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幕間:四神招来

 人類側の軍が引き上げて行ってから、更に半日ほどの時間が経った。三人の少女達に押されてしまったものの、あの辺りまで時間を稼げれば十分だったはず――ということで、クラウディア・アリギエーリに真っ二つにされた瞬間、本体であるマイクロチップは物陰に移動させ、代わりに派手に人形を修復しているように見せかけて事なきを得た。


 しかし、魔王ブラッドベリは倒されてしまったようだ。まぁ、一番の目的は達したのだから良しとしよう。問題は、誰が、どのようにブラッドベリが倒したのか。まさか本当にアラン・スミスの活躍で倒されたというのか。


 アラン・スミス――恐らく彼は、創造神のうちの誰かが作成したクローンだろう。だが、七柱の内の誰が、何のために創ったのかまでは不明だ。自分が暗躍していることは向こうにも悟られているのは分かっていたから、何かしら自分に対する策を講じてくるのは織り込み済み。とはいえ、それならもっと強力な個体を創ればよいのに――それとも、特別な力を付与しなかったのは、自分を欺くための策だったのか?


(……それともまさか、同じ創造神たちを欺くため……?)


 そう考えたほうがしっくりと来る。自分に対する対策なら、勇者により強い力を授ければそれで済むはず。敢えて別個体を用意したというのは、もっと別の意味があるように感じられる。


 とはいえ、手持ちの材料だけで判断するのも危険だろう。恐らく、自分の仲間たちが魔王と勇者たちの戦いを観測しているはず――その情報から、改めて考えてみるか。


 ちょうど、そこで回廊の奥から乾いた足音が近づいてきた。その足音の主は、散乱した床からマイクロチップを取り上げ、次の依り代の背中にそれを差し込んだ。


 自分の視界が一気にクリアになり――俯瞰視点で見ると、黒いゴスロリ調の人形が、次の自分の依り代になったようだ。そして、それを抱きかかえているのは、長い銀髪の少女だった。


「お迎えどうも、セブンス。しかし、これは随分可愛らしいというか、流石の私もちょっと抵抗があると言いますか……」

「……黒いフリフリ、可愛いと思う……ゲンブはイヤ?」


 視点を人形側に戻して見上げると、まだ幼さの残る顔つきの少女は、キョトンした顔でこちらを見ている。額につけているサークレットで情緒を抑えているせいで、喋り方もたどたどしい。


「いえいえ、せっかく用意してくれたものですし、ありがたく使わせていただきますよ」

「うん、そうして」


 少女はそう短く切ると、この空間をきょろきょろと見渡し始めた。外の時刻的には夜というのはもちろん、光の差し込まないこの空間はほとんど真っ暗なのだが、それでも何か感じるところがあるのかもしれない。


「ここが懐かしいですか?」

「……よくわからない。でも、少し胸がざわつく感じがする」

「そうですか……ともかく、戻りましょう。案内してくれますか?」

「うん……でも、歩いて帰るには遠いよ?」

「いえいえ、姫を歩かせるわけには参りません……足の準備はしていますよ」


 新しくなった体で指を鳴らすと、一つのガラスシリンダーの中で翼竜型の魔獣が目を開いた。勇者たちに失敗作と言ったのは本当だが、動かないとは一言も言っていない――レヴァル襲撃に使おうと思っていた個体と比べて能力値が規定値を満たさなかっただけだ。


「……この子に乗って行くの?」

「はい、そういうことです……この先で使い道があると思い、温存しておきました」


 そして、目を覚ました魔獣がガラスを砕くと同時に、もう一度指を鳴らすと、元々は宇宙船のカタパルトだった部分を開いた。


 少女が自分の体を抱えたまま翼竜に乗り、カタパルトから夜空に向かって飛び立つ。目的地は、自分たちが乗ってきた宇宙船のある場所――元々、惑星レムの防衛システムのせいで大気圏内に侵入できなかったのだが、今回の大立回りはそれを打破するのが目的だった。


 聖剣レヴァンティンの一撃は、惑星レムに侵入しようとするものを迎撃するための防衛システム、マルドゥークゲイザーを活用したものだ。それを地上で撃っている間が、宇宙船がレムに侵入できるチャンス――肝心なのは、マルドゥークゲイザーの出力とタイミング。最大出力で撃ってもらわないと再装填が早いし、それを撃つタイミングに完全に合わせて、宇宙船は大気圏に突入する必要性があったわけだ。


 それ以外にも、魔王ブラッドベリの不死性はこちらの戦力として換算しても良いと判断した。とはいえ、畏怖に掛かる状態では、味方としてはカウントできない――そこで、使い手のいないホワイトタイガーを与えようと画策したのだ。


 とはいえ、マルドゥークゲイザーが残っている状態では、ホワイトタイガーの耐久も突破され、再び魔王が封印されてしまう可能性がある。それで、魔王城に入るまでに二発撃たせたかったが故に、色々と画策したのだが――。


「……まぁ、結局、こちらの策は破られてしまった訳ですが」

「……何?」

「いいえ、独り言です。負けは負け、素直に認めなければね」

「そう……変なゲンブ」

「しかし、一番の目的は達しました」

「うん、そう負け惜しみを言うだろうって、ホークウィンドが言ってた……それで、あそこ」


 少女が指さしたほうへと竜を向け、ゆっくりと旋回しながら下っていく。そこは、暗黒大陸でも更に北東、この世界の人類がまだ未踏の地、一面の森と雪に覆われた場所――そこの少し小高い丘に、星間を渡る船と、二人の男が立っているのが見えた。


 翼竜が丘に降り、更に少女が自分を抱えたまま、大地に降り立つ。そこに居るうちの一人は銀髪に赤いマントのエルフ、もう一人は黒装束に身を包み、宇宙船に背を預けている巨漢だ。

 

「お久しぶりです、ホークウィンド。それでどうですか、その体は」

「……悪くない」


 巨漢はそれだけ言って押し黙ってしまった。まぁ、元から口数の多いタイプでない。気を取り直し、エルフの方へと向き直ることにする。


「お疲れ様です、T3。それで、エリザベート・フォン・ハインラインは、やはり葬っておくべき存在でした」

「……そうか」


 銀髪のエルフも、それだけ返答して押し黙ってしまう。自分を抱えている少女も口数は多くないことを考えると――。


「……どうして、私の周りはこう、無口な連中が多いのでしょうか?」

「お前が無駄にお喋りなだけだ」


 すかさずにエルフからの皮肉が入った。 


「まぁ、いいです……別に我々は、仲良しこよしの集団ではありませんからね……そう、我々は、共通の目的のために集っているのに過ぎませんから。魔王ブラッドベリは敗れたようですが、その代わり、ホークウィンドと合流することが出来ましたし……」


 一万年ぶりに、四人集った。当時は別に神を騙る気など無かったのだが、こちらでは古の神と称されているのだから、それこそ皮肉なものだ。それなら、敢えてかつての呼び名を使わせてもらう事としよう。


「四神招来……我々四人で、偽りの神々を滅ぼし、真実の世界を取り戻しましょう」


 無口な三人は無言のまま頷き、宇宙船の中に入っていく。自分は偽りの体で振り返り――白い丘に強い風が吹き、辺りに雪の粉塵が舞うのを眺め、そして仲間たちの背を追った。

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