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3-39:夢の中の夢 上

 気が付くと、真っ暗な空間に居た。


「……ここは……」


 女神と会合する空間に雰囲気は似ているような気がするが、それでも明確に違いを感じる。その違和感の正体は、恐らくレムと会うときはほの暗いというか、辺りに星の様な輝きが見える水の中のような場所なのに対し、ここは本当に真っ暗で、一条の光すら刺さない空間だからだろう。


「……アラン・スミス」


 背後から名を呼ばれて振り返ると、そこには四つ足の椅子の足が見えた。足元部分から発する光で、どうやらその椅子は背もたれをこちらに向けているようであること、そしてそこに何者かがそれに座っている気配までは分かるのだが、こちらの名を呼んだ者の顔までは暗さのせいで視認できない。


「……お前が話しかけてきたやつの正体か、何者だ?」

「ふむ……やはり、記憶がないようだな」

「あのなぁ、俺はお前が何者だって聞いてんだよ」

「くっくっく……名乗るのは二度目だな。オレはべスター……エディ・べスター。正確に言えば、エディ・べスターだった者だ」


 エディ・べスター――何故だか自分事を知る存在、そう思えば、コイツは自分の前世と何か関係のある人物かもしれない。しかし、なんとなく記憶の片隅にその名はあるような気はするものの、やはり思い出すことは出来ない。


 せめて、顔でも見えれば思い出すかも――視認できる椅子の足元部分を注視すると、うっすらとだが、べスターと名乗ったものの下半身が見える。どうやら、白衣を纏った科学者風の男だという事だけは分かった。


「……こうやって俺の脳内に直接語りかけてくる奴は皆こうだ。煙に巻いて核心を話しやがらない。なんなんだ、だった者とか」

「そこのところだがな、自分でも良く分からん。べスターなる者は死んでいるはず……ただ、自分の執念が、T2の中、ADAMsのサブ回路に残っていた……それが何の因果か、再び原初の虎に引き寄せられた、そういうことなのだろう」

「はぁ……なんだよ、その原初の虎ってのは」

「貴様が生きていたころには無かった言葉だし、そのうえ記憶喪失なのならば、知らずに当然……まぁ、お前が死んだあと、皆が便宜上、お前のことをそう呼んでいたんだ」


 煙に巻きやがると文句を言った直後なのに、全然わかるように話してくれない。


「色々と聞きたそうな顔をしているな、アラン。だが、状況を把握したいのはこちらも同じ……だが、ひとまずあまり時間もなさそうだ」

「あぁ? 俺の体が起きそうってことか?」

「大体そんな所だ。なので、取り急ぎの報告だけ済ませることにする。まず、こちらからは常にお前の状況を確認できるが、お前からはオレと会話を出来る時間は限られる……お前の精神が昂った時、アドレナリンが規定値を超えた時のみ、オレの声を聞くことができるはずだ」

「はぁ?」

「今のオレは、お前の脳内に埋め込まれている蛋白性のマイクロ通信機を利用してお前に話しかけている……だが、オレという存在がイレギュラーである故、非常に微細な交信しかできない。

 アドレナリンが大量に出ている興奮状態なら、その微細な交信をキャッチできるようになるという事なのだが……」

「良く分からんが、俺の脳が戦闘モードになった時だけ声が聞こえるってことだな?」

「あぁ。しかも、かなり危険な時でないと……と思っておいてくれ。ついでに、加速装置も同様だ。オレの制御が必要だからな……まぁ、本来は生身で使うものでもないし、切り札として活用するのがいいだろう」

「……そうか」


 加速装置が常に使えるわけではないと聞いて、少し落胆してしまった。魔王を倒した直後なのだから、そう厳しいドンパチをやることもないかもしれないが、それでも何かあった時に少女たちの役に立つ力を手に入れたと思ったのだが。


「……誰かに頼まれてもいないのに、勝手に危険を背負いこむのは相変わらずのようだな。それこそ、仲間の少女たちを頼ればよいのではないか?」

「俺は……」


 あの子たちを護るために、と言いかけて止めることにした。自分が少しばかり力を得たからと言って、彼女らを護るというのは傲慢だったかもしれない。それにべスターの言う通り、ここまでだってあの子たちを頼ってきたのだ――自分が彼女達の役に立ちたいのと同様に、きっと彼女たちも自分を助けたいと思ってくれている、などというのは自意識過剰だろうか。


 しかし、それは間違いでもないように思われた。だから、コイツの言う通り、当面は彼女たちを頼りにさせてもらうのも良いのだろう。


「いや、そうだな。俺には……仲間がいるんだ」

「ふっ……そろそろ時間だな」


 こちらの返答に対して、べスターは自嘲気味な声で笑った。そして、そろそろ起きる時間らしい――自分の足元に白い光が伸びてきており、段々とその明かりに自分の体が飲み込まれて行っている。


「なぁ、べスター」

「……なんだ?」

「お前ほど胡散臭い奴も中々いないが……多分、前世で世話になったんだろうな。それで、きっとこれからも世話になる……だから、よろしく頼むよ」

「……誰かさんのおせっかいが移ったらしくてな。言われずともそうするつもりだったよ」


 視界が真っ白に包まれる時に聞こえた男の返事は、少し嬉しそうな声色をしていた。

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