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4-19:Sturm und Drang 上

 ADAMsを利用したことで、なんとかエルの救出には成功した。見れば、先ほどエルが立っていた場所に、手裏剣が無数に突き刺さっている。いや、手裏剣とは、まさかこの世界で見ることになるのも意外だが、現にそれが刺さっているのだから他に形容のしようもない。


 しかし、やはり補助魔法だけでは加速装置の負荷を軽減しきらないか――体中に激痛が走るが、まだ動けないと位ほどではない。あと一回ならばなんとかいける、そう思いながら声のした頭上を見上げる。


 そこに居るのは巨大な体の忍者だった。体躯はブラッドベリ並みに大きく、厚い胸板の前で丸太の様な二の腕を組んで、網膜まで赤く染まった瞳でこちらを見下ろしている――もう存在感はまるで忍んでいないのだが、身や頭部につけている装束が完全に忍者のそれだった。


「……テメェ、何者だ?」

「そういう貴様がアラン・スミスか」

「俺は、お前が何者かって聞いてるんだよ……!」

「ワタシは……」


 こちらの反論に対して黒装束が答える前に「なんなんだお前らは!」と横やりが入る。声のしたほうを見ると、衝撃で腰を抜かしたのか、カール・ボーゲンホルンが地面に尻もちをついたまま声を荒げているのが確認できた。


「オレの式でこんな狼藉、タダで済むと……!?」


 カールが最後まで言葉を紡げなかったのは、黒装束から放たれた手裏剣が、彼の足の間にまた数本刺さったからだ。


「……無益な殺生は好かん。弱者は早々に立ち去るがよい」

「ひ、ひぃいい!?」


 カールが悲鳴をあげるのと同時に、式に参加していた者たちもやっと事態を理解したのか、各々が悲鳴をあげながら逃げ出し始めた。無益な殺生は好かないは事実なのだろう、抜けたままの腰で四肢を使ってなんとか扉から外に出るカールを見送ってから、改めて黒装束はこちらへと向き直った。


「改めて、私はドラゴン……ブルードラゴンだ」

「あぁ、ふざけてんのかテメェ……」


 あからさまな偽名に対し、思わず悪態が口に出る。ただ、ブルードラゴン、なんとなくだが引っかかるものがある――。


「セイリュウ……ゲンブの手の物か!?」

「答える必要はない!」


 黒装束が背中に手を回し、背負っていたものを前面にかかげる。それは、直径一メートル近くある巨大な手裏剣だった。


「ナムサン!!」

「ちっ……!!」


 奴の腕の軌道、そのままあの巨大飛び道具が飛べば、エルと自分を薙ぐ軌道になる――普段なら俊敏に動けるエルでも、今のドレス姿では中々動きにくそうだ。奥歯のスイッチを入れて再度エルを抱え、背中を進行方向へ向けてバックステップをする。


 恐ろしかったのは、手裏剣のその速度だ。超音速の世界であって、しかし魔王の放つ衝撃波よりの何倍の速度で前面を過ぎ去っていく。手裏剣はブーメランのように弧を描いて、こちらが着地したタイミングで加速を解くと、すぐさまセイリュウと名乗った者の腕へと戻っていた。


「……がはっ!!」

「アラン!?」


 二度の加速に体が着いて行かなかったのか、また吐血をしてしまう。


「……やはり、生身の体でADAMsを使うには限界があるか……ぬ?」

「アラン君!」


 体が幾分か軽くなるのと同時に、一気に内臓が回復しているのが分かる――そして自分の名を呼ぶ声は、聞きなれていると同時にいつものものより若干トーンが低い。恐らく、クラウがティアと交代して、自分に上級の回復魔法と補助魔法をかけてくれたのだろう。


「エルさん、これを!!」


 ティアの声と同時に、こちらに向かって何かが中を切って飛んできている音がする――二本、恐らくファイアブランドとへカトグラムだろう。対して、忍者は袖に腕を入れる。


「やらせん……火遁の術!!」


 火遁の術、まさか炎の魔術的な何かか――と思ったが、非常に物理的で、非常に厄介なものが飛んできた。要は爆弾が十個ほど、それも既に導線に火がついてこちらへと飛来してきているのだ。


 そんなもん火遁じゃねぇ、そう思いながら、再び奥歯のスイッチを入れる。こちらも袖や外套に仕込んでいる短剣を取り出し、投げられた発破の導線に向かって投げる――爆弾の落下速度が遅くなっているわけでもないし、飛んでいくナイフの速度も劇的に上がる訳でもない。ADAMsを使用したのは、単純に爆弾の軌道と、それにナイフをあわせるため――前進しながら、飛来してくる爆弾の導線を投擲で一つ一つ消していく。


『このまま、アイツに一発くれて……』


 十個の爆弾全ての導線を落としてから、ベルトに下げられているパイルバンカーを装着するため手を伸ばしながら視線を上げる。しかし、セイリュウは超音速の世界でなお、そこそこの速度で動いている――再び巨大手裏剣を取り出し、それを教会の天井に向けて投げ出していた。


 つまり、火薬による攻撃は目くらまし、相手の狙いは最初から支援の出来るティアとの分断だった。


『相手の狙いは分断だな、どうするアラン?』

『どうするもこうするも……!』


 振り返ると、すでにティアは教会の途中まで走ってきている――助けに行くと、エルを分断された手前に残すことになり、それはそれで危険だ。


「……ティア、下がれ!!」


 加速を解いて大きな声で叫ぶと、ティアはハッとした表情になり、すぐに足元に結界をおいて後ろに跳んだ。導線の切れた発破が教会の床に堕ちる乾いた音と、エルが二本の剣を受け取るのと同時に、教会の天井に巨大手裏剣が刺さり、瓦礫が上から振ってくる。その結果、石造りの教会が中央で分断される形になった。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかのNINJAキャラは予想外だった。
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