても良いくらいなのですが……」


 そこで、ソフィアはバーンズのほうをチラと見る。対して、髭面の壮年は笑いながら首を振るだけだった。


「額を変えるなら、変更の手続きをしていないとできないぜ、大将。倒しちまったのなら、後の祭りだな」

「准将です。ということなので、五千ゴールドはアランさんが受け取ってくださいね」


 一日に掛かる生活費が、宿暮らしで大体五十ゴールドらしい。装備品を買わないならばなんと百日間程度は生活できる。とはいえ、暗黒大陸で戦える装備を揃えるなら、三千程度は見積もったほうが良いとのこと。少し良いのを買えば、あまり貯蓄は出来ないかもしれない。


「うーん……あんまり納得いかん」

「それでしたら、軍がアランさんに失礼をしたお詫び込み、ということでどうでしょう?」

「それならで返すが、せめて飯でも奢らせてくれないか? いや、奢るってのも変かもしれないが……でも、二人で稼いだお金だし、それに時間が許すようなら、魔法のこととか聞いてみたいしな」

「二人で稼いだお金……そうですね、そのお金で食べるご飯は、美味しそうです。ただ、一旦は結界が切れかけていたことを駐屯地に報告しに行きたいので、少し待ってていただいてもいいですか?」

「あぁ、問題ない。場所はどうしようか」

「ふふ、アランさんに任せても大丈夫なんですか?」


 ソフィアは意地悪っぽく笑った。廃墟からの帰路では、お互いに――主にこちらだが――疲弊していて口数も少なくなっていたが、戻ってきて少し元気も出てきたらしい。


「すまないが、全く分からないので場所を指定してほしい」

「はい、それでしたら、冒険者ギルドの右手の食堂でいいかなと。私も第一駐屯地で寝泊まりしていますし、アランさんも今日はここの二階の宿を取るといいと思うので、解散後もすぐにお互い眠れますしね」

「あぁ、分かった」

「それでは、三十分ほどで戻れると思うので」


 そう言い残し、ソフィアはギルドの扉を揺らして出て行った。


「宿の手配も酒場側だ、アラン。この後はクソッタレどもでにぎわう場所だ、席を予約しておいてもいいと思うぜ」


 見送る背後から、バーンズが声をかけてきた。


「予約しておけば、素直に席を譲ってくれるような連中なのか? 冒険者ってのは」

「はは、違いねぇ! だから、部屋を取ったら、席にさっさと座っておいたほうが良いだろうな」

「ご忠告どうも」

「あぁ……オレは現場にいたわけじゃねぇ、お前がどんくらいやったかは分からんが、准将の顔を見る限り、結構頑張ったんじゃねぇか? ほれ、その頑張りに対する報酬だ」


 カウンターに革袋がドン、と置かれる。五千ゴールド、なるほど中々の重さらしい、自分の頑張りを持ち上げてみると、周りが評価してくれるのに見合うかどうかはまだ分からないが、そこには確かな重みがあった。


 ◆


 冒険者ギルドの二階の宿を取り――安いのは相部屋だったが、いろんな意味でちょっと怖いので個室を取った――酒場の窓際の席を取って窓の外を眺める。現在時刻は夜の七時、大通りは城塞都市に戻ってきた冒険者で溢れているようだった。それに比例して、確かに食堂も段々と席が埋まってきている。これは先に取っておいて正解だっただろう。


 ソフィアが来るまでの手持ち無沙汰を解消するため、そして何にも注文しないで席を陣取っているのを周りの目線を少しでも和らげるため、席に備え付けのメニューを手に取ってパラパラと眺める。料理名にも豚、牛、鳥、卵、魚など、前世の感覚とそう違わない名称が表意文字で並んでいる。つまり、この世界にはあちらの世界と同種の家畜が存在し、漁業が存在していることになる。


 飲み物は、見たところ酒とコーヒーくらいしか無い。周りの冒険者も、とりあえずエールで、から入っている。とりあえず文化はこちらにもあるのか、そんな風に眺めていても、あまり魅力的に映らなかった。ファンタジー世界のエールと言えばお約束な感じがしてワクワクするかとも思ったが、もしかしたら前世では酒が好きでなかったのかもしれない、もしくは未成年だったのか、ともかく飲んで食卓を囲んでいる冒険者はこれぞ、という感じで絵になっているのだが、自身で飲みたいとは思わなかった。


