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4-43:海と月の狭間で 上

 ソフィアが慌てていた理由を聞くと、こういうことらしい。俺と入れ違いになると困るから、クラウにはこの場に待機してもらっていた。そして、エルとソフィアで戻ってきたときには、ここにクラウは居なかった。軽く周辺を二人で探してみたが、見当たらないと――そう報告を受けた。 


「……どう思う、アラン」


 事情を聞き終わったタイミングで、エルの方から質問が出る。


「自分から出歩くとは考えにくいな……」


 はぐれたら危険だからって、年下のソフィアの服を掴むほど方向音痴のヤツが、フラフラと自発的に出歩くとは考えにくい。それは全員思っていたことだろうし、改めて自分が口にしたことで、ソフィアが再び慌て始めてしまう。


「そ、それじゃあやっぱり、何か変なことに巻き込まれて……!?」

「落ち着きなさい、ソフィア。あの子だって、ここよりももっと治安の悪いレヴァルでそこそこ長かったのだから、そういう可能性は低いと思う……」


 ソフィアを安心させるためか、途中まで優しい口調だったのか、話しているうちに自分の言葉に疑問が出たのか、エルは口に手を当てて考え事をし始める。


「……とはいえ、あの子も結構お人よしだから……何かに巻き込まれたって可能性は、ゼロではないか……」


 それは、自分も考えていたことだ。クラウもあからさまに怪しい連中や無法者のような見た目なら取り合わないだろうが、案外困っている風な人が居たらフラフラと助けに行きそうである。


 それが、悪意のある者であったのなら――最悪の可能性も頭をよぎる。もちろん、本当の窮地でもティアがなんとかするだろうが、何某かの方法で神聖魔法が封印されればティアだってそこまで身体能力は発揮できないだろう。


 他の可能性として――やはり異端として追放された身分でこの街を出歩くのは危険だったのかもしれない。とくに、月の巫女のことを思い出せば、やはりクラウのことを良くは思っていないはず。適当なならず者ならばクラウやティアでも問題なくても、教会の手練れが複数で襲い掛かってきたのなら、それは彼女の体一つでは対処できないかもしれない。


 何にしても、早くクラウを探したほうが良いだろう。ソフィアとエルに向き直り、今後の方針を伝えることにする。


「それじゃあ、こうしよう。エルと俺で、可能な限りクラウを探す。ソフィアは駐屯所で待機して、そうだな……」


 言葉を切って、海沿いに立つ柱時計に目を向ける。現在午後三時、とはいえ冬も深まって日も短いので、一時間もすれば暗くなってくる。暗い中で少人数で探しても、なかなか見つからないだろう。


「夜八時になっても俺たちが戻らなかったら、捜索願を出す……というか、捜索願を出すのは軍で良いのか?」

「うーん、軍は警察機構も兼ねているから、問題は無いんだけれど……数時間行方不明くらいじゃ、取り合ってもらえないかな」

「それじゃあ、予定変更。ソフィアは宿で待機しててくれ」

「私もクラウさんを探しに行くよ!」

「ダメだ、一時間もしたら暗くなるからな……いくら泣く子も黙るソフィア・オーウェルでも、夜の街は流石に危険だ」


 自分かエルがソフィアに着いていれば問題ないだろうが、足早に動き回るのならソフィアがいないほうが動きやすい。


「……それに、エルも言っていたように、アイツだって危険な街で長いこと一人でやってたんだ。きっと大丈夫だよ」


 そう言いながら、ソフィアの綺麗な金髪に手を添え、頭を撫でてみる。これでちょっとは落ち着いてくれないだろうか――いや、逆効果だった、不機嫌な時特有の頬膨らませが発動している。

 

「むぅ……そうやって子ども扱いする……」

「えーっと……」


 どうするべきか困ってエルの方を見ると、やれやれ、という調子でため息を一つ、その後はソフィアの方へとゆっくりと手を差し伸べてくれる。


「……いいわ、ソフィアは私と一緒に行きましょう。眼が増えれば、それだけ見つけやすいのも確かだし」


 エルはそう言いながら、こちらをじっと見つめてくる。恐らくだが、気配を察知できる自分が足を回せるように取り計らってくれたのだ。もちろん、ソフィアが居れば眼が増えるのも嘘ではないし、エルがソフィアに着いていてくれるのならば自分も安心だ。


