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3-38:The Bound Girls and The Tiger 下


 ◆


 魔王に投げ飛ばされ、火口の淵のギリギリに着地する。体から立つ白煙の向こう側をすぐに見据えると、白い鎧がこちらを向いて構えているのが見えた。


 それと同時に、腰のあたりに熱さを感じる。ポケットの中を探ってみると、先ほどシンイチから受け取った宝石が、熱を発して金色に輝いていた。


『アラン、仲間たちの方へ……三人の少女達に合流しろ』


 脳内の声に反応して、仲間たちの方を見ると、エル、ソフィア、クラウの三人が立っており――彼女たち三人の体から、宝石と同じ色の光が立ち上っているようだった。


『……アレは?』

『トリニティ・バーストだ。難しく考えることはない……彼女たちの想いに身を任せればいい』

『なるほど、全く分からんが、勢いでどうにかなるってことだな!?』


 加速して魔王の横を通り過ぎ、一気に少女たちの前へと戻る。先ほどのアガタの補助魔法も切れかかっているのか、再び激痛に見舞われ、一瞬膝を着いて咳き込んでしまう。


「……初めてあった時も、そうやって咳き込んでいたわね」

「それでいつだって、そうやってボロボロになって……」

「無茶ばっかりするんですから。もうちょっと周りを頼りにしたらどうです?」


 背中に、少女たちの思い思いの言葉がぶつけられる。信用されているというより、心配されているという感じだから、それはそれでどうなのだろうかとも思いつつ――彼女たちが居れば、もっと頑張る、そんな気持ちが湧き上がってきて、自然と口元がニヤけてしまう。 


「……頼りにしてるよ。だから、力を貸してくれ」

「うん! 私に任せて!」


 元気一番に声を出して、自分の右前に立った金髪の少女は、杖を頭上で回して先端を魔王に向ける。


「えぇ、えぇ……言い出しっぺは私ですから。お力添えしますよ」


 緑髪の少女は両手のトンファーを回しながら、不敵な声色で自分の左前に立ち、構え取る。


「勝手に動かれて野垂れ死なれるよりは、頼りにされる方がマシよね」


 不承不承といった調子で自分の正面に立つ黒衣の剣士は、右手に翡翠色の長剣、左手に赤い宝石の光る短剣を構え、最後は力強く言い切った。


「あぁ……いくぞ、皆」


 自分が声をかけると、手元の宝石と彼女たちを取り巻く光りが、より強く輝き出す――彼女たちの想いに、宝石が反応しているんだ。


 自分も立ち上がり、金色の光の中から魔王を見据える。相手も最大の技で迎え撃つ準備をしているようだ。


 しかし、相手が何であろうと、この子たちと全力でぶつかるだけだ――この身の全てかけて。


「アランさん!!」

「アラン君!!」

「アラン!!」

「……トリニティ・バースト、発動!!」


 少女たちに名前を呼ばれ、宝石を掲げて叫んだ瞬間、自分たちを取り巻く光が弾け、辺りに金色の粒子が舞った。


「……ふぉおお!! なんかすっごい力が溢れてます!!」


 実際その通りで、自分の体にもかつてないほど力が溢れているのだが、それにしてもテンションが上がってシャドウボクシングを始める緑は相変わらず若干アレだと思う。


「……相手にとって不足なし、来るがいい、アラン・スミスとその仲間達!!」


 魔王の前の前には先ほどと同様、暗黒の球体が現れている。しかしそれは、先ほどよりも巨大である。


「デストラクション・ストリームッ!!」

 

 ブラッドベリが叫ぶと同時に、巨大な暗黒の竜巻が生じる。先ほどと比べて衝撃波の密度が濃いため、さっきのように合間を縫って中断などはできなさそうである。その代わり速度は遅く、山頂の地面と雪肌を抉りながら、ゆっくりとこちらに迫ってきているという感じだ。


「……アラン、どうする?」


 エルが横目でこちらを見てきた。他二人も、自分の指示を待っているようである。


「……エル、道を拓いてくれ」

「えぇ、分かったわ」

「ソフィア、相手の足止めを」

「了解だよ」

「クラウは火薬、俺は杭だ」

「……言いたいことは分かりました、相変わらず馬鹿ですねぇ」


 お前に言われたくないわ、そう思っている間に、既にエルが前に向かって走り出していた。


「神剣アウローラよ!」


 エルが剣の名を呼んだ瞬間、金色の粒子に増して緑色の光も追加される。そして、黒衣の剣士は宝剣を握る左手に力を込めたようだ。


「クロイツ・デス……!!」


 振りぬかれた短剣から、巨大な重力波が発生し、前面にある暗黒の暴風に向かっていく。風は大きな力によって歪められ、薄まっているようだった。


「ツヴィリングシュヴァートッ!!」


 次の翡翠の剣による縦一文字で、密度の薄まった黒い衝撃波は切り裂かれ、その先に魔王の姿が顕わになった。


「……ソフィア!!」


 エルが少女の名を呼ぶと、暴風の中でも冴えるレバーの機械音が聞こえる。


「いくよ、グロリアスケイン……第七階層魔術弾装填ッ!! シルヴァリオン・ゼロ!!」


 魔法陣が剣士の拓いた道を飛んでいき、少女が魔術名を叫ぶと同時に、魔王を包んだ陣から絶対零度の光線が降り注ぐ。パワードスーツの効果なのか、それとも魔王自身の力なのか、魔術は幾分か軽減しているようにも見えるが、それでもソフィアの魔術は確実に敵を捉え、漆黒の渦の中心に大きな氷の柱を作った。