「……お待たせしました!」


 正面を見ると、ソフィアが目の前の席に座っているところだった。急いできたのだろう、少し息があがっている。それに付随して周りの熱気のせいで暑く感じているのだろう、ソフィアは先ほどから羽織っていたコートを脱ぎ、椅子に掛けた。


「あはは、服、よく見るとちょっと汚れちゃってますね」

「ソフィアが頑張ってくれた証拠だ……決まったら店員呼ぶから言ってくれ」


 メニューを手渡し、ソフィアが食べるものを決めている間、改めて周りを少し見る。准将がいることに周りも気づいたのか、少し視線がこちらに集まっている。とはいえ、冒険者と軍隊では毛色が違うのか、こちらのことは気にしているようで声を掛けてくる訳ではなかった。


「えぇっと、それで、魔法のことが聞きたいんでしたよね」


 注文を通してのち、飯が来るまでの時間つぶしには丁度良い話題をソフィアが提供してくれた。


「あぁ、よろしく頼む」

「多分、アランさんが聞きたいのは、正確に言えば魔術のことだと思いますので、それをメインに話しますね。一応補足すると、私が使っていたのは魔術です。魔法と分類されるのは、神官職の方が使う神聖魔法と、エルフが使える精霊魔法ですね」

「うん? 魔術と魔法は違うのか?」

「はい、知らない方からすると、詠唱して何かしらの事象を顕在化させる、という点では同一です。なので、スペルユーザーと一括りに分類されていますね。しかし、魔術と魔法では、自身で術を構築するのか、それとも上位存在に奇跡を起こしてもらうのか、という点で異なるのです」

「……えーっと?」

「まず、魔法は大いなる者との契約を元に成り立ちます。神聖魔法はこの世界を創造した神、精霊魔法は四大元素を司る精霊ですね。こういった上位の存在からの恩寵がないといけないので、魔法を使うには努力で埋めがたい才能が必要なのが特徴です。

 対して、魔術は、この世界の要素や観念を理解し、再構築する術です。そのために、魔力と、それを顕在化させるための詠唱が必要になります。魔術は全部で七つの階層があって、レベルが上がるごとに一つの要素を追加できます。

 たとえば、第一階層だと簡単な炎しか出せませんが、第二階層にして炎を二重に重ねれば大きな炎に、火と風を合わせれば広範囲を攻撃できる熱風の魔術が出来るという感じですね」

「成程な。でも、ソフィアは魔術を打つ時、杖を結構いじってるよな? アレも必要な作業なのか?」

「というより、アレは詠唱を簡略化するための装置なんです。予め魔力を込めた弾を消費して、要素を構成だけすれば、すぐに撃てるようになってるんですよ」


 そこまでソフィアが言い切った時に、注文していた料理が来た。こちらは牛肉、ソフィアは鶏肉のソテーに、二人の間にサラダの皿が置かれた。とはいえ、値段のわりに量は多くない。これはエルが言っていたように、戦時で食糧に難があるせいかもしれない。

 

「これじゃあ足らないかもしれないな。ソフィアは頑張ってくれたし、もう少し追加しようか?」

「いえいえ、これで十分美味しそうですし、おなか一杯になりそうです」

「そうか? でも、俺も足らなそうだし、もう一品くらい頼むか。なんなら、デザートとかでもいいな」


 そう言いながら、こちらはメニューのデザートを探してみる。相手は女の子だし、甘いもののほうが良いと思って提案してみたのだが、デザートが無かったら困る――いや、何個か甘いものも取り揃えているらしい。どうせどれがいいとか聞いても遠慮されるだろうから、こっちで勝手に頼んでしまうことにする。もしソフィアが食べないなら、自分で食べてしまえばいい。


「店員さん、フルーツタルトを追加で一つ。それじゃあ、いただきますか」

「はい、いただきます」


 ソフィアは両手をぽん、と合わせて食器を取った。いただきますという文化が通じたことに多少違和感を覚えつつ、魔術の講義の続きをしてもらうことにした。

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