「エルさん! うん、私もしっかりと役に立つよ!!」


 ソフィアはエルの隣に立ち、エルが自分の方へと向き直る。


「それじゃあ、夜八時まで捜索。見つからなくても一旦宿で落ち合って、その後どうするかはまた決めましょう……宿は中央広場の黒猫亭というところを私の名義で取っているわ」

「了解だ……ちなみに、ハインラインで?」

「えぇ、もちろん……それじゃあ、私たちは海沿い方面を探すから、アナタは街の中央部分を探して頂戴」


 二人と別れて街の中央へと小走りに進んでいく。もちろん、その途中も辺りを見回し、見知った緑髪を探す。覚えている彼女の足音、息遣い、気配――そういったものを意識してはしてみるものの、人が多すぎるせいで雑念が多く、なかなか細かい所作までは察知しにくい。


 街の中央にたどり着くと、より一層人も多くなり、個別の気配を手繰るのは難しくなる。とは言っても、やるしかない――神経を集中させて、行き交う人々の中から彼女の気配を探し出そうと努めてみる。しかし、やはり他の人々の雑念が多すぎて彼女の気配を見つけることは出来ない。


(……クソっ!)


 こうなれば眼だけが頼りか。まだ日があるうちなら、外見で判断すること自体は難しくない。もちろん、それは視界内に入っていれば、の話ではあるが。


 しばらく中央付近を探し回っても見つからず、出店をしている人たちにも聞き込みをしてみる。とはいえ、有益な情報も得られないまま時間ばかりが過ぎていった。


 一旦、少し冷静になって、状況を整理してみることにする。


(……海と月の塔をランドマークにすれば良いんだから、迷いようもなくないか?)


 そう思い、一旦足を止めて振り返って上を見上げてみた。いつの間にか西日が塔を照らし出している――この街ならほとんど何処から見てもあの塔は見えるはずなのだから、それを目指して歩けば海に出られる。絶望的に方向音痴でも流石にどうにかなるはずだ。


 一応、クラウ自身がそれに気付いてくれれば、海沿いを探しているエルたちと合流してくれるかもしれない。自分が考えなければならないのは、この街にいてあの塔が見えない場所にいる場合だ。


 そう考え、少し高い所に移動し、改めて街中を見回してみる。もちろん高所から、彼女のシルエットを探すが、やはり見当たらない――諦めて視座を高く持って確認すると、街の入り口から海の方面は区画が整理されており塔の発見は難しくなさそうだが、街の北側方面、恐らく旧市街地のようなところであろうが、そちらは道も細く周りの雑居もやや背が高いので、あそこに迷い込んだら塔を発見できなさそうではある。


 というか、そもそも絶望的な方向音痴とはなんぞやと想定してみた時に、何かを目印にして移動しようとか、そういう発想が無いから方向音痴なのではないか、とも思った。要は、今考えたことも徒労で、実は市街地方面にいるのに迷っている可能性だってあるのかもしれない――流石に海沿いにさえ出られれば迷わないとは思うが。


 そうなれば、結局探す範囲を狭めることは出来ないか。向こうだって移動していて、無限に行き違う可能性だってあるし――そもそも迷っておらず、何か厄介なことに巻き込まれている可能性だってある。ともかくこうなったら、しらみつぶしに探す気概で行くしかない。下に降りて、また人通りの多い中で、クラウの気配を探すことに専念してみることにする。


(……よりにもよって、こんな人の多い街で迷子になることもないだろうがよ)


 もっと人が少なければ、それこそレヴァル程度の規模感だったら、きっとすぐに彼女の気配に気付いてあげられたように思う。もう夕暮れも近づいて来てるというのに、相変わらず陽気で雑多な人ごみをかき分けながら、方向音痴な彼女を探し続けることになった。

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