09.絶望的な牢屋ライフ(5)
それでも嫌われているアマリリスの為に世話をしてくる侍女を探してくれたユリシーズの部下であるオマリや、恐らくアマリリスに何かあったのかと様子を見にきてくれたユリシーズは、今のアマリリスにとっては良い人に思えた。
それが仕事だったとしても命の恩人なのである。
(もしかして夢の中のアマリリスは、コルセットを外して欲しいっていうのを我慢していた……とか?)
記憶にあるアマリリスは、人に助けを求めることを一切しなかったのだろう。
(あの状態にずっと耐え続けたら、確かに死ぬ気がする……)
けれど今、夢の中のように死ぬ訳にはいかない。
それに別に誰かに世話をされなくても死ぬ訳じゃない。
道具さえあれば自分の事は自分で出来る。
侍女がいなくても問題ないではないか。
「ユリシーズ様」
「………なんだ」
「わたくし、侍女は必要ありません」
「!?」
「先程の騎士様を呼び戻してくださいませ。わたくしの為に頭を下げていただくのは申し訳ないです」
「……」
「わたくし、自分の事は自分で致しますわ」
つまりは単純な話で、侍女に迷惑掛けずに自分の事は自分でやればいいのだ。
「貴様……何を考えている」
「?」
「同情を引いて、俺を懐柔しようとしても無駄だぞ………アマリリス・リノヴェルタ」
(まさかのフルネーム呼び……)
そんな突っ込みは措いておいて、どれだけアマリリスが男性を籠絡していたのかは知らないが………いや、結構な数を捌いていたようだが、それは今のアマリリスには全く当てはまらない。
この世界に来るまでは常にお金の事を考えて過ごしてきたからか、今まで男性と付き合ったことはない。
そんな時間があったら仕事をしていた方が、お金になると思っていたからだ。
朝から晩まで働き通し…そもそも莫大な借金がある時点で距離を置かれてしまう。
蒸発した両親を恨んでいないと言えば嘘になるが、絶望していたところで借金は減らない。
幸い、借金取り達も特別金利で対応してくれていた。
(……私もアマリリスと同じ。今考えれば誰かに助けを求めたことなかったな)
けれどプライドの為に命を投げ捨てようと思った事はない。
籠絡籠絡うるさいユリシーズに向かって説得するように話しかける。
「こんな場所で籠絡したところで、今のわたくしに靡く殿方などおりませんわ……お先真っ暗ですもの。それともユリシーズ様が娶っていただけるのなら、沢山サービス致しますが………」
「……」
「……」
どうやらユリシーズにはブラックジョークも通じないようだ。
やはり記憶通りユリシーズは無口、というより無反応である。
「ゴッホン……それよりもユリシーズ様にお願いがございます」
「………なんだ」
「今から、わたくしが言うものを持って来て下さいませんか?」
「……」
ユリシーズは此方を観察するように見ている。
図々しかろうが、嫌われていようが関係ない。
これからここで暮らすのなら必要なものは沢山ある。
用意してくれるかは別として言うだけはタダである。
先程から胸元でドレスがずり落ちないように押さえながらユリシーズを見ていた。
それに、このままでは目の前の美味しそうなご飯が食べられないではないか。
「このままユリシーズ様の前で手を外してもいいならば別ですが」
今にも豊満なお胸が溢れ落ちそうである。
恐らく何を必要としているのかが分かったのか、ユリシーズは静かに頷いた。
「…………分かった」
「本当ですか!?」
「あぁ、致し方ない」
「ありがとうございます!ユリシーズ様」
「………」
「では、なんでも良いので着替え数着と、水を汲める桶とタオルと石鹸と、バケツに…」