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4-33:孤児院での夕食 上

 少女たちの部屋に入ったのが午後七時過ぎ、少し雑談をして、もう少しでステラ院長に言われた夕食の時間だ。雑談でもして時間を潰そうと思っていると、ふとクラウが遠慮がちに手を挙げる。


「あの、ちょっと口裏合わせをしてほしいのですが……その、教会でのことは、皆さんの口からは話さないようにしてほしいんです」


 曰く、教会を追放されていること、アガタとの確執については話さないで欲しいとのこと。冒険者をしていたこと、魔王征伐に参加したことは話してもOKで、ソフィアやエルの素性を話すのも問題ないとのこと。


「なぁ、俺の素性は話してもいいのか?」

「えぇ……アラン君って経歴だけ見れば相当の不審者じゃないですか。まぁ、中身も大概ですけど」

「おい」

「半分は冗談ですよ。まぁ、ちょっと転生してきたは突然すぎるので、最初に私たちに話していたように、記憶喪失ってことでいいんじゃないですか?」

「半分は本気らしいというのが大変気になるが、了解だ」


 クラウの提案は妥当な落としどころだろう。そもそも、自分のことなど話す機会はないかもしれないが――修道院の人たちだって、やはりクラウとティアが何をやっていたのかが一番気になるはずだ。


 ともかく、クラウからすると、修道院の人々に心配をかけたくないのだろう。教会に居た時のことは自分たちは知らないことにすればそんなに粗は出ないはずだし、事実として見ていないのだから詳細に伝えられるわけもない。


 しかし、クラウの提案があまり納得いかなかったのか、エルが少し渋い表情をしている。


「……黙っているのは良いんだけどね。別にアナタは悪いことしたわけでもないんだから、堂々としていればいいのに」

「まぁ、そうとも言えるんですけれど……でも、やはり修道院の方にルーナ神に見捨てられた、というのは少々体裁が悪いと言いますか……」

「うぅん、まぁそれを言われるとね……」


 確かに、ここも修道院というくらいなのだから、七柱の内いずれかの神を信奉していてもおかしくない。特に教会ではルーナ派が多いとはアガタが言っていたし、この修道院はルーナ神を信奉していてもおかしくないのだ。


 そうなれば、その神に見捨てられたは、なかなか言い難いのも頷ける。事実、エルとソフィアも少々深刻な表情をしていた。


「……まぁ、俺らとしては、レヴァルでブイブイ言わしてた銭ゲバ僧侶とたまたま組むことになって、なんやかんやで魔王を倒しました、くらいで合わせていけばいいんじゃないか?」

「ふぁー!! アラン君、銭ゲバも禁止です!!」


 面白半分で言ってみたところ、クラウは大慌てで額の前に腕でバッテンマークを作る。そういえば、コイツには二つ名が全部四つくらいあったはずだ。


「それなら、えぇっと……」


 自分は覚えていないので、エルの方を見やる。彼女も察してくれたのか、少し口元をにやけさせている。


「狂僧侶、は銭ゲバと同列だからダメね。大聖堂の異端者……は、ちょっとマズいかしら。あとは、旋風の錬金術師、だったかしら?」

「そうそう、旋風の錬金術師、それで統一しようか」


 自分の提案に、エルとソフィアは大きく頷いた。エルは面白半分で、ソフィアは善意百パーセントという違いはあるのだが。そして同時に、クラウは顔を赤くしながら、両の手のひらをぶんぶん振っている。


「そ、それも勘弁してください……!!」

「地元じゃそう呼ばれてたって言ってなかったか?」

「くっだらないことばっかり覚えてるんですから! あんなのその場のノリに決まってるじゃないですか!!」

「なぁんだ、そうだったのか、残念だ」


 これで出会った時にハチャメチャにされた借りは返せた、そう思って満足している傍らで、ソフィアがきょろきょろしながら口を開く。


「それじゃあ、レヴァルで名うての冒険者だったアランさん、エルさん、クラウさんの三人を私が雇っていた、でいいかな?」

「それですソフィアちゃん!」

「……それですも何も、単純な事実だと思うのだけれども、それ」


 エルは呆れた調子で二人の少女に突っ込んだ後、何かを思い出したかのように少し眼を見開き、笑いながらこちらを見てくる。


「……あぁ、別にアナタは高名でもなんでもなかったわね、漆黒の断罪人さん」

「いちいち掘り返さなくてもいいだろうがよ、それ……」


 ともかく、口裏を合わせている間に時間になり、四人で部屋を出る。廊下を歩いている時も、子供たちは元気に駆け回っており、また寝る準備を始めているせいか半分くらいの子供たちは寝間着姿に変わっていて、それを修道院のシスターたちが宥めている光景が広がっていた。


 そして一階に移動してからは、珍しく自分たちよりクラウが先導してくれ、修道院の食堂へと連れて行ってくれた。中では一人のシスターが子供たちが汚したのであろうテーブルを拭いており――それもほとんど終わっているが――奥の長机で、院長が腰かけてこちらに笑顔を向けてくれていた。

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