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4-23:創世記 上

 ハインライン辺境伯を後にしてからは、王都を目指して西へと旅程を取った。グリュンシュタッドはレムリア内でも主要な都市であり、自然と王都へと続く道も舗装されているため、とくに道中では荒事もある訳でなく、のんびりとした移動となっていた。


 馬車を使う選択肢もあるのだが、貸し切りになるため料金が高い。暗黒大陸で高額を稼いでいた時の感覚でお金を使うと、すぐに資金が尽きるとはクラウの言葉だ。馬だけならまだ安く済むのだが、エルしか乗馬が出来ない。もちろん時間を買うという観点から言えば乗り物に乗るのも在りなのだが、世界を見て回りたい自分と、何処に居るかも分からない仇を探すエル、急ぎでないソフィアとクラウという組み合わせなので、自然と徒歩での移動になっていた。徒歩で王都を目指す場合、無理なく移動して、あと一か月半程度の行程となる予定になる。


 道行く先々で感じたことは、グリュンシュタッドの街で感じたことに少し近かった。端的に言えば、レムリア大陸の住民は、疲弊しているように見える――勇者の降臨までに十五年、その後の討伐期間まで含めると十七年と続く魔族との戦いに勝利した戦勝ムードは既に鳴りを潜め、荒廃した土地やその上にかかる税、野盗の増加による社会不安など、痛いほどの現実に苦しめられているように見えた。


 これでもし、立て続けに大きな衝撃――たとえば人間同士の大規模な戦争など――が起こってしまえば、人々は真に明日を生きる希望を失ってしまいそうだ。一応、世情の大部分は教会と学院が連携して統治しているので人間同士の抗争は無いようだが、それでもいつ不満が爆発してもおかしくないように見えた。


 さて、グリュンシュタッドの街から出て二週間ほどで、大きめの街へとたどり着いた。街はずれの宿を取ってから自分とクラウが買い出しに出かけ、既に日も傾き始めており、煉瓦造りの街並みが黄昏色に染まり始める時間――自分の横を歩いていたクラウが、紙袋を片手に郊外にある鐘楼を指さした。


「……アラン君、教会に寄っても良いですか?」

「あぁ、構わないぞ」


 別に何を急いでいるわけでもないのだから、道草を食ってもいいだろう。クラウが小走りで進んでいくのを、後ろから歩いて追いかけていく。


 郊外にある小さな教会のおかげか、また夕暮れ時という時間も合わさってか、教会の中は閑散としていた。まぁ、他に人もいないほうがゆっくりもできるだろう。クラウから荷物を受け取って、自分は長椅子に腰かけて、慈愛の表情に満ちた女神像に――アレはレムなのかルーナなのか――跪いて祈りを捧げる少女の後ろ髪を眺めて待つことにした。


 ぼぅっとしているうちに、段々と取り留めもない考えが浮かんでくる――教会というこの場だからこそ、レムやゲンブ、それにブラッドベリが言っていた内容が思い出されるのかもしれない。


 この世界は七柱の創造神が作った箱庭であり、宇宙の均衡を崩しかねない実験を行っている――それは七柱の創造神達に反する者たちの意見であるから、客観的な意見ではないとも思う。だが同時に、この世界の是非を見てほしいというレムの依頼がある以上、やはり七柱の創造神達はきな臭いことをやっているのは相違なさそうだ。


 いずれにしても、七柱の創造神とは何者で、何を目的にしているのか――それが分からないと判断もできないこともある。


「……お待たせしました……と、アラン君、考え事ですか?」

「うん……? あぁ、ちょっとな……」


 考え事をしているうちに、クラウがこちらを振り向いて近づいてくる。しかし、丁度いいかもしれない。教会出身の彼女なら、七柱の創造神について色々知っているだろう。もちろん、それは歪められた歴史かもしれないし、都合のいい部分だけを人類に伝えているのは容易に想像できるものの、それでも判断材料が何もないよりは余程いいに違いない。


「クラウ、ちょっと七柱の創造神について教えてくれないか?」

「別に、それは構いませんが……何故に唐突に七柱神について知りたいんですか?」

「そう言えば、俺を起こした人物のことを全然知らないと思ってな……クラウなら詳しいだろう?」

「そうですね、アラン君の周りなら、多分私が一番詳しいと思いますし……」


 そこで一旦言葉を切って、クラウは西日に顔を照らされながら、こちらの左横に座った。


「いいですよ、特別にご教示して差し上げます」

「あぁ、頼む」

「とはいえ、どこから話したものですかね……うーむ……」

「できれば、そうだな、神話と絡めて話してくれないか? ゲンブなんか、七柱に倒された古の神々の生き残り何て言ってたから、そのあたりも含めて聞いてみたい」

「なるほど、了解です……それでは、七柱と古の神々の争いから創世記、それに創造神たちの概要をかいつまんで話しますね」


 クラウは腕を組んで黙り――恐らく、どういう順で話せばいいか少し考えているのだろう――そして話がまとまったのか、人差し指を立ててこちらを向いた。

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