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4-13:領主との面会 上

 次の日、朝早くから四人で下山し、改めてグリュンシュタッドの街にある屋敷を目指した。最近の好天に恵まれたおかげもあり、登りよりは大分時間も掛からず、結果として正午過ぎには街までたどり着くことが出来た。


 さて、屋敷を目指している理由は、改めてエマという女中に会うためである。正確には、エマのみが把握している秘密部屋に、いくつか抑えているカール・ボーゲンホルンの脱税の証拠が無事かどうか確認するためだ。


 昨日エルが決めた内容はこうだった。仇を探す期間は一年間と定める――それ以内に見つからなかったら、仇の捜索は軍に一任すると。要は、一年でけりが付こうと付かなかろうと、彼女はハインライン辺境伯領に戻ると決めたのだ。


 捜索期間を一年と定めたのは、これからカール・ボーゲンホルンを追い出したとしても、軍が代わって統治してくれる期間だからである。そしてそれをシルバーバーグに話したところ、カールの汚職の証拠は持ち出せはしなかったが、同時にその証拠はエマに渡してあるため、今も屋敷のどこかに隠してあるはずと、それを教えてくれたのだった。


 書類が無事なのかを確認するために、必ずエマに会う必要がある。そのためまず屋敷にいるエマにコンタクトをとろうというのが今回の目的だ。


「抜け目ないアナタのことだから、きっと隠していると思っていたわ、シルバーバーグ」

「エリザベート様も、良くぞご決断なさってくれた……無論、戻ることを強要したかったわけではございませんが、それでも嬉しく思いますぞ」


 二人の会話を思い出しているうちに、屋敷の前に到着した。とはいえ、状況は以前よりも難しいと言っていいだろう。初めて屋敷に来た時は、運よくエマというエルに対して友好的な女中が対応してくれたのだが、次もそうだとは限らない。また、以前来た時にソフィア・オーウェル准将が何某か来訪したということは屋敷の主人には知られているはず。


 そうなってくると、想定されるパターンと対応策はこうだ。エマが出てきてくれるパターン、これが一番楽なのだが、可能性としてはそこまで望めないだろう。次に、他の者が出てくるパターン。この場合は、恐らく前領主の娘と軍の要職がこちらに居るのだから、屋敷に入ること自体は可能だろう。


 とはいえ、わざわざ身内出ない権力者が来ることは警戒されるだろうし、本来なら領主の立場にいておかしくない人物が来たとなればどんな対応をされるかもあまり予想は出来ない。


 ともかく、屋敷の門番に再びソフィアが掛け合い――エルを出さなかったのは、門番が顔見知りでないのが理由で、下手に存在を気とられると無用な誤解を招くかもしれないから――エマと話をしたい旨を説明した。


 門番が屋敷に入ってから、屋敷の前でどれほど待たされただろうか。中では、まず領主に准将が来たと知らされているのではなかろうか――そして十分以上経ってからであろうか、やはり迎えに来たのは別の使用人で、屋敷の中に通される運びとなった。


 屋敷の中は、街の沈んだ雰囲気とは逆に、煌びやかな雰囲気だった。綺麗に磨かれた廊下に、豪奢なシャンデリア、棚に並ぶ高そうな調度品や壁に並ぶ絵画など、戦後の貧しさを全く感じさせない雰囲気である。


「……なぁ、前からこんな感じだったのか?」

「まさか……新しい領主の趣味でしょ」


 小声で隣を歩くエルに話しかけると、そんな返事が返ってきた。


 そしてひとまず応接間に通され、またそこでしばらく待たされて後、また別の部屋へと案内された。使用人曰く、その中にエマがいるらしいのだが、エマと話すだけなら先ほどの応接間に連れてきてくれればいいのであるのだから、自分たちとエマだけを会わせまいと考えられていると予想された。


 さて、出たとこ勝負にはなるが、どうなるであろうか――まぁ、そもそもこの世界の貴族文化にも政治にも明るくない自分が出来ることと言えば、せいぜい何があっても下手な口出しはせず、こういうのが得意そうな子に任せるしかないのであるが――。


「……ソフィア」

「大丈夫だよ、アランさん。私に任せて」


 こちらの意図を察したのか、ソフィアは笑顔で頷き返し、そしてドアをノックした。「どうぞ」という男の声が聞こえ、少女が扉を開く。


「ようこそ、ソフィア・オーウェル准将……それに、エリザベート・フォン・ハインライン。お会いするのは五年ぶりくらいかな?」


 声のする方を見ると、年の頃は三十代といった感じの男がソファーに座っているのが見える。見た目はなかなか清潔感もあり、そこそこ整った目鼻立ちをしており、綺麗に揃えられた顎鬚を触りながらこちらを見ているが――俺のことなぞ視界にも入っていないのだろう、ソフィアとエルの方に意識を向けているのは分かる。


 そのソファーの対面には、エマが所在なさそうに俯いて、申し訳なさそうにエルの方をちらちらと覗き見ているようだった。


「……いつまで入口でぼうっとしているんだ?」

「はい、それでは失礼します」


 男に施されて中へ入ろうとするが、ソフィア、エルと入った時点で男の手が上がった。


「おぉっと、ここまで御足労もらって悪いが、話はオーウェル准将とエリザベートから聞く……後の二人は応接間で待っていてくれ。なぁに、茶ぐらいは出す」


 皮肉気に笑う男の顔にカチンときたが、自分が事を荒立てても仕方がない。現領主に睨まれながらエマから話を聞き出すのは難しいだろうが、それでも頭脳明晰なソフィアが居れば下手なことにはならないだろう。


「……うぃっす、それじゃあクラウ、行こうか」

「え、えぇ!? アラン君、いいんですか!?」

「いいんだよ……」


 そこで扉を締め、改めてクラウの方へと向き直る。


「善良な市民には聞かせられない話をしたいらしいからな、領主様は」

「ぶっ……それ、聞こえてるんじゃ?」

「別に、口をつぐめとまでは命令されてないしな……それに、俺がいても話がややこしくなるだけだろう」

「ふぅ……さらっとアラン君側に私を含めないでほしいですけど。まぁ、気持ちは分かりますよ」


 そうして、自分とクラウの二人は応接間の方へと戻ることになった。

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