02.不満が爆発
互いに疲れていたのもあるが、配慮やフォローが足りなかったのかもしれない。
今になってアマリリスの負担が大きかったのではないかと後悔していた。
自分の事で手一杯なのはお互い様なのに…。
(アマリリスが不安に思っているのに気付けないなんて情けない……)
「ユリシーズ様の美人、金髪ッ、女顔っ!離して下さいっ!」
「……」
恐らく必死に悪口を言っているつもりなのだろうが正直、痛くも痒くもない。
今にも泣き出しそうなアマリリスを見ながら、どうするべきか迷っていた。
ただ、このまま一人にしてはいけないことだけは分かる。
(……どんなアマリリスでも受け入れる。そう決めたが、どう伝えて良いか分からない)
情けないことに自分は恋愛初心者だ。
今まで婚約者どころか仲のいい御令嬢一人、居たことはなかった。
騎士団でも男に囲まれており、仲が良い女性といえば男勝りな姉だけ…。
おまけに口下手で表情の変化が乏しい為、勘違いされる事も多かった。
考えている間も、アマリリスはこの場から逃れようと必死である。
まるで芋を引っこ抜くように必死に踏ん張っている。
(考えるのは後だ…今は落ち着かせなければ)
一瞬だけ力を抜く。
アマリリスが倒れそうになる動きを利用して自分の腕の中に抱き込んだ。
「きゃっ……!」
「アマリリス、落ち着いて話をし……ッ!?」
ガブリと腕に噛み付かれて痛みに息を止めた。
一瞬、予想外の行動に怯んだもののアマリリスを抱きしめたまま話を続けた。
「……最近、互いに忙しくて話す時間もなかったな」
「……っ!」
「こんなになるまで放っておいて、すまない」
その言葉にアマリリスの体の力が抜ける。
ゆっくりと上半身を上げて、アマリリスの頬をなぞる。
涙をボロボロと流す姿を見て、安心したように笑みを溢した。
「全部話してくれ……アマリリス」
「うぅっ……ユリシーズさまは、へんです」
アマリリスの涙と鼻水を袖で拭う。
「こ、なに……やさしくて、意味がわかりません!」
「……?」
「それにっ、わたくしを甘やかしてばかりで!!かっこいいからって、ダメですッ!!」
「…??」
「いつもわたくしを気遣ってばかりで、ユリシーズさまだって、大変なのに!本当は、こんなことしてないで休んで欲しいのに……!もう、ばかぁ!ごめんなさいぃ」
「???」
褒められているのか、文句を言われているのか全く分からない。
アマリリスの言葉を否定する訳にもいかずに首を傾げた。
とりあえず、纏めると心配をしてくれているようだ。
すんすんと肩を揺らすアマリリスの頭を優しく撫でる。
「嫌われたのかと思った……驚かせないでくれ」
「わたくしが、ユリシーズ様を嫌うことなど有り得ません……」
「……」
「痛かったですよね………ごめんなさい」
「大丈夫、気にするな」
申し訳なさそうに歯型のついた腕を撫でる。
何故、アマリリスがこんなに荒れていたのかを誰か教えて欲しい。
すると扉の隙間からララカが焦ったように顔を出して、キョロキョロとしながら何かを探しているようである。
何かを知っているのかもしれないとアマリリスを落ち着かせながら凝視していると、フランとヒートが慌てて何かを持ってきてララカに渡す。
ララカは急いで紙に何かを書き込むと、此方に向かって手を伸ばす。
『 キ ス 』
それを見て体を固くした。
そしてララカは唇を窄めてからアマリリスを指差した。
(つまり、アマリリスにキスをしろと言うことか……!?)
意図が伝わったと理解したのだろう。
ララカは親指をグッと立てた後に、フランとヒートの首根っこを掴んで去っていく。
出会った頃はビクビクとしながら、牢の中でアマリリスと過ごしていたララカは、マクロネ公爵家で色々と磨かれたせいか、随分と逞しくなっているように見えた。