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序章:某都郊外の路上にて

 うだるような暑い夏の日、馬鹿みたいにうるさい蝉時雨の中、陽炎の立ち上がるアスファルトの向こう側、反対側の歩道にいる一人の少女が目に入った。後頭部でまとめられた黒くて長い髪に、在りし日の誰かを重ねてみてしまったのかもしれない。


 しかし、横顔が見えた瞬間に少女への関心も幾分か失せた。快活そうな少女の顔立ちは、自分の重ねていた者と印象が大分異なったからだ。そもそも、会いに行こうと思えばいつだって彼女には会いに行けるんだ――そう思いながら仕事に戻ろうと視線を正面に戻すと、向こうから激しい物音が聞こえだした。


 視線を凝らして見ると、何やら遠くからトラックが蛇行しながら辺りの車をはねながら暴走しているのが視界に入ってきた。最近のトラックは自動運転であり、事故は大分減っているはずなのだが――ヒューマンエラーよりマシというだけで、機械の故障というものはいつなん時だってありうるか。


 ともかく、暴走している以上はどこに激突するとも限らない。安全を期すなら路地にでも退避するか。ふと、先ほどの少女の方へと視線を向けると、何故だか唐突に路上に向けて駆けだしているのが見えた。


 気が付けば自分も駆け出していた。それも、自分が想定していたのと正反対の方向にだ。少女の行く先を見ると、なるほど、彼女はどうやら動けなくなっている子猫を救おうとして路上に飛びだしたらしい。


 極度に神経が張り詰めているせいか、時の流れがゆっくりに感じる。音から察するに、巨大な鉄の箱はもうすぐそこまで迫ってきている。恐らくこのままいけば轢かれるのは二人と一匹になるだけだろう。


 もし自分が風よりも早く走ることが出来るのなら、今この瞬間に猫を拾い上げた少女を抱き上げ、安全な場所まで駆け抜けることもできたのだろうが――人並の脚力ではそれも敵わぬ幻想か。


 ただせめて、小さな命を助けようとした少女の勇気を無為にしないために――何とかトラックに跳ねられる前に少女へと追いつき、勢いのまま華奢な体に向けて両手を突き出した。


 子猫を抱きかかえたまま吹き飛ばされた少女が、驚きの表情でこちらを見ている――見ず知らずの他人につき飛ばされれば、鳩が豆鉄砲をくらったような顔にもなるだろう。


 そしてふと冷静になって、我ながらどうして赤の他人のために命を懸けるだなんて馬鹿なことをしてしまったのかと自問した。まぁ、夢を諦めざるを得なかった自分の人生なんて、碌なもんじゃなかったが――それでも、俺はまだ死ぬわけにはいかないのに――。


 そして思考は、身体の左からの衝撃に中断された。その衝撃はすぐに全身を駆け巡り、身体が浮き上がり――そして頭に鈍い衝撃が走った瞬間、世界が真っ暗に暗転した。

ここまでお読みいただきありがとうございます!!

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