06.明るい未来へ
「この際、お前が誰だろうと関係ねぇ……俺は何があっても凛々の事を信じている」
「………何があっても信じるなんて、軽々しく口にするもんじゃないわ」
凛々の膝で固く拳が握られる。
この男が信じていた"凛々"はもう居ない。
それは紛れもない事実だ。
「……貴方が見てきたものが、全て嘘だったとしたのならどうするの?」
「嘘……?」
「そう……貴方が見てきた"凛々"は、もう戻らない」
「どんな"凛々"でも"凛々"である事には変わりない」
「……!」
「誰が何と言おうと、俺が見たものが真実だ」
リュウの言葉に肩を竦めた。
「嘘ばかり」
「嘘じゃねぇ」
「……私は、もう何も信じない」
「……」
ポツリと呟いた言葉を聞いたリュウは此方を真っ直ぐ見つめながら応える。
「なら、俺がお前を愛してやる」
「は……?何を言っているの?」
「そこまで言うなら、俺が証明してやる」
「馬鹿ね、証明なんて必要ないわ。無意味だもの……放っておいて頂戴」
「馬鹿はお前だ。これからもそうやって一人で生きていくつもりか?」
「えぇ………そうね」
何処か遠くを見て答えた。
「騙されたと思って、俺を信じてみろよ」
「……阿呆らしい」
「惚れた女は絶対に守る……俺はそう決めている」
目を見開いてリュウを見た。
真っ直ぐに此方を見据えるリュウの瞳の強さに惹かれていく。
「……信用出来ないわ」
「だったら俺の女になってみろよ」
「嫌よ……貴方みたいな横暴な人、御免だわ」
「何を怖がってんのか知らねぇが、俺がお前を全力で愛してやる」
「……」
「俺はお前を絶対、見捨てたりしねぇ」
中身は別人だ。
それなのに、この男はそれが分かった上で熱烈な告白を続けるのだ。
(下らない……男なんて皆、同じなのよ)
「………もう、貴女の好きだった凛々は居ないって言ってるの。それに、今更告白なんてして何のつもり?」
「借金を完済してから告白しようと思ってたんだよ!」
「だったら、金利でも下げたら良かったのよ」
「………下げてた」
「あれで?」
「ふ、普通のふりして…サプライズしようとしてたんだよッ」
「………」
「だあぁあぁっ仕方ねぇだろうが!!んな事、バカ正直に言ったら俺が凛々を好きだってバレちまうだろうが!!!」
(絶対、バレないと思うけど……)
記憶の中には一生懸命働く凛々の姿を垣間見ることができる。
素直で真っ直ぐで……どんな時も笑顔で仕事をこなす。
けれど妙に肝が据わっており、リュウやヤスとも偏見なく付き合っている。
(わたくしにはとても出来ないわ……こんなに良い子なのに苦労ばかりして)
眉間に皺を寄せて考え込んでいた。
結局、リュウはラストまで凛々を指名して居座り続けた。
「アフター行くぞ」
「……貴方の相手で疲れたわ」
「お前、今まで頑張ったんだろ?……祝いてぇんだよ」
リュウは照れながらボソリと呟いた。
それを聞いて溜息を吐いた。
横暴かと思いきや、純情で初心……不器用だが人情深い不思議な男だ。
「焼き肉弁当……好きって言っていただろう?」
「………えぇ、大好きよ」
「なら、焼き肉食いに行こうぜ」
リュウは此方に手を伸ばす。
仕方なく手を取ると、耳まで真っ赤になっているリュウの姿。
クスリと笑みを溢す。
(……見た目と全然違って、可愛いのね)
リュウの肩を掴んで背伸びをする。
そして、頬にそっと唇を寄せた。
「ーーーなっ、なっ!?」
「……ありがとう」
サービスしたのもアフターへ行くのも、ただの気まぐれだ。
そんな時、身に付けていたルビーの指輪がキラリと光る。
大きく目を見開いた後に優しい笑みを浮かべた。
そして指輪にキスをしてから口を開く。
『………ありがとう、貴女のお陰よ』
「あ……?なんか言ったか」
「何でもないわ。次は私の番かしら……」
「……?」
ゆっくりと歩き出した。
足取りは軽い。
「機嫌良いな、どうしたんだ?」
「別に、何でもないわ……お腹が空いたの」
「おう、腹一杯食え」
「ふふっ」
end
続いてアマリリスとユリシーズの番外編になります!
もう少しだけ、お付き合い下さい