「クラウさん!!」

「任せてください!!」


 クラウは前方へと走り出して宙へと跳ぶ。同時に、氷の柱がはじけ飛び、その中心からブラッドベリが再び姿を現す。


「くっ……やらせ……!?」


 魔王は言葉尻を濁して下を見た。どうやら、ソフィアの魔術が強力で、足元の氷が残っており、身動きが取れないようだ。


 そして、その一瞬が命取り――自分もクラウの方へと跳躍する。彼女は両手を後頭部で組み、その先端に結界を出してスタンバイしてくれている。こちらは空中で身を翻し、足を空中で制止しているクラウの方へと向けた。


「アラン君……いっ……けぇええええ!!」


 後ろでクラウの腕が振りぬかれ、自分の足に結界が当たる直前に、奥歯を噛んで精神と自身の肉体を加速させる。


『ADAMs……!』


 男の声が脳内に響くと同時に視界が収縮し、世界から音が消えた。そして、足元に出来た足場の斥力を利用し、自身の体を杭として一気に打ち出した。


 体が燃えるように熱い。それは、諸々の加護ももちろんだが、物理的に――今日の中で最高速を出しているせいで、空気との摩擦で自分の体が赤く燃えているのだ。


 だが――エルが拓いて、ソフィアが繋いで、クラウが協力してくれたこのチャンス、体が燃えているくらいで止まる訳にはいかない。


『これで終わらせるッ!!』


 宙で翻った瞬間、こちらの右足と魔王の鎧とがぶつかり合う。三位一体の儀と神剣の加護のある今なら、この速度で当たっても体も持つ――音が戻ってくると同時に、何か砕ける乾いた音、それは魔王の膝が割れ、上半身だけこちらの足に持っていかれてる音だった。


 黒い暴風が晴れ、炎で赤く染まる足下では、魔王の体が地面に叩きつけられ、そのまま俺の体ごと岩肌を抉りながら火口へと近づいていく。


「ぐぅぅううううううううう!!」

「おぉぉおおおおおおおおお!!」


 足下で呻く声に負けない勢いで、こちらも気迫をぶつけ続ける。その気迫が通じてか、パワードスーツの中心に亀裂が走り始める。


「……何ぃ!?」


 ブラッドベリの驚愕に合わせて、膝に力を入れて最後の一押し、その反動で相手の体から離脱する。ちょっと頑張りすぎたのか、超音速でぶつかった反動が体に一気にきて、着地は成功せずにゴロゴロと薄い雪の上を転げまわることになる。


 こちらの体が止まると同時に、すぐに両腕を使って上半身を起こし、火口の方を見る。魔王も自分と同様に、腕をついて上半身を起こしていた。


「……アラン……スミス……!!」


 魔王が体に纏っていたスーツの全体に亀裂が走り――直後に鎧が砕けて、魔王の青白い肌が再び日の光に照らされて顕わとなった。


「ぐっ……だが、聖剣の砕けた今、貴様らに私を倒す術は……な……!?」


 無い、そう言おうとしていたように思われる。事実、魔王の膝下は煙を上げて急再生しているようで、少しずつ足の組織が出来上がっているようだ。聖剣でしか封印できない不死身の肉体は伊達ではないということだろう。

 

 しかし同時に、魔王の体は金縛りにあったように動かなくなっている。驚愕に見開いた金色の眼の先には、刀身の折れた機械の剣を携えて、火口にゆっくりと近づいていく勇者の姿があった。


「……ブラッドベリ、随分と手を焼かせてくれたね……」

「……きさ……ま……は……!!」


 こちらからは彼の背中しか見えないので、シンイチがどんな顔をしているのかは分からない。だが、その声は冷酷そのものだった。恐らく、魔王は逃れようとしているのだろうが、その意志に反して体は動いていないようだ。


 シンイチはブラッドベリの前で跪き、折れた刀身の先を、無理やり魔王の体に押し込んだ。魔王の口から、紫色の血が吐き出される。


「……マルドゥーク・ゲイザー」


 折れた剣では、その技は撃てないのではないか――シンイチは呟いて立ち上がると、魔王に対して踵を返してこちらへ戻ってくる。そしてすぐに、天から一筋の光が射し――集まった光が白い柱となり、火口の手前に降り注いだ。


 光の柱が消えると、魔王の体は胸に刺さった聖剣とともに、石のようになって固まっていた。


「……魔王は封印された。みんな、お疲れ様」


 先ほどまでの激戦が嘘かのように、シンイチは涼しい顔でこちらへと戻ってくる。そして、ちょうど自分の真横を通るとき、小さな声で話しかけてきた。


「……流石は先輩。やっぱりアナタこそ、正義のヒーローだ」


 やめろ、そんな大層なもんじゃない――そう言い返そうと思ったが、それは叶わなかった。体を酷使した反動が一気に出たのか、視界が暗転してしまったからだ。

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