3-30:迅雷風烈 下
ソフィアの方へ向かい――背中を合わせ、少女の背後から飛んできた瓦礫にナイフをあてて堕としながら、少女に話しかける。
「シルヴァリオン・ゼロでヤツの結界をぶちぬけないか!?」
「試してみないと分からないけど……第六天結界の一個上を出せるなら、防ぎきられる可能性はあるね。そうでなくとも、私の魔術は対策済みだと思うから……あの人の意表をつくことをできないと、厳しいと思う……」
ソフィアはそこで言葉を切って、ハッとした表情になる。
「意表と言えば……そうだ、アランさん。ゲンブの本当の狙いはアランさんだよ」
「……何?」
自分は蚊帳の外にいる感じがするので、ソフィアの言う事に対して間抜けに聞き返してしまう。だが、一瞬だが、人形の気配に動揺が走った気がする――ソフィアの推測は事実だという事か。
「うん、今ので確信に変わった。ゲンブの一番の狙いは、シンイチさんと私たちを分断すること……うぅん、正確に言えば、想定外のことを起こしたくないはずなんだ。だから、長々と話し続けて、今はこうやって手を出して、私たちがシンイチさん達に合流できないようにしている……逆に、彼ほど用意周到で、様々な可能性を考慮している人が、簡単にシンイチさんたちを通したのなら、きっと魔王側に、シンイチさん達を倒す算段を立てているはずなんだよ……それが、邪神ティグリスの復活なのかもしれない」
なるほど、いつもの魔王征伐時には、邪神復活なんてなかったはずなんだ。そうなれば、ソフィアの推測もあながちという感じがする――勇者を魔王一人で倒せぬのなら、協力者が居ればよい、そういうことか。
「私とエルさんとクラウさん、ティアさんは、最初からゲンブの想定の中に居たんだ。だからきっと、何があってもいいように、対策を講じている……でも、一個だけ、この決戦でゲンブが対策できなかったのは、アランさんなんだよ。だから、アランさんはシンイチさんたちを追って……邪神の復活を阻止して、シンイチさんたちを助けてあげて」
「でも、俺が仮に、シンイチに合流したとしても……」
きっと、何もできない。今だって、少女たちほど強力な攻撃もできない、特殊な力を持たない自分は、ハッキリ言って足手まとい、むしろ護られてしまっていると言っても過言ではない。逆を言えば自分がここにいる必然性はなく、居なくなる方が少女たちが動きやすいまであるかもしれない。
そんな奴が一人、魔王の所に駆けつけたと言って、何が出来るのか――しかしソフィアは、自分の弱気に対して首を振った。
「アランさんは凄い人だよ。アナタが居ると、奇跡が起こる……そんな気がするの」
少女の綺麗な碧眼が、信頼の眼差しが、自分に対して向けられ――そして、ソフィアは振り返り、杖のレバーを素早く操作して、こちらへ向かってくる鉄線を氷の魔術で薙ぎ払った。
「だから、行ってアランさん! シンイチさんたちのもとへ……ここは、私たちでどうにかするから!」
少女が拓いた道の先には、強固に閉じられた扉がある。自分が行って、何が出来るかは分からないが――そうだ、この子の期待を、信頼を裏切りたくはない。気が付けば、扉に向かって走り出していた。
「……ソフィア・オーウェル、素晴らしい洞察力です。アナタのいう事は、一字一句、私の心を言い当てています。ですが、あの扉を開け……!?」
ゲンブの声に動揺が走ったのは、俺の前に重力波が現れたからだろう。そのうねりが金属をひしゃげさせる鈍い音を上げて――扉が歪み、人一人が通れるだけの隙間が出来た。
「……開いちゃいましたね」
「道はこじ開けたわよ!!」
人形の頓狂な声にかぶさるように、エルの声が空間に反響した。
「助かる!! エル、やられるんじゃねぇぞ!?」
「アナタこそね!!」
エルの檄を背中に受けながら、自分は階段のある扉の方へと駆けだした。
「いかせ……!!」
「やらせない!!」
「邪魔させてもらうよ!!」
恐らく、人形が自分を行かせまいと、何かを飛ばしてきたのだろう。しかし、右手には眩い電撃が走り、左手は緑髪の少女の結界が貼られたことにより、扉までの障害物は一切なくなった。
横に並んだ赤い瞳が、こちらを真っすぐに見つめてくる。
「クラウからの言伝さ……アラン君、頑張ってください、と」
「……任された!!」
ここまで彼女たちにお膳立てしてもらったのだから、退く理由などない。後は一切振り返らず、扉の隙間をスライディングで抜け、目の前にある階段を駆けあがり始めた。